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副操縦士デビューしました¥

入社してから早や4カ月、長かったライントレーニング(飛行機でやるOJTのこと。専用の資格を持ったトレーニングキャプテンと、訓練中の副操縦士として乗務する)を終えてこの度、正式に副操縦士となる発令を受けた。これで、晴れてトレーニングキャプテンではなく、一般のラインキャプテンと飛んでもまぁ安心だね、と認定されたことになる。

今回のライントレーニングを通して、重要な発見はふたつあった。ひとつは、カレンシーって大事だねという話と、もうひとつは、教えるのってやっぱ難しいよなあ、という話。

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カレンシーっていっても、通貨のことじゃない。最近、どれだけ頻繁に飛んでるか、という話だ。パイロットが免許の効力を発揮するためには、直近の3カ月以内にこれとこれをこのくらいの時間やらなければいけない、というルールが設定されている。

例えば、自家用操縦士の資格を持つ人が、セスナを所有していたとする(金持ちだね)。長いこと飛んでなくて、ある日突然友達を載せて遊覧でもいくか、ってなったときに、パイロットにはまず地上で確認することがある。それは、自分のログブック(飛行経験の記録)を開いて、90日以内に同型の飛行機で3回以上離陸と着陸*をしているかどうかを確かめることだ。していない場合は、一時的に自家用操縦士の効力を法律が止めている状態になるのだ。(*条件の詳細は国によって違うかも。どこも似たようなものだろうけど。)

自家用操縦士の効力というのは、単純に言えば「他人を乗せて、飛行機を操縦すること」なので、この場合は「誰も乗せずに、3回離着陸」をすれば効力が自動的に復活する。たとえて言えば、「3カ月以内にスーパーでケツから駐車していない場合は、助手席に人を乗せて運転してはいけません」みたいなルールがある世界を想像してほしい。誰も乗せずに三回駐車して、初めて人を乗せられる。でも、免許自体が失効しているわけではない。

小型機の教官だったとき(この場合は事業用操縦士だが基本的に同じこと)も、ある一つの機種に固まって教えている時期が長かったりすると、こっちの機種ではカレントだけど、あっちの機種のカレントが切れている、という状態がたまに発生した。前述の世界の例でいうと、レガシーでは駐車した経験足りてるんだけど、2台目のジムニーはずっと乗ってなくてちょっくら三回駐車しにヤオコーに行ってきます!みたいな。仕事をするのに必要なので、堂々と自分だけでタッチアンドゴーを楽しんだものだし、長い休みの後でも別になんてことなかったが、今回は違った。

8月の初旬に飛行機そのものの操縦資格である、「タイプレーティング」が終わって、予定では9月くらいには(ライン)デビューだね、なんて言っていたのに、この通り十月の初旬になってしまった。何しろ、間にほぼ2週間飛ばない日があったのだ。上記では法律的な意味でのカレンシーを説明したが、今回のそれは3カ月どころか、2週間飛んでないだけで私の体は覚えた技術を赤さびだらけにしてしまっていた。

飛ぶ前は、できるだろう、と思っていたのに、今までできていたことができなくなっていた。いや、正確にはできるんだけど、思い出すのに少し時間がかかる状態だった。ちゃんとメンテされていない日本刀みたいな感じか。錆が浮いて、いざ闘おうってときになまくらになってしまっているのだ。研げば切れ味は戻る。でも、まさか待ったなしの試合中に相手に「刀を研ぐから待ってくれ」なんて言えるはずがない。飛行機は空中では止まれない。浮き上がってしまったら待ったなしという点で同じことだ。

コンスタントに飛ぶことで、ルーティンに頭を使わない状態をキープしているんだということに気づいた。久しぶりに飛ぶと、いつもは労せずにポンポン出てきたアクションが、ちょっと頭の回路を通さないと出てこなくなって、遅れたり、忘れたりする。で、それがほかに影響する。

逆を言えば、コンスタントに飛ぶことで、一定の技量は維持できるということだ。最初のほうはあまり長い休みとならないようにロスター(飛行割)を組んでもらったほうがいいかもしれない。

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