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創作童話『どこまでも一緒』

シーズー犬のマイムは、その日もいつものように散歩をしていました。
マイムは、ふと訪れた教会の長い階段のふもとにある広場で、1匹のアリクイと出会いました。
アリクイは、ギターを弾きながら歌っています。
マイムには、アリクイの言葉が分かりませんでしたが、アリクイの鳴らすギターと歌を聴いていると、なんだか心がふわふわとしてくるのでした。


マイムは恐る恐るアリクイの隣に座りました。
アリクイは歌うのをやめません。
マイムはホッとして、アリクイのギターと歌に耳を傾けるのでした。
相変わらず言葉は分かりませんが、アリクイの歌はスッとマイムの心に入ってきます。
夕方になり、マイムはお家へ帰りました。
その日の夜、マイムはアリクイの歌を思い出しながら眠りにつきました。


来る日も来る日も、マイムはアリクイの歌を聴きに出かけました。
アリクイはいつも広場で歌っていました。
マイムが隣に座ってもお構いなしです。
マイムは、アリクイとお喋りしてみたい気持ちもありましたが、きっと言葉が通じないし、アリクイに歌うのをやめて欲しくなかったので、じっと隣で歌を聴いていたのでした。


歌を聴きながら、マイムは街ゆく動物たちを眺めていました。
綺麗なドレスを着たネズミ、ピカピカの車、学校帰りのカエルたち、クマの親子…
動物たちには、それぞれの物語があるようでした。
突然、マイムの目からポロポロと涙がこぼれました。
マイムが泣き出しても、アリクイは気がつかないのか、歌うのをやめません。
アリクイの歌が、ひたひたと心を満たしていき、マイムは余計にポロポロと泣くのでした。


マイムにも、眠れない夜があります。
何年も前にいなくなってしまったお母さんを思い出して、眠れなくなってしまうのです。
お母さんが歌ってくれた子守唄を思い出そうとしましたが、どうしてもメロディーが浮かんできません。
その次に、アリクイの歌を思い出そうとしましたが、それもできませんでした。


次の日、何週間ぶりかの大雨が降りました。
マイムは、大きな草の傘をさして広場に向かいましたが、アリクイの姿はどこにもありません。
マイムは、もう眠れない夜は嫌でした。
どうしても、アリクイの歌に、そばにいてほしかったのです。


すると、どこからか、アリクイのギターと歌がかすかに聴こえてきます。
マイムは歌のする方へ向かっていきました。
アリクイは、長い長い階段の上、教会の入り口で歌っていました。そこは屋根があって、雨も降り込んできません。


マイムは嬉しくなって、アリクイのギターと歌に合わせて踊り始めました。
言葉が分からなくても、アリクイの音楽がそこにあるだけで、マイムには十分でした。


雨が上がり、大きな大きな虹がかかりました。アリクイは歌いながらおもむろに立ち上がると、虹の橋を渡っていきました。
マイムも踊りながら追いかけます。
雨上がりの空に、アリクイの歌とマイムのステップを踏む音が響き渡ったのでした。



おしまい

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