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チョウチョから蝶へ

「ひなた短編文学賞」に応募し、見事落選となりました作品です。
このまま下書きで置いておくのは誠に忍びないので、皆様に一読頂こうと思います。
これからも負けじと公募に出していくぞ!!



「踊れるかな…」
いつもの夕食時、みんなの手が一斉に止まった。
だが皆は何も言わず、キヌさん特製鶏の唐揚げをひたすら咀嚼する音だけが響いていた。

ここはある一軒家。

夫を早くに亡くしたというキヌさん80歳を筆頭に、元証券マンをしていた私は40歳とロリータの美女カナコ30歳、ただいま高校受験真っ只中のミキとその弟で物静かな小学生リク、そして某強面俳優にも負けないオーラを放つ佐々木さん50歳が共に生活をしている。

そう、私たちに血のつながりはない。
ここは、簡単に拭う事ができない傷や悲しみを抱えている者同士が集まるシェアハウスなのだ。

そんな夕食も終わり、ソファでまどろんでいた時のことだ。

「ちょっといいか」佐々木さんが、鋭い眼光を向けながら声をかけてきた。「え?あ、はい…」醸し出す迫力に戸惑いつつ、2階へと上がる。「えっ…」思わず言葉を失った。眼前に飛び込んできたのは、燦々と光り輝いている一着のドレスと、並ぶように立っているみんなの嬉しそうな顔。佐々木さんが、ボソリと言う。

「これは、俺たちからのプレゼントだ」「プレゼント…?」

するとキヌさんが、おもむろに前に出てドレスのある素材を指差す。「これはね、亡き夫との思い出のエプロン。汚れはご愛敬ね」そう言って笑ってるキヨさん、以前は陶芸の仕事をしていたと言ったっけ。夫に旅立たれてから、それまで付き合いのあった人たちがあっけなく離れてしまったのだと涙をこぼしていた。キヨさんに向けて頭を下げると、今度はミキとリクの兄弟が前に出た。「これは、長い間リクが手放さなかったアレだよ」かつて二人は、祖母の介護に明け暮れていたヤングケアラー。長いこと行方知らずの実母が唯一残していった青いブラウスを、リクは片時も手放さなかったことはよく知っている。リクの頬に残る涙の跡を見て、無性に胸が熱くなった。

「さぁ~て、私はどこを担当したと思う?」企みを秘めた顔で、カナコは嬉しそうに聞いてきた。後ろの佐々木さんは、面白くなさそうな顔で俯いている。人々からの蔑まされる視線に耐えながらも、ロリータを貫いてきたカナコは、たとえ夜中だろうと徹夜明けだろうとミシンをカタカタ鳴らしていた。昔は生卵投げつけられたんだよねぇ〜と苦笑いで打ち明けてくれたこともあったっけ。

ということは…。「これって、カナコの手作り?」「ピンポーン!大正解。じゃあデザインを担当したのは誰だと思う?」恐る恐る、佐々木さんを見た。俯きがちの顔が心なしか緩んだように見える。

「佐々木さんですね」名前を呼ばれた彼の口元が、はにかんでいる。

かつては、有名な某ファッションブランドのデザイナーとして腕を振るっていた佐々木さんだが、ひどい裏切りに遭い、デザイナー界から姿を消してしまった。もう二度と服なんて作るもんかと、泣き叫んでいた姿は今でも忘れられない。このドレスは間違いなく、一人一人の過去からの「生まれ変わり」なんだ…。

カナコが言う。

「ねぇ自信持ってよ、キキさん。私たちは見たい。キキさんがこれを着て踊るところを。そして拍手喝采に包まれるキキさんを」

ドレスの表面を撫でる、アタシ。

「みんな…ありがとう」

アタシは生まれ変わる。

皆の思いのこもったドレスを纏って。ドラァグクイーンのキキとして、2丁目の夜へと羽ばたいていく。


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