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坂本龍一 Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022 配信ライブに想う

なんと清い、なんて静謐な「戦場のメリークリスマス」だろう。
これまで何十回、いや何百回と聴いてきたはずなのに。

今日の「戦メリ」は美しすぎて悲しくなる。初めて聴いた子どもの頃を思い出し、音楽と併走し続けた自分のこれまでが、走馬灯のように駆け巡る。

坂本龍一の骨ばった手の甲と節の目立つ指。
年月が流れたことを実感する。そりゃそうだ。わたしも初めて見たときの教授の年齢を超えているのだもの。
年齢を重ねた彼の指から紡ぎ出される音は、まろやかで丸い。水滴が落ちるかのように心の深い場所にスッとしみこんでいく。

映画「ラストエンペラー」を父に頼んで映画館に連れて行ってもらったのは、小学生の時だっただろうか。
世界にはこんなにも心を揺さぶる美しい音楽があるのか!と胸が苦しくなった。

浮遊感のあるコード進行と美しいメロディーが大好きで、何度もなんどもピアノで音を追った。「戦場のメリークリスマス」も聴いてみると、たちどころに心をわしづかみにされたのを覚えている。

数年たち、わたしがYMOを聴き始めたころには、教授は既に「世界のサカモト」として活躍していた。歌番組やバラエティに出演し、タレントや俳優としてもスターダムを駆け上がっていく様子を、リアルタイムで目撃できなかったことは残念だった。「もう少し早く生まれていれば」と思ったくらいだ。

人生の機微も何もかも知らないほんの子どもだというのに、聴けば聴くほど坂本龍一の音楽の虜(とりこ)になった。
彼の音楽を聴くとなぜ、楽しくなったり悲しくなったりするの?温かい気持ちになったり、元気が出たりするのは、どうして?教授の音楽は、なぜ何度でも聴きたいと思うの……?

坂本龍一の音楽には、一体どんな魔力が潜んでいるのか知りたくなった。
自分の身体に取り込みたいという感覚だろうか。この音楽の魔法を手に入れたくてたまらなくなった。

「この美しい音楽を自分のものにしたい」と思った日からずっと、教授はわたしの「音楽の父」だ。

時に自然、時に鮮やかに音楽の色合いを塗り替える転調
時空を超えて漂うような行き着く先のわからない 
自由で浮遊感のあるコード進行
ペンタトニックスケールを使ったどこか懐かしく優しいメロディー


「どうやったらあんな素敵な音楽が作れるようになるんだろう?」
「あの不思議な響きを自分のものにしたい」と背中を追い続けた。ライフステージの変化により波はあったが、「あの日」以来、何十年も、わたしの中の一番はずっと教授だった。

物心着いたときから、ずっとピアノが一緒だった
ピアノに始まり、ピアノに終わる人生
混沌から調和、不安定から安定へ

まばゆいほどに光輝いていた人が、やがて穏やかに沈みゆく夕陽になろうとしている。燃やした命のともしびが今、静かにフェードアウトしようとしている。1人の音楽家の生きざまをリアルタイムで目撃、共有できることの意味…。

鼻の奥がツーンとする。
最終楽章のラストノートが、かすかな音でも永遠に鳴り止まないでいてほしいと願ってしまう。

「心の中に音楽がある限り、何も変わらないはずだよ」
なーんて言ってくれないかなぁ、教授。



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