おめざブログ

おめざブログ 2019年8月25日

美術館の楽しみ方は人によっていろいろだと思うが、本質的にはただ一つだと思う。好きな絵をじっくりと観ることだ。

大学生の頃、美術館でアルバイトをしていた。部屋の隅っこに立ち、長いときには1日7時間以上、来場者を監視していた。実に多くの人を見守ることになるのだが、ひとつのことに気づいた。なぜみんなわざわざ大真面目に列に並んで絵を観てまわるのか、ということである。

自分の提案する美術館の楽しみ方は下の通りだ。

①ひとつのフロアの作品をざっと一度鑑賞する。あまりしっかり観なくてもいい。

②少しでも「好きかもしれない」「なんだか心に引っかかる」と思った作品を徹底的に観る。近くによって細部を見つめたり、ちょっと離れて全体を眺めてみたりする。とにかく観る。そしてなんで自分がその作品を気になったのかを自問自答してみる。作品の解説に書いてあることと全く違ってもいい、素直に思ったことを心に思い浮かべる。「綺麗だから」とか単純な言葉でもいい。

中学生くらいの恋バナをイメージしてください。「ねえ、クラスの男子のなかじゃ、誰が気になる?」「うーん、〇〇…かな?」という会話から始まり、「えー?そうなんだー!〇〇君のどこが好きなの?」と聞かれて「なんであいつのこと好きなんだろう?」と自問自答する。悶々と考えているうちに、自分の心のなかでなんとなく「あいつ」が形になって現れてくる。

以上だ。一言で言うと、好きな作品を見つけて、とことん鑑賞することだ。家に帰っても作品が自分の心の中に残っていることに気がつけば大満足である。ショップでその作品のポストカードや、お金があれば図録を買っておいた方がいい。そうやってストックしていくと、自分の人生に彩りが増えたような気がしてくる。入場料がもったいないので、全部しっかりと観たいという人もいるかもしれないが、展示会に行ってひとつでも作品が自分のものになるのであれば十分元は取れる、と思っている。

高校生のときに、美術の教科書でフェルメールの『真珠の耳飾りの少女』を知って、一目で好きになった。大学生になり、東京で開かれる特別展で展示されることを知り、大学のあった山口から観に行った。日本で相当な人気のある作品なので、美術館の入り口から長蛇の列ができていた。ようやく絵の前に辿り着いたとき、穴が開くほど凝視した。深みのある背景の闇に浮かび上がって少女が振り向いた一瞬の横顔がある。何かさりげないことに気づいたかのような目つきと、不用心に半開きになった口元がたまらなかった。ポストカードを何枚も買って、今でも大切にしまっている。



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