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十五夜お月様と夜空に浮かぶ謎

古来より日本人は何かを見ながら酒を飲むのが好きである。春の「花見酒」、秋の「月見酒」、そして冬には「雪見酒」という具合である。

花見酒は桜が咲いている間の短い期間限定だし、月見酒も満月(十五夜)の夜に限られる。しかし雪見酒と言うのは何なら冬中ずっと飲めちゃうので、これは単なる酒飲みの言い訳という感じもする。

それはともかく、今年も秋の代表行事、月見の季節がやってきた。十五夜はその年々によって日にちが違うが、今年2023年の十五夜は9月29日とのことだ。しかし当日は会計年度月末日で超忙しくなるので、前日の28日に少しばかりの日本酒を買ってきて月を見ながら飲んでみた。続いた残暑でちっとも秋らしくなかったが、久しぶりに眺める月は美しかった。

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月の不思議

東京砂漠に住み、荒んだ心で俗世間を生きる俺。ゆっくりと月を眺めるのもずいぶん久しぶりだった。考えて見ると「十五夜」の由来も薄ぼんやりとしか知らないので改めて調べてみた。

十五夜とは
「十五夜」とは、旧暦の毎月15日の夜のこと。新月から満月までの月の満ち欠けの周期は15日周期で、旧暦では1日が新月、15日が満月となる。

十五夜が「中秋の名月」と呼ばれる理由は、旧暦の8月「中秋」に1年で最も月が美しく明るく見えるため。十五夜は「中秋の名月」を鑑賞しながら農作物などの収穫を月に感謝する行事も指す。

十五夜は、中国の「中秋節」という、月を眺めながらお茶や餅を食べる行事が発祥。平安時代に日本に伝えられた。当初、平安貴族にとって十五夜は月を見ながら宴会を楽しむ行事だったが、その後の庶民にとって十五夜は、作物の収穫を月に感謝したり豊作を祈ったりする日となった。

―― なるほど、歴史があるもんだな。

俺はベランダの窓を開け、窓辺に座り月を見上げると、ストイックな昭和の文豪っぽく片膝を立てたままグイっと杯を空けて、それっぽく眉間に皺を寄せて夜空を睨んでみた。

――「I love you.」を「月が綺麗ですね」と訳したのは夏目漱石だっただろうか、それとも二葉亭四迷だっただろうか。

それっぽい事を呟いてみる。しかしやっぱり俗世間を生きる俺。しばらくはそんな事を考えながら月を鑑賞していたが、そのうち無性に腹が減ってきた。

―― ここんところダイエット続きだったからな。今日くらいはなんか思いっきり食うか?

いや、昭和の文豪の頬はこけてなくてはいけない。俺は脂っこいものを食べたい気持ちを抑え、夜空に浮かぶ月を眺めもう一度思いを馳せてみた。

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考えてみれば月というのは我々にとって大変身近な存在である。毎日お目にかかる一番近い天体として昔から童話や SFに登場し、最近では近い将来の民間宇宙旅行の目的地にもなろうとしている。

この「つき」という名前の由来だが、太陽の「つぎ」に明るい No.2 の天体ということで「つぎ」が「つき」になったと言うのが有力なようだ。そしてこの月の満ち欠けの周期の約30日がベースになり「一カ月」という時間の単位ができたのである(大の月や小の月、閏月などを入れて微調整しているが)。

そしてそれが「月のもの」などと言う言葉に繋がって行く。小さい頃にテレビで「月のものが来ない」などと聞いた時には月光仮面のような人が来ない状況を想像したが、のちに大人になり全然違うものを指すことを知るのである。

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ところで月の話のついでだが、英語でいわゆる星を指す言葉がいくつかある。Star, Planet, Satellite などだが、結構これが間違った使われ方をされていることがある。ここに、ちょっとそんな話を挟んでおきたい。

ひとくちメモ
月は天文学的に分類すると衛星(Satellite)にあたる。そう、地球という惑星(Planet)の周りを回る星なので衛星である。当然だろうって? そう、そうなのだが、この星の分類、特に英語だとちょっと間違えやすいのでお節介とは知りつつついでにここに書いておきたい。

基本的に空に浮かぶ天体の代表的なものには次の三つがある。
Star(恒星)= 自ら光る天体(例:太陽)
Planet(惑星)= 太陽の周囲を回る自ら発光しない天体(例:地球、火星)
Satellite(衛星)= Planet の回りを回る天体(例:月)

そう、太陽は分類としては star なのである。ちょっと意外ではないだろうか。そして火星など太陽系の惑星を star と呼んだら間違いなのである。ちょっとこの辺、日頃からややこしいと思っていたのでよせばいいのだがちょっと書いて見たのである。

* 要点のみかなり雑に書いたので厳密な定義に興味のある方は Wikipedia などで確認されたし


さて、そんな蘊蓄うんちく話が済んだところで月にまつわる話である。こうして月に思いを巡らせていると色々と思い出すことがある。

アポロ計画陰謀論

皆さんも記憶にあると思うが、ある時期「実はアポロ11号は本当は月に行っていないのだ。あれは全部スタジオ撮影だったのである」と言う、アポロの月着陸は捏造だったという説が注目を浴びたことがある。

それに準じていくつかそのような映画も撮られて私もそれを見た記憶がある。また月面で撮影した様々な写真にもまことしやかな疑惑指摘コメントがつけられ、その説明にもそれなりに説得力があったため世間は陰謀論に傾いた。代表的な指摘は以下のようなものだった。

  • 月には空気がないのに旗がはためくのはおかしい!

  • 月の上にあるものの影が平行でなく色んな方向を向いているのはおかしい!

  • 宇宙空間に星がないのはおかしい!

  • 月の上を走る人の動作や飛び散る砂がスローモーションみたいでおかしい!

  • あんなに大々的に「人類の第一歩」などと騒いでいたのにそれから長い間月に行けなかったのはおかしい!

  • とにかくおかしい!

しかしその後、棒に吊るされた旗は逆に真空中の方が空気抵抗がなく慣性で動き続けやすいことが証明されたり、デバイスメーカーの Nvidia(エヌヴィディア) が最新の GPUでの演算で月での光の当たり方をシミュレーションしたところあの画像とほぼ同じ画像になった事などから、結局は「やっぱりちゃんと行っていたようです、ごめんねごめんねー」という U字工事的結論に今では落ち着いている。

そんな都市伝説的ゴシップが生まれるところも月の神秘性のなせる業だろう。

月の裏側

さらに月の不思議なところは、自転しているはずなのにいつも我々に同じ面しか見せないという点である。月の模様はいつも変わらない。自信のある側からしか写真を撮らせない京本政樹を思わせる。

なんでも、確かに自転(月自身の回転)はしているが公転(地球の周りを回る事)と周期が一致しているので、地球からはいつも同じ側が見えるのだと言う。

遠い昔は自転の方が速かったので地球から見える模様が変わっていたとのことだが、長い時間をかけて安定した結果、今の様にいつも同じ面を向けるようになったのだという。

そんな訳で、地球からは月の裏側が見えない。そんなところも我々が月を神秘的に思う理由のひとつだろう。

お隣の4000年の歴史を持つ国では、見えないことを良い事に、もう既に月の裏側に街を作っているのではないかなどという話も聞く。あながち嘘ではないかもしれない。もうその街の入り口には赤い大きな門が立っていて、その横では肉まんなどが売られているのかもしれない。

このように月も謎が尽きないが、最近 NASA が宇宙に浮かぶ別の謎を発見したと言う。

夜空に浮かぶ謎

その「謎」というのはこれである。正真正銘 NASA のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって捕らえられた最新画像なのだが、よく目を凝らして見て頂くと画像の真ん中程に何か見えないだろうか。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が撮影した画像(NASA, ESA, CSA 提供)


もうちょっと見やすいように拡大したのがコレである。そう、一体誰の気持ちを表したものなのかわからないが、夜空に浮かぶ「?」マークなのである。これを発見した人も「それはこっちが聞きたいわ」という気持ちだったのではないだろうか。

結構均整がとれていて美しい

一説によると、このクエスチョンマークは、銀河系から何十億光年も離れたところにあるものだと見られており、米宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)の研究者によると、このクエスチョンマークの正体は合体する2つの銀河なのではないかとのことである。

このような、銀河の合体はかなり頻繁に見られる現象で銀河の一生では何度も起きることであり、我々の銀河系である天の川銀河も例外ではなく、約40億年後にはアンドロメダ銀河と合体するのだと言う。

まあ、だいぶ先の話なので当面は心配する必要はなさそうだが、このように宇宙は謎だらけで一寸先は闇である。

と言う事で話を上手くまとめたつもりなのだが、この辺で今年の月見もお開きにしたい。

来年2024年の十五夜は9月15日との事だ。それまでには例の民間人初の月旅行が実現して、あの富豪が金にモノを言わせて月の一区画を買ったりしているかもしれないが、その頃にでも皆様とまた月に関するお話ができれば幸いである。


(了)

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