痴漢を捕まえて思うこと
先日、痴漢を捕まえた。
そういえばカッコよく聞こえるかもしれない。でもその時、僕は確かに震えていた。
今日はその時のことを振り返ろうと思う。
いつもの日常が、一つの叫び声で変わった
その日はインターン先に向かうため昼前の中央線に乗っていた。
いつものように愛用のKindleくんで『自省録』を読み耽り、ふと気づくと降車駅である中野駅に電車が止まっていた。
Kindle氏をカバンに突っ込み、他の乗客とともに改札に向かう。
下りのエスカレーターの右側を歩いて降りていると突然、
「痴漢ですー!!その人捕まえてください!!」と、女性の叫び声が後ろから聞こえてきた。
振り向くと、60代はじめくらいのパンチパーマのおじさんが、上りのエスカレーターを逆走して降りてくるではないか。
「これは間違いなく黒だな」
とっさに見たおじさんの焦燥の顔をみて僕は確信した。
だけど下りのエスカレーターのスピード的にギリギリ逃げられてしまう。
上りのエスカレーターに乗っている人たちも、このおじさんの進行を妨害する素振りも見せない。
むしろ道を譲っており、おじさんはスイスイと改札階まで到達しそう。
その時、偶然上りエスカレーター口で待っていた男性が首にタックルし、おじさんが一瞬止まった。
そのチャンスを逃がさないと、僕も追いつき羽交い締めに。やっと御用。
その後ろから大学生か、白Tを着た、腕がパンパンのお兄さんが来た。彼が左腕をキメ、僕が右腕を抑え、逃げたおじさんもやっと大人しくなった。
痴漢を捕まえた。でも僕は震えていた
20秒くらい経ったか。警備員の人を呼んでもらっている間に、痴漢にあったのであろうと思われる、豊満な胸を露出させたお姉さんがハイヒールをカタカタ言わせて追いついて来た。
僕らにお礼を言いながら、会社(?)に電話をし、痴漢にあったことを説明している。
その頃になってやっと自分のしたことを理解し始めた僕。
「痴漢を捕まえたんだ...!」という高揚感も感じていたことは確かだ。
しかしそれ以上に「あー、これでこの人、人生を棒に振ったんだ。」と、自分の行動によって壊された人生があると、一種の恐怖を感じていた。
その証拠に、僕の腕はかすかに震えていたのだ。
痴漢を生み出す土壌
駅員におじさんを引き渡した後、インターン先まで歩きながら、僕は状況を整理してみた。
最初に気づいたことは、痴漢をしたと思われるおじさんが、どうしてあんなに簡単に改札階まで降りられたのか、ということだ。
1. エスカレーターを逆走するおっさんに対して、誰も捕まえようとはせずにむしろ道を譲っていたこと。
それに加え、以下の2点も自分の中で引っかかり続けた。
2. エスカレーター口で別のお兄さんがタックルして止めたのに、そこでも誰も止めない。
3. 駅員を誰も呼びに行かない。
「関わりたくない」
この感情が明らかに、周囲の人々に感染していた。
捕まえた本人が言うのは変かもしれない。ただ、無我夢中になっていなければ、僕も周りの人のような「関わりたくない欲」に負けていたかもしれない。
今回は偶然、女性が声を上げる勇気を持っており、その中でも何人か応えた人がいた。
だから痴漢犯を捕まえることができた。
日本では年間、3,200件(2015年データ)(1)の痴漢が起きている。ただこれは、明らかに氷山の一角だろう。声をあげられない女性の方が、圧倒的に多いのだ。
「関わろう」。この土壌が作らないことには、痴漢を受けても声を上げる勇気を女性が持てない。関わる土壌が醸成されることで、痴漢の抑止にも繋がるのだ。
(1) 日本経済新聞 “痴漢検挙 年3200件 鉄道各社、カメラ導入検討” URL: https://r.nikkei.com/article/DGXLASDG04H8F_U7A710C1CC0000?s=3
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