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映画「エンドロールのつづき」

「ニュー・シネマ・パラダイス」と「スタンド・バイ・ミー」が合わさったような印象を受けたインド映画ですが、作中の映画のワンシーンとして登場する以外は、インド映画特有の歌ったり踊ったりの派手さはありません。

この映画のパン・ナリン監督自身がモデルになっている実話に基づいた静かに心に沁みる作品です。

なんと言っても、主役を演じたバヴィン・ラバリ少年がとても魅力的です。文字通り満席状態の客席でしたが、ストーリーに引き込まれて、スクリーンにみんなの気持ちがひとつのかたまりになって向かっているようでした。特に劇的な出来事が起きるわけではありませんが、実話の説得力を感じました。

「光を勉強したい。光は物語を生み、それが映画になる」

主人公サマイのこの言葉が印象的でした。どんな困難に会っても、映画を諦められない。映画以外のことは考えられなくなっている人の言葉です。

何かを好きになるということの圧倒的な力が、この映画では描かれています。

好きになるというような生やさしい表現では足りない、まさに、映画と恋に落ちた、どうにもあらがえない力で引き込まれてしまったのです。

サマイ少年の場合は、映写室からスクリーンへ伸びる一筋の光に一瞬で魂を持って行かれたのです。それを象徴するように、映画のあちこちで、光や色がとても印象的に使われています。

映画の最後で、大人になった主人公、おそらく、ナリン監督ご自身の声で、世界的に有名な名だたる映画監督達の名前が読み上げられていきます。黒澤明や小津安二郎、勅使河原宏などの名前も挙がっていました。

あぁ、この人達もきっとサマイのように、濁流に飲み込まれるように映画に魅入られてしまい、だからこそ、数々の素晴らしい作品を生み出すことができたのだろうなぁと納得がいきました。

そして、物語の展開に少なからぬ影響を与える、サマイのお母さんが作る料理の美味しそうなこと!これだけでも、観る価値があります。

結局、どんなに好きなことがあっても、自分だけでその夢を実現することはできません。まわりの協力があって初めてその幸運を手にすることができるのです。

決して裕福な生活ではない中から、お金を工面する父親。美味しいお弁当で静かにでも愛情深く支える母親。サマイ少年の夢に伴走する友達。

何かをどうしようもなく好きになることが、これほどまでに人生を豊かにするのだということで胸がいっぱいになります。

原題は、「Last Film Show」
邦題の「エンドロールのつづき」はその意味をよく反映していると思います。映画の終盤でそれを実感とともに理解したとき、心がふるえます。



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