パーソナルトレーニングはメンタルに良い

退屈な休日出勤を終えて気持ちが疲弊した私は、今日という日をとり返さんとパーソナルトレーニングへ向かった。

パーソナルジムが入っているビルに着いた時点で汗は滝のように流れ、すでに運動後のように上がっている息を近くのコンビニで買ったアイスコーヒーで少し落ち着かせる。
歩行者の視覚を奪うほどに照りつけている当の太陽には死角は無く、建物に入るまで日陰で休むことも許されない。

ジム内に足を一歩踏み入れると、冷房がきいた天国だった。
汗が徐々にひいていき、スタイリッシュな内装でテンションは上がり、そしていつもながらなんだかオシャレないい香りまでして心地よい。先ほどまでは敵だった太陽も、筋肉のカットを最高の状態に演出する自然光となりジム内を柔らかく照らしている。
そうして、汗なんてかいたこともなさそうな爽やかな笑顔でトレーナーさん達が迎えてくれる。
男性も女性も全てのマッチョの笑顔は眩しいが、夏の太陽より優しくて爽やかだ。

プロに約1時間みっちりと指導してもらう筋トレは、日常的に一人で行う筋トレとは質がまるで違う。
しっかりと補助してもらえるため、安全に最後まで力を出し切り、追い込める。
一人だったらここで終わっていた、と思う場所からさらにもう一歩先まで進めるのは気持ちの面でも補助してもらえるからだろう。
「マシンの使い方間違っていないかな」「このフォームで合っているのかな」などの疑問を抱えたままで行うのとは違い、しっかりと正しいトレーニングができているという自信を持って全力で取り組めるのは気持ちの面で大きな支えとなる。
それに「あと1回!〇〇さんならできる!」と言われると、本当にできてしまったりする。

これまで会ったパーソナルトレーナーの方に共通して言えるのは、肉体やトレーニングに関する知識の点で頼りになるのはもちろんだが、明るくて前向きな言葉で接してくれるため元気をもらえることだ。
ただがむしゃらに明るいのではなく、思慮深さがあるのに前向きというのがチームスポーツをしている人の明るさと少し性質が異なるように思う。
あえて失礼な言葉を使うなら、私のようないわゆる「陰キャ」が少し安心するような静けさが陽キャのなかに見え隠れするといった感じだ。

トレーニングのセット間にはいる休憩中にする雑談はもちろん楽しいし、相談にも乗ってもらうこともある。
何より凄いのは、大人になってからこんなに褒めてもらうことなんてそうそうない、と感じるほどに成長に気づいて褒めてくれる。

「こんなに継続できるなんて才能しかないですね」
「このトレーニングすごく上手くなりましたね」
「体変わってきましたね」
「今日は特に背中がかっこいいですよ」

そんな言葉をシャワーのように浴びる。
あちこちで別のお客さんも褒め言葉つきのアドバイスを受けている。その空間は優しい言葉で満たされている。
自己肯定感の低い人間にとってはとんでもない環境だ。

最初は全て「いやいや私なんか」と言っていたが、全てを否定するのが難しいくらい褒めてくれるので、「そ、そうかな?ありがとね」くらいで最終的には受け入れてしまう。
自分よりも格段に長くトレーニングを重ね、努力を続けてコンテストにまで出ているトレーナーさん達が、あの手この手でモチベーションを維持してくれる。
減量中ふらふらになりながらトレーナーさん同士でも褒めあっている光景などは、見ていて微笑ましい。
本当に好きなことをしている人たちの熱量に触れられるというのは、楽しく続けていく環境として貴重なものだ。

一人で黙々と行うトレーニングも十分に楽しいが、誰かと行うトレーニングも付加価値があってまた楽しい。
友人との合同トレーニングであっても、同じように頑張る仲間に応援の声をかけ、互いの努力や成果をほめて刺激しあえる。
筋トレをしていると、全ての人の肉体にそれぞれ特徴があり、強みが違うだけで「みんな違ってみんな良い」と心から思えるようになる。

私は自分の価値観が変わったことに自分で気づいたときには、「自分の世界が拡がったんだ」と思うようにしている。
例え、これまでは「良い」と思っていたものをそう感じられなくなってしまった変化だとしても。
立場が変わったか、身を置く環境を変えたか、知らない世界を知るほど何かに打ち込んで学びを得たか——そのどれであっても、良い変化だと思いたい。

マッチョしか見られない世界を、30年後くらいに垣間見られていたら嬉しい。
気が長くなったのも、年齢と筋トレのもたらしたおそらく良い変化だろう。

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