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【大反省】 酒乱ゲロチュー[前編]

お客様とカウンセラー様をつなぐマッチングアプリ Bloste (ブロステ)
代表の橋本なずなです。

ねぇ、私いま、キッチンの床にしゃがみこんで梅干しを無心で頬張ってるんだけどさ
昨夜の記憶がないって話聞いてくれる?

——— 1月6日(金)7:00 PM

今日は私の大好きな(尊敬の意)先輩とご飯。
先輩は2年ほど前に知人の紹介で知り合って、以後、ゆるーく仲良くさせてもらっている。
先輩は私より2つ年上で、拠点は東京、今は会社を経営している。
先輩の活動は特集に取り上げられたり、有名な芸能人と共演をしていたり、その活躍は目まぐるしい。

何故か、私はそんな立派な先輩に起業時は特にお世話になっていた。

私の事業について、相談に乗ってもらったり意見をもらったり。
私が先輩に返せるものなんてないのに、先輩は常に良くしてくれた。
神様かな?なんて思っている。

起業して2年。そんな先輩を相手に、私も少しは胸を張って報告できる活動が増えてきた。

早く来ないかな… とワクワク、ドキドキしながら、待ち合わせ場所の御堂筋線なんば駅で先輩を待つ。

『なずなちゃん、ごめん、お待たせ!迷っちゃった!』
『せんぱーいっ!お久しぶりです!』

難波で名店(らしい)のお好み焼き屋さんに行って、カウンター席で二人、ビールジョッキをカチンと鳴らせば宴のはじまりはじまり。

『最近どう?順調?制作もしてるよね、凄いね』
「ちょ、ちょっと待ってください。制作は確かにそうなんですけど、それ私のメインの話題なんで、、もっと前菜から話しましょう?」
『前菜か、、家で飼ってるうさぎ可愛いよね、とか?笑』
「あー、はい笑  可愛いでしょ、うちの子たち」

そんな他愛のない会話で場を温めつつ、近況や仕事などざっくばらんに話をした。

先輩は出会った頃から一貫して志は変わっておらず、環境による不平等を無くす未来を描いている。
志の実現のための第一フェーズが現在の事業なだけで、その形態は今後変化していくのだと云う。
そんな先輩は私の思う起業家の理想像であり、憧れだった。

私が最近思うことの一つとして、私は起業家ではなく社会活動家である、ということ。

起業家というと、会社を設立して資金調達して、人を雇って、仲間たちと力を合わせてってイメージ。
だけど私は、法人化にしたのはアプリの申請に必要だったからで、人の指示で動きたくないから起業した。それなのに、資金調達をすることで出資者や株主の意向に沿わなきゃいけなくなるなんて御免だ。
できれば人も雇いたくないし、仲間は欲しいが、あれこれ考えると一人が楽だという結論にいつも至る。

それに私は必ずしもビジネスをしたいわけではなくて、自分の経験や考えを発信することが好きなのだ。
それが人の救いになったり共感を生んだり、面白いと感じてくれる人が居ると嬉しい。

だから ”なりなかったけどなれなかった起業家の理想像” が、まさに今の先輩なのだ。

それ故に時折、先輩の活躍を手放しに喜べない自分がいたことも話した。

「複雑な時期もあったけど、私は私なりに花を咲かせられるようになった気がしていて。今は少し自分に自信も持てています」
『うん、そうだね。俺もその方がなずなちゃんらしい気がする』

先輩は優しい。いつも否定はしない、だけど意見はくれるんだよな。その塩梅が上手だ。

「あ、そうだ。彼氏と別れたんですよ」
『え、そうなの?なんで別れちゃったの?』
「うーん、、2年半付き合ってて、家族みたいになっちゃって。男女に戻れなかったんですよね」
『2年半か!長いね』

「まぁ、でも、これまで先輩と夜にご飯とか行けなかったのも、彼が良い顔しなかったからなんで。お酒とか飲まない人だったから凄く心配されて」
『あ、そうだったんだ。確かに。今までランチとかだったもんね』

先輩とはこれまで朝や昼に会うことが殆どで、夜飲みに出掛けるなどはしたことがなかった。
当時お付き合いをしていたパートナーが心配性で、男性と飲みに行くことを許してもらえなかったからだ。
唯一、先輩と飲んだといえば、東京と大阪から “ZOOM飲み会” をしたことがあった。しかしこれでさえ、パートナーは嫉妬で不機嫌になっていた。

「だから嬉しいんです、先輩とこんな風にお酒が飲めることが。あっ、なんなら出会った時、私、未成年だった気がするし?」
『そっかそっか、未成年だったからね?』

美味しい粉モンでお腹を満たした後、二軒目は雰囲気の良い立ち飲み屋さんに入った。
炭で焼かれる焼き鳥串を目にしながら、熱燗、冷酒をぐびぐびと飲む。

「はぁぁぁっ…!ウマい!お酒を飲む為に、この為に毎日生きてる!」
『えっ、なんか中にオジサン入ってる?笑』
「実は…って、おい!オジサン出てこないから!ちゃんと22歳だから!」

『いやぁ、でも恋愛って難しいよね、ホント』
「お?と言うと?」

それから先輩の直近の恋愛の話を訊いた。
愛の深いパートナーさんだったようで “身体に自分(彼女)の名前のタトゥーを掘ってほしい” と言われたらしい。
やっば!と笑いながら、人の恋愛話を肴に飲むお酒は一層美味しい。

賑やかな空気の一軒目、二軒目を後にして、三軒目に訪れたのは細い路地の中にある洒落たバー。
ビール(間にチューハイ)に日本酒と来れば、次はワイン。私は赤ワインを、先輩はウイスキーをロックで飲んでいた。

今思うと、もうこの頃には “ええ具合” だった。
お酒も一緒に楽しめるし、真剣に話すこともボケることもできて、居心地が良い。

何より 女性起業家はモテない という話をした時に『そんなのを気にする男は大した奴じゃないよ』と言ってくれて、心がスッと救われた。
本当に凄い人はそんなこと気にしないよな、と、ある意味それが今後の恋愛の判断材料になるような気がした。

やっぱり先輩大好き(尊敬の意)だなぁ、と心のなかで思っていた。

『じゃあ、なずなちゃん、今年は彼氏つくるの?』
「はいっ、彼氏募集中です!なので良い人いたら紹介してください!あっ、先輩が立候補してくれても良いですよ?」
『えっ、じゃあ、俺どう?』
「えー、いやいや、冗談ですって!からかわないでください笑」

『スルーされたんだけどー』と、落ち着いた声で、少し不満そうにもう一度話を振られたけれど、何故か私は笑って誤魔化してしまった。

いや、先輩が嫌いとかじゃない、男性として見れないわけでもない。
暫くパートナーがいたから、先輩をそういう目で見たことがなかった。
ただ、先輩があまりに立派に活躍していて、生き方も志もカッコ良いから、私なんて… と珍しく委縮してしまったのだ。

それに、どうせ、からかっただけでしょう?

そう思いながらワインを飲み干して、ふと隣に座る先輩を見た。

(エッッッッッ・・・・・ッロ!!)

ウイスキーをロックで、溶かしながら飲む姿がエロい、いや、官能的。
先輩の上品さと色気が、その場の空気に溶けて馴染んでいく。まるで小説の1ページかのような、ドラマチックでロマンチックな官能的な横顔。

先輩、、かっこいい(尊敬の意)っす…!!

そんな情景にも酔ってしまったのだろうな、この辺りから記憶がない。

——— 1月7日(土)12:30 PM

そして今、私はお風呂が溜まるのを待ちながら、薄暗い自宅のキッチンでひたすらに梅干しを頬張っている。
何故か、私は今朝、自分の布団で目が覚めた。昨夜着ていたコートや荷物は散乱していて、服は脱ぎっぱなし、下着姿だったけれど、どうにか帰宅したようだった。

先輩は、、いない。
LINEを見ると『なずなちゃん、おはよ!』『ちゃんと眠れた?大丈夫?』とメッセージが入っていた。

うーんっ、分からない。どうやって帰って来たんだ?先輩とはどうやって解散したんだ?

あの後、四軒目に行ったような気がするが、ここで問題が一つ。

私そこで先輩にキス、した…?

- つづく-

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