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【事例でみる空間設計②】池尻大橋LOBBY / 時代に左右されない空間を目指して

こんにちは。
デザイン会社and Supplyのインテリアデザイナー、ドテウチです。

先月4周年を迎えた自社店舗の「LOBBY」について、設計意図やデザインについて当時を振り返りつつご紹介できればと思います。

and Supplyの原点でもある「LOBBY」は創業メンバーが特別な想いとこだわりを持った1号店。and Supplyの原点とも言える思想が詰まったお店です。

ホテルのロビーのように「色々な人が介在し、肩肘張らず、思い思いの使い方ができる場所」を目指し、ストリートバー「LOBBY」と名付けました。

ストリートバー:「誰でも入りやすい空間で、いつもより楽しくて美味しいお酒に出会える場」を目指しています。

デザイン会社がなぜストリートバーをはじめたのか、工事費含め開業記についてはこちらを見てみてください!


1.物件概要

  • 立地:東京都目黒区東山3-6-15 エビヤビル1F(池尻大橋駅 徒歩3分)

  • 構造:地上4階建1階部分/鉄筋コンクリート造

  • 面積:43.2㎡

最寄りの池尻大橋駅は、駅前こそ国道246号線と首都高があり都会の風景ですが、一本中に入れば渋谷から一駅とは思えない落ち着いた立地。小さな商店街と桜で有名な目黒川が近くを流れています。

立地は駅近ですが建物の入り口が分かりにくく、道路より奥まっているため相場よりも家賃は安めです。(インスタ画像の奥が入り口です。)

当時、飲食の諸先輩方からは、ここでの出店をとても反対されたのを記憶しています。(笑)目立ちにくい入り口も、今となってはお店の個性の一つになりました。

偶発的な来店機会は減ってしまいますが、お店を発見したときの高揚感やワクワク感は、お客さんにとって特別な体験となるなず。
海外で隠れた名店を発見した時の気持ちを思い出し、こちらに出店を決めました。

2.設計コンセプト

and Supplyはデザイン会社として2019年に発足。
デザインのバックグラウンドを持っていないため、自分たちは何が強みで何ができるのか、まずは事例を作る必要がありました。

「LOBBY」は、そのショーケースとして必然的に生まれた初めての飲食店となりました。

基本コンセプトは前述の通り「ホテルのロビー」のような空間。
具体的な設計コンセプトは、どういった空間を目指すべきか、そのイメージに近い場所はどこか、と井澤と議論を重ねていきました。

またそれらの空間の良さや、なぜそれらを良いと感じたのかを言語化。
そして分析していくと、、

「時代に左右されない空間」
「本物素材の空間」
「人の手を感じる空間」

といったキーワードがでてきました。
さらに自分たちの価値づけとして

「既視感のない空間」を目指すことにしました。

これら4つをベースにしSNS戦略的に「ブランドカラーを決める」、飲食以外にスペース貸しやギャラリー、イベントの収益化のため、「多目的スペース」としての使用を考慮した設計を目指すことに。
具体的には、場所ごとに触れてみたいと思います。


3.ゾーニング

「LOBBY」の客席は大きく分けて4つのゾーンに分けられ、
シーンや人数に応じて様々な使い方ができるよう客席を差別化しています。

<1>バーカウンター
バーカウンターは、お店の顔でありバーテンダーの所作やバーの雰囲気を一番に感じられる、カクテルのステージのような場所です。

入店してまず目に入るのがバーカウンターで、次に触れるのがカウンターの縁。だからこそそれらに重点を置き、素材選びを開始していきました。

ここで重要なのは、カウンターと空間全体の関係性。
今回は床、壁、天井がコンクリートの躯体スケルトンで、天井高を生かした空間にしようと決めていたため、空間全体がグレーで冷たくラギッドな雰囲気となっていました。

そこでコンクリートを中和する目的と縁の触り心地を重視し、木材のカウンターに決定。木の種類は、時の経過を感じられるよう経年変化が楽しめる「ブラックチェリー」を選定。

淡いピンク色から濃い赤褐色へ変化

当初は淡い桃色がかったナチュラル色に近い色をしていますが、時間の経過とともに濃いオレンジがかった飴色へ。
(中略)
一見すると使いづらさのように捉われがちですが、人間と同様、歳を重ねて円熟味を増す。天然木の家具でしか味わえない楽しみのひとつとも言えるのではないでしょうか。

ブラックチェリー材の経年変化について - Story & Factory

一般的なバーカウンターのデザインとは違い、HOTELロビーのような家具感を演出できないかと考えていたため、ブラックチェリー材のカウンターはイメージ通りの風合いでした。

手が触れるところは、無垢のRをつけた枠。
カウンターの持ち出し部材も人のモジュールを意識したピッチで構成し、
すべて意図を持ったデザインとしました。

結果、コストを度返ししたスペシャリティーカウンターに。。(笑)

天板は、以前から気になっていた人造大理石の「テラゾー」。
人工物ですが、素材自体は石つぶてとセメントでできた天然素材です。
それらを型に流し込み、表面を研磨して人造の大理石として仕上がります。

傷や汚れにくく、耐久性に優れたテラゾー天板は、カウンターの素材との相性もよく経年変化を楽しめるカウンターとなりました。

レイアウトの面では、入店時、カウンターが壁のように対峙してしまわないよう、入り口から奥の階段を結んだラインを天板のアウトラインとして角度をつけ、天板の形状を大きな曲線デザインとすることで、自然と奥へと誘う動線としました。

脚のあるカウンターデザインは、一般的なバーカウンターと差別化する意匠として着想を得たもの。

しかし通常、水ものを使用するバーカウンターからすると、脚のある意匠はキッチンからの漏水リスクがあり、キッチン機能から反しているため、あまり見ないデザインとなります。

コンセプト的にも客席からは、脚が独立した家具のような見えがかりをなんとか残したかったため、キッチン内を床上げすることで漏水しない構造としました。

このつくりだと床上げの下地が客席から悪目立ってしまい、家具のイメージや浮遊感の演出としては、表層的に見えてしまいます。

そこで視点の高さからは見えないよう下地の立ち上げをセットバックしキッチン側へと下げて設計することで、浮遊感をしっかり残したカウンターとすることができました。

<2>ベンチシート
次に入り口から伸びたベンチシート。気持ちの良い季節には玄関を開放し、内外で楽しむことができるレイアウトです。
バーカウンターの浮遊感とも連続させることでフロアの「捨てコン」エリアから造作部分がすべて浮遊しているような感覚になります。

1〜3名の利用をメインに、ベンチシートはあえて明確な座席位置を設けていません。それによりベンチとしての明確な役割を与えない意匠にすることで、様々な用途でも対応できるようにしています。

またマテリアルは耐久性のあるテラコッタタイルとカウンター天板でも使用している「テラゾー」。素材の異なったミックスにより、既視感のない空間を構成していきます。

ただ、ここでも座席の脚が当たる部分には天然木の素材を回し、経年変化と肌触りを重視しました。背もたれのクッションは取り外しが可能でベンチ以外にもギャラリーの棚としても使用が可能になっています。

<3>テーブル席
奥のテーブル席は定番60cm角のテーブルの構成。4〜5名席としても2名、3名でセパレートの利用も可能です。

これは完全DIYで製作。(笑)
天板はホームセンター、脚はお世話になっているパシフィックファーニチャーサービスさんです。その他棚の取り付けや塗装は、すべてDIYです。もちろん素人に毛が生えたくらいのなので、職人さんに比べ粗野な仕上がりに。

こういった力の抜きどころが、様々なスタイルを許容する、どこか力の抜けた空気感を作り出しているのかもしれません。

<4>ハイテーブル
奥のハイテーブルは最大10名までの利用ができ、相席で座ることで流動性のある席になっています。仕上げはバーカウンターと同じ、ブラックチェリー材の枠にテラゾー天板。

脚が取り外し可能のスチール構造となっているのは、この奥のスペースがギャラリースペースとしての機能があるため。ただ、テラゾー天板は重すぎて取り外して使うことは今のところありません、、(笑)

<その他>入り口サッシ
ゾーニングとは少し異なりますが、カウンターと同じくらいコストインパクトがあったのがグリーンのスチールサッシです。

これは、SNS戦略にあったキーカラーを設定する意図によるもの。
また、入り口サッシはお店の第一印象でもあるため、既視感のないグリーンのサッシがアイコンとなるよう、海外事例のイメージで検証を重ねました。

最初、見た時はフェンスなどに使われるグリーンのように見えて、

「やってしまった。。」

と一瞬思いましたが、設置してみたらテラゾーの色と合わさって既視感のない自分たちらしいサッシになりました。(笑)


4.仕上げと納まりについて

スケルトンの本物件は、捨てコン床下地から天井スラブまでは4mほど。

地下の土をほり終えて地盤を固めた後に打つコンクリートです。 捨てコンクリートは建物の床になるものではなく、建物を建てるための基準線を出す、地面をならすことで足場をつくりやすくしたり、職人さんの作業をしやすくしたりする、などが主な役割になります。

鹿島建設株式会社

この高い天井がフロアに程よい開放感を与え、特有の雰囲気を醸し出していたため、天井の高さは最大限活かそうということになりました。

実はこの物件、2Fと内階段でつながるメゾネット物件であったため、奥の階段は、既存の仕上がり床レベルの設定をする必要がありました。

ちなみに仕上がり床レベルの設定があるのは、基本床の仕上がり高さが設定されており、床を作るための下地や床下配管のために30〜50cm程度の床上げをする必要があります。

そこで奥の床は通常の床レベルで仕上げる必要があるため、フローリング仕様とし捨てコンとは対象的な素材でメリハリを作りました。

空間全体がラフなコンクリートに対し、木の箇所は綺麗に収めることでコントラストを強調するよう意識しています。

具体的には、小上がりの角度はカウンターに対して垂直にし、動線に合わせたデザイン。フローリングも基準方向には合わせず、動線に合わせた角度で納めています。
そのフローリングの間には真鍮の見切り材をいれることで、特殊な角度を意図的に行っていることを主張させています。
※見切り・・・素材同士の間に入れる納めるための材料。

またベンチ壁のアーチは、アイコニックで意匠的な側面の他に、シートクッションを納め、ブラケット照明・コンセント配線のために造作壁に。

コンクリート壁がアーチ型に切り取られることで、壁の素材がフォーカスされ、既存壁を削った箇所がより際立つ効果が得られます。
壁のブラケット照明が壁の凹凸に落ち、意図的に作ることができない独特な表情がとても気にっています。

そしてお客さんからもよく突っ込まれますが、奥のギャラリースペースの入口。

コンクリートの壁がガッツリ破壊されっぱなし。
実は、元々壊されていたもので、我々は一切関与していません。(笑)
(おそらく躯体で、壊しては行けない構造壁と思われます。)

ただ、その独特な風合いは、通常見ることがない解体現場のような非日常感となってることが面白いと、そのまま残すことに。

こういった通常であればやらないこと(捨てコン床、バーカウンター脚の意匠、躯体解体活かし、路地奥店舗)にチャレンジすることで、新しい空間や空気感が生まれるということを実感しました。

5.LOBBYのこれから

冒頭に触れましたが、LOBBYは今年で丸4年。
お店としてはまだまだこれからです。

いつ行っても格好良く心地の良い、時代に左右されない空間。

そんな空間にはまだ程遠いかもしれませんが、
LOBBYを通してそんなお店に近づけたらと思いながら現場に立ち続けたいと思います。

そして最終的に、人が入ることで空間が成り立ち、
人が空間を育てていくのではないかと思います。

そんな人々の営みを想像し、デザインと融合させることで、
本当に心地の良い空間を模索していけたらと思います。

5年後、10年後とどういったLOBBYに成長していくのか、
僕自身とても楽しみです。

最後まで読み進めてくださり、有難うございました!
また月に1,2回程度、設計や空間デザインについて綴れればと思います。

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