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創作童話『不思議な車』


ライオンのレオンはその日、お母さんのお手伝いで、家の外を箒で掃除していました。
すると、一台の車がスーッと、レオンの家の前で止まりました。
運転していたのは、クマのマイケルでした。



「ドライブに行こう」
マイケルはレオンに言いました。
ふたりは親友です。
マイケルの車は、ピカピカの黄色いオープンカーでした。



「この車、どうしたんだい?」
レオンは車を眺めながら言いました。
「この間買ったのさ。さぁ、街中を走ろう」



黄色い車は、ふたりを乗せて勢いよく走り出しました。
マイケルはどんどんスピードを出します。
「ドライブなんて、久しぶりだよ。気持ちがいいねぇ」
レオンは嬉しそうに言いました。



「あ!レオン!たてがみの色が!」
マイケルが驚いてレオンの方を向き言いました。
「たてがみだって?」
レオンがサイドミラーを見ると、なんとそこにはグリーンのたてがみをしたライオンが映っているではありませんか。



「わぁ、ぼくのたてがみ、どうなっちゃったんだ!」
レオンは慌ててたてがみを梳かしましたが、色は変わりません。
「不思議だねぇ。でも、とっても綺麗だよ」
マイケルはクスクスと笑いながら言いました。
黄色い車はそのまま、街を一周しました。



車はレオンの家の前で止まりました。
ふたりが車を降りると、レオンのたてがみの色は元に戻りました。
「なんだったんだろう。きっと、この車のせいさ!」
「つぎは夜の街を走ってみよう。また色が変わったら、きっとこの車のせいだね」
マイケルはそう言うと、車に乗って帰っていきました。



次の日の夜、マイケルは黄色い車に乗ってレオンの家を訪ねました。
「さぁ、ドライブに行こう」
車はふたりを乗せて夜の街を走りました。
街灯やお店の明かりが目の前に広がります。



「あ!まただ!色が変わってる!」
レオンがサイドミラーを見ると、たてがみはきれいな赤色に染まっていました。
「わぁ!やっぱり、この車には不思議な力があるんだ!」
「まるで、ライオンの王様みたいだよ」
「そうかい?それにしても、なんだか、違う自分になったみたいだなぁ」
レオンは赤色のたてがみを、少し嬉しそうに撫でました。



街を一周して車を降りると、レオンのたてがみはまた元の色に戻りました。
「不思議な車を手に入れたんだねぇ、きみは!」
「こんな力があるとは知らなかったよ。またいつでも乗せてやるからね」
そう言ってマイケルは帰っていきました。



レオンが家に入ると、お父さんとお母さんがケンカをしているようでした。
ふたりはここのところ、しょっちゅう言い合いをしていました。
レオンは黙って部屋に入りじっとしていましたが、ふたりの声はそこまで聞こえてきます。



ガシャーン!
なにかの壊れる音がして、レオンはもう悲しい気持ちをこらえきれなくなりました。
窓から外に飛び出すと、急いでマイケルの元へ向かいました。



「どうしたんだい?こんな夜遅くに」
マイケルは驚いていましたが、心配でもありました。
「…きみの車で、遠くに連れて行ってくれないかい」
レオンは小さな声で言いました。
「きみの車には不思議な力がある。ぼくはきっと、別の誰かになれるし、遠い街で、ふたりで暮らそう」



レオンの目から大粒の涙が流れました。
マイケルはそれを聞くと、黙って車のドアを開けてやりました。
黄色い車が、夜の街を走っていきます。



車が街と街の堺に差し掛かったところで、マイケルが口を開きました。
「たてがみがどんな色に変わっても、きみはやっぱり、いつものレオンなんじゃないかなと、僕は思うんだ」
やさしい口調で、マイケルは続けます。
「姿を変えても、どこに行っても、悲しいことからは逃げられないんじゃあないかな」



レオンは黙っています。
しばらく経ったあと、マイケルは静かに、街へ向かって車をまた走らせました。



レオンのたてがみは、風の中で金色に輝いていました。




おしまい


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