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Silver Bulletはない!新任マネージャーがぶつかる壁

ウォーフォータレントの時代において、多くの組織で、経営と現場を接続するミドルマネジメントが不足しています。

そして、個人のキャリアにおいてもマネジメント経験が重宝されるものの、個人では解決が難しいさまざまな課題の板挟みになる苦難から挫折したり、そもそもマネージャーになりたくない症候群が増えたり、と需要と供給が崩れていることが実情ではないでしょうか。

私自身もマネジメントを約3年を経験していく中で、「これさえやればOK!」との効果的な解決策を比喩するSilver Bulletは存在しないのだと痛感することばかり‥

直近、新任マネージャにアドバイスをする際にも、恐ろしいほど暗黙知になっており、言語化しきれずに伝えきれないことが多くありました。

役割責任に比例して変数も増えていきますが、仕事は予測可能性が全てであるため、マネジメントのノウハウを形式知化することには、価値があると考えて、新任マネージャーがぶつかる壁をまとめてみました!


(1)マネジメントタイプ

まずマネジメントを役割責任に応じて下記の4種で整理します。

①チューター(育成担当):
新入社員や若手社員に仕事をする上で必要なことを指導する役割。
個人の成長にフォーカスすることが特徴。

②プロジェクトマネジメント:
事業戦略上、特定の目標を達成するために計画を立て、リソースアロケーション通じて、目標達成のために完遂責任を担う役割。
予算調整やリスク管理、ステークホルダーの調整などプロジェクトを効果的に進行させるために部門横断の役割が生じることが特徴。

③ラインマネジメント:
事業目標の達成に向けて効率的に組織が機能するように日常の業務遂行の目標管理を担う役割。
パフォーマンス管理のみならず就労状態、インシデント/アクシデントのリスク対応責任など管掌チームの大半の出来事に責任を持ち、メンバーの評価責任を持つことが特徴。

④事業責任者:
特定事業の全てに管理責任を持つ役割。
経営目標達成のために、事業戦略の策定や組織設計、指標管理、情報集約/統制、ガバナンスなど予算管理のために必要な権限が移譲されると同時に相当の責任を持つ最後の砦となることが特徴。



特に予算責任と評価責任の有無によって、重圧が異なるため、日々考えるべきことも全く異なり、難易度と経験値は格段に高まります。

ドラッカーや稲盛和夫さんも、飛び石を打たずに実力に合った適切な期待値で役割を任命していくことの重要性を説いていますが、マネジメントを担う人が潰れると、ドミノ倒しで任されているメンバー陣も倒れてしまうため、負荷に対する耐性を日進月歩で高めていくことが大事です。

(2)マネージャーの壁

下記に、私自身がマネジメントを試行錯誤する中で意識しているポイントを整理しました。

書き出してみると、思っていた以上にやることが多くあり、まだまだ十分ではないこともありますが、だからこそ指針として意識しているか、していないかで日々の変化は変わると感じます。

マネジメントに挑戦している、しようとしている方々向けに参考になることがあれば幸いです。

01.地図を描くべし

ただの集団ではなく共通目的を持つチームとして機能させるためには、下記のように誰が何をすると共通目的の達成に繋がるのかを描くことが重要です。

①個人別の力量を把握し、
②目標達成のための要因を分析して先行指標(行動KPI)に落とし込み、
③進捗をモニタリングする。
④そして、遅行指標(リードタイムや転換率など)を分析して、再度、先行指標を磨く。


ex)売上目標達成のロジックツリーを単価×件数で示して、個人の平均単価目標と件数目標のコミットメントを握る。

02.ボスマネジメントすべし

組織で動く以上、目標は経営目標からブレイクダウンしたものを担うことが前提となるため、自チームの力量に応じた目標をどこまで持つかのすり合わせが勝負所となります。
この際、自チーム視点のみでは、上位目標とすり合わせができないため、上長が目指していることや抱える悩みを確認した上で、協力的にすり合わせることがポイントです。

ex)一人当たり500万円/月の売上責任を持てるメンバーが5人いるチームで、5,000万円/月のチーム目標を担っても達成できる可能性が乏しくチーム崩壊にしやすくなるため、自チームの実力値に合わせたストレッチ目標と事業部の予算を上長とすり合わせる。

03. 共通言語を持つべし

共通目的に対するチームの一体感を持つためには、相互にフィードバックをして歩調を合わせる必要があります。
そのために、下記のような工夫を通じてキーワードを設定して、日々の目的コミュニケーションに取り入れることがポイントです。

①何のためにやっているのか、社会的な意義と接続して価値観を揃える
②チームの成果や状態で定期的に振り返り、あるべき基準を揃える


往々にして共通言語を定めるまでは盛り上がりやすいものの、次第に使われる場面が減り、1~2ヶ月で形骸化してしまうため、浸透定着できるように日常的に活用することや、状況に応じて刷新がすることも必要になります。

ex)やり切り力が弱いことがチームの課題として、「粘り強く」をキーワードとして声を掛け合う。

プライミング効果について

04.心理的安全性を築くべし

人が変化にするには自分で気付きを得るか、周囲から気付きを得るのか、どちらかが不可欠ですが、後者の前提にはフィードバックを聞く耳を持たせるために下記の状態を示す心理的安全性を築くことが必要です。
人は心に余裕がない状態では人の話を受け入れられないことを肝に銘じなければなりません。

A.ネガティブではなく適度なプレッシャーを受けられ、自分らしくいられる状態
B.お互いに高め合える関係を持って建設的な意見の対立が活発化している状態


注意点は心理的安全性はゴールではなく生産性を高めるための手段であることです。

ex)自分の意見を発信する機会をチームミーティングで設ける。

05.自律を養うべし

目標達成のためには各個人の実行力と成長が不可欠となりますが、他者からのサポートが常に受けられる状態を作ることは不可能であり、外発的動機づけでは限界があります。
そのために、自ら「やりたい」、「やるべき」と自己統制できるように、振り返りや宣言の機会を設けることで言語化をサポートして自己成長感をフォローすることが有効です。

ex)小さなことでも成長体験や悩み、目標のアイデアが記録できる1on1シートを作成する。

ピークエンドの法則について

06.権威を磨くべし

人は何を言われるかよりも誰に言われるかによって受け取り方が異なるため、相手の変化のきっかけを届けられるように説得力のある存在になるための工夫が重要です。
プレイヤーとしての突き抜けた成果を残す、他者には真似し得ないスキルを有している、もしくは何でも器用にこなせる総合力を持つ、はたまたサイバーエージェント藤田晋さんが説くように短い言葉で多くの人が「なるほど」と思える自分ならではの言葉を開発するといったことができます。
「この人なら信じられる」との言行一致が大前提となります。

ex)KPI強化月間でランキング上位の成果を残した上で行動改善のアドバイスをする。

07.観察すべし

稲盛和夫さんはマネジメントは心理学者であるべきと説いています。
評価責任のために行動と成果を観察することも大切ですが、人にはそれぞれの感情があるため、主観で決めつけずに動機づけをするためには、些細な変化を捉えることがポイントになります
気付かぬうちに、無理をさせてしまったり、中弛みさせてしまっていては、人を活かすことができません。

ex)日々の発言が1か月前と変化がないかを確認して、異変があれば対話する。

ピグマリオン効果について

08.バリューと接続すべし

バリューは組織のカルチャーの土台となる日々の行動の指針となりますが、些細な解釈のズレが気付かぬうちに生じやすく、それによってカルチャーが薄まっていくことがあるため、日常の業務管理を担うマネジメントによってバリューと接続できるよう工夫することが競争優位性のために重要となります。
バリューが言葉尻だけで解釈されないようにするためには、そもそもの会社のコアコンピタンスを理解して、バリューがなぜ必要なのかを説明できる必要があるでしょう。

ex)他者のバリュー実践例を理由とともにアウトプットする機会を設けて、バリュー体現の目的をディスカッションする。

09.インタラクションを起こすべし

ピープルアナリティクスの分野において休憩時の雑談が生産性を高めるとの研究結果がいくつも出されています。
共通目的に対して各個人が自分の目標を追いかけるだけか、積極的に目標達成のためのコツを共有し合い、フィードバックし合うかで日々の進捗率は異なるため、インタラクションを起こすためのチームビルディングは軽視できません。
集団内では考え方の相違から対立が生じやすいものです。メンバー同士の横のつながりを強固にするためには、不平不満につながるような特別扱いに注意したり、チーム方針に合わせた判断基準を明示することがポイントになります。

ex)各メンバーの目標と課題を共有してフィードバックするワークをチームMTGで行い、日常のコミュニケーションの話題をつくる。

返報性の原理について

10.任せ方にこだわるべし

業務運営を円滑に進めることや、成長の機会づくりとして、さまざまな役割をメンバーに任せていくことは大事な検討事項となりますが、あくまでチームの成果の最大化が主目的であることを忘れてはなりません。
任せることは簡単であるものの、主体性を引き出せずにやらされ感で任せると、驕りや言い訳の原因になり逆効果になるため、任せ方は工夫する必要があります。
また、任せることと放任も違います。

ex)次のマネジメント候補としての期待とゴールイメージを握った上でチームの業績管理を任せる。

自己決定理論について

11.クリティカルパスを導くべし

マネジメントは、自分の行動→成果のプレイヤー時代と異なり、自分の判断+実行フォロー→チーム成果に責任を持つことを肝に銘じて、クリティカルパスを導くための思考整理とコミュニケーションに時間を投じることがポイントです。
ボトルネックを見越して動くのか、成り行きで動くのかではチームの成果に大きな差が生じるため、全体を俯瞰して戦略を考える自分の時間を確保することも大事な責務となります。
報連相先のマネジメントが忙殺されると、業務運営をスタックさせてしまい、メンバーの活躍機会すらも奪ってしまいます。

ex)複数メンバーのスケジューリングが必要な新規アサイメントの合意形成のため、素案を2週間前に整理して、会議の1週間前には関係者に頭出し、決議後の対応予定を抑えておく。

12.社内の人的ネットワークを駆使すべし

マスクが溢れるほど社内コミュニケーションが疎かになりやすくなりますが、チームパフォーマンスのために社内人脈の活用は重要です。
まずメンバーの機会づくりや、チーム外の役割のアサイメントにおいては利害関係が生じることがあるため、社内交渉力を持つことが重要になります。
また、育成においても、関係が長いほど指摘に慣れが生じて効果が薄まるため、他マネージャーや先輩社員の斜めからのフィードバックは新しい刺激として有効です。
日頃から社内の協力を得られるよう誠実な振る舞いが大事と言えるでしょう。

ex)期待をかけているAさんのリーダーシップ開発のために、事業部の重要プロジェクトにアサイメントし、プロジェクトオーナーと育成プランをすり合わせる。

ウィンザー効果について

13.社外の人的ネットワークを駆使すべし

人は記憶に残るほどの刺激によって変化が生じるため、育成のために機会提供は有効です。
一方、ただ創れる機会を提供するだけでは”記憶に残るほど”にはなりづらく、個性や状況に合わせた機会提供に効果が変わります。
アポを取ることにも、繋がった人的ネットワークをメンテナンスにも相応の意志がなければ日常に流されて実行できないため、提供できる機会の手札を増やすことに強い目的意識を持つことが必要です。

ex)Aさんの中長期目標のアップデートのために関連する領域のスペシャリストとの交流会を企画する。

14.ワークライフブレンドを示すべし

重要度は人それぞれの程度があれど、どんな人も仕事はあくまで人生の一部です。
個人ではハードワークが大丈夫でも、それを見たメンバーのモチベーションを低下させ、工数を増やしてしまうと元の子もないため、周囲に理想の働き方だと思わせるよう、生産性を高める努力や、仕事の価値を楽しむことが大切です。

ex)目的思考で不要な仕事を簡略化したり、廃止したりすることで、家族との時間を確保できている姿を示す。

15.コンディション管理に責任を持つべし

マネジメントは他者の行動に対する判断を担い、その結果責任を持つ役割がありますが、人の判断力はコンディションに影響を受けるため、いつ何時も適切な判断ができるよう自分のコンディション管理に努める必要があります。
自律神経の整える生活リズムをつくり、自分の最大パフォーマンスの状態を知り仕事のペース配分を工夫することが大事です。

ex)仕事のリズムに合わせた運動習慣や食生活を工夫する。

ソマティックマーカー仮説について

16.メンバーの諫言を取り入れるべし

完璧な人間は存在しないことを自覚して、自己変革ができる存在でなければなりません。
メンバーからの意見を聞き入れずに、言っても無駄だと思わせると、次第に諫言がなくなり、裏で言われ始めてネガディブムードが蔓延してしまいます。
一方、人は言葉に出すほどその主張が強まるため、安易に不満は口出さないように牽制することもチームの規律のために重要な観点です。

ex)チームを牽引するメンバーと理想のチームを協議して自分のマネジメントの課題を確認する。

17.リスクは未然に防ぐべし

あらゆる問題の責任を持つマネジメントは、自チームで問題が発生する度に対応工数が増えていきます。
その場限りの対応せず、問題が発生する思考/行動プロセスを特定して、火災の元凶を断つことが重要です。
また、ある程度の予測ができていれば冷静に対応できるため、場数を踏むことも必要です。

ex)苦情の事例を共有して、コミュニケーション技法を見直すワークを実施する。

18.器を広げるべし

人には人の成長曲線があるため課題解決に向かうにも根気が必要であり、人の悩み事を聞くにも自分自身の気持ちの余裕が必要です。
得てしてマネジメントの利他心や努力は当たり前だと受け取れやすく、一方的なGiverになっていると虚無感に苛まれることがありますが、
1人では成し遂げられないことの目的のために必要な過程だと受け止め、器を広げられるかが勝負です。
そのためには、苦難の先の景色を想像するために、社内外にメンターを持つことが有効です。

ex)社外ネットワークを広げて1世代上のメンターをつくる。

田坂広志さんの著書『なぜ、我々はマネジメントの道を歩むのか』も器を広げることの意義を考える上でお勧めです。

19.頼れる存在であるべし

この人がいれば何とかなる安心感を普段の振る舞いから作ることが重要です。
安心感がなければネガティブな情報や本音を隠されてしまいます。
仕事は借り物競走であるため、周囲の力を活用できる総合力を持ち、先陣も切れ、殿も守れる実行力を高めること、マネジメントとしての自分の人格をつくるためのブランディングが必要な努力となります。

ex)難しい交渉で関係各所と率先して対話して着地させる。

20.インテグリティ(真摯さ)を持つべし

あらゆるマネジメントの書籍で選択と集中の重要度が説かれていますが、履き違えてはいけないことは、自分の仕事を減らそうと報連相を軽視して、必要以上に相手の仕事を増やすことです。
また、マネジメントは他者の力を活かして成果を出すものであるため、個人の成果ではなくチームの成果であることを見失って自分の手柄にしてはなりません。
仕事は常に他者の存在があるため、上に立つほど自分に厳しく、社会や組織、チームのためとのインテグリティを行動で示す必要があります。

ex)チームの成果を取り上げる際には個人の貢献を具体的エピソードと共に発信する。

21.One to Oneコミュニケーションに強くなるべし

育成や評価通知、目標設定も、社内調整も、社外交渉もOne to Oneコミュニケーションの勝負強さが命運を分けます。
目的を持った判断軸、状況や相手を理解した上でゴールイメージを持って限られた時間でコトを前に進める力が重要です。
往々にして、表面的であったり型にはまったコミュニケーションでは人を動かすことはできず、得意不得意、好き嫌いがあろうが、対話からは逃げられません。

ex)メンバーの強み弱みと過程を理解して、心の琴線に触れる言葉を考え抜く。


以上のように、やることが多い、言い換えると努力次第でできることが多いことがマネジメント力を高められる可能性を示しています。

市場の成長性に起因したモメンタムが終わったとしても、事業を伸ばせるかは組織のマネジメント力が鍵となるのではないでしょうか。

マネジメントは責任が増えて困難なことも伴いますが、耐性をしっかりとつけ、チームをリードすることができれば、人の成長を目の当たりにすることもでき、1人では成し遂げられないことに挑戦ができるので、再現性のあるマネジメント力を高める努力は個人にとっても、組織にとってもメリットがあります。

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