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断捨離してはいけないもの

ケータイの電話帳を眺めていると二度と行かないであろう店の電話番号や、遙か昔の職場の電話番号などがあったので、1つずつ整理して消していた。すると8年前の東日本大震災の時に、東京から仕事で来ていて毎日被災地で顔を合わせていたTさんの電話番号が目に入った。

Tさんは今は60才を超えた私からみれば父ほどの年の人だったが、気さくな人がらとフランクさで人見知りの私もすぐに打ち解け、人生相談までする仲になった。約2年間、顔を合わせていたが震災復興の流れが緩やかになっていき、だんだんと顔を合わせる機会も減り、そのまま会わなくなっていた。

今までの自分なら、懐かしさを噛みしめて電話番号を消していただろう。でも、勇気を出して電話をかけてみた。

時の流れを感じた。電話に出てくれたTさんの声は前のように元気だった。しかし、話すにつれ奥さんが脳梗塞になり24時間介護が必要になったこと、仕事は奥さんがデイサービスに行っている間の限られた時間に出来る仕事に転職したこと、など大変な変化があったのを聞いた。

なのにTさんは朗らかだった。奥さんが24時間介護が必要になった時はショックで金銭的にも追い詰められマンションも手放したけど、何だかんだで周りの人が助けてくれた、息子もたまに帰ってきて自分が見てるからオヤジ少し休めと言ってくれる。かえって幸せを感じることが多くなったよ。と言っていた。そして、何よりこうやって電話してくれて本当に嬉しいのよ~。と久しぶりの友達との電話のようにはしゃいでいた。

泣けてきた。

お互いまた電話しよう、と約束して電話を切った。

電話をかけただけのほんの小さな行動だけど心が揺さぶられる経験だった。

世の中、断捨離ブームだか捨ててはいけないものも確かにあった。

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