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柔術教則レビュー「加古拓渡のバタフライガード」

 今日も今日とて柔術は楽しい。今日は教則レビュー。だれもが知っているけど難しいフックスイープをとことん掘り下げたこちらの教則を紹介します。


加古拓渡選手の紹介

加古拓渡(かこたくと)
年齢37歳(2024年1月現在)
グラップリングシュートボクサーズ(GSB)所属
ブラジリアン柔術黒帯三段

主な戦績
IBJJFアジア選手権2013,2014アダルト黒帯ライトフェザー級優勝
JBJJF全日本選手権2015アダルト黒帯ライトフェザー級優勝
IBJJF世界選手権2016アダルト黒帯ライトフェザー級3位(繰り上げ)
IBJJFパンパシフィック選手権、ソウルインターナショナルオープン優勝2回ずつ
JBJJF全日本マスター選手権2022マスター1黒帯フェザー級優勝
JBJJF全日本マスター選手権2023マスター2黒帯フェザー級優勝

 全日本もアジアもタイトルを取り、ワールドでも三位入賞。「世界選手権(ムンジアル、ワールド)を目指す選手としての引退」を公言されていますが、国内ではマスター、アダルトの両方で試合に出場し活躍されており、ワールドマスターにも参加されています。

内容紹介 (フローチャート)

01 Grip
02 引き手の使い方
03 Top Leg
04 Bottom Leg
05 Head Position
06 Pivoting Point
07 Basic Sweep vs. Kneeling
08 Basic Sweep vs. 1 Knee Up
09 教えて加古 拓渡(頭をつけてきたら)
10 縦に耐えてきたら逆方向へ返す
11 後ろに耐えてきたら起き上がって返す
12 ベルトグリップの取り方
13 ポジションの修正
14 ニーカットの膝を着けさせる
15 Half Butterfly From Low Knee Shield Entry
- 16 Half Butterfly Basic Sweep
- 17 Half Butterfly John Wayne Sweep
- 18 Half Butterfly 三角絞め
- 19 Half Butterfly 抱えアームバー/オモプラータ
20 From High Knee Shield Shoulder Crunch
- 21 From High Knee Shield Shoulder CrunchSweep
- 22 From High Knee Shield Shoulder Crunch 腕固め(Reverse Armlock)
- 23 From High Knee Shield Shoulder Crunch Choi-Bar
24 Single Leg X Entry from Butterfly Guard
25 Single Leg X Collar and Pants Grip 
26 Single Leg X Double Pants Grip
27 Single Leg X vs. 前傾
28 フットロック
29 アウトロ

 1~6がフックスイープの基本、7~14がオーバーショルダーのフックスイープ、15~23がハーフバタフライとショルダークランチ、24~28がシングルレッグの展開。

 1~6の部分でフックスイープのコンセプトと基本を説明。それをベースに応用的な返し方やオーバーショルダー以外の組手の使い方、フックスイープに対して相手がとったリアクションに対するアタック(三角絞め、腕固めなど)を説明していき、後半はバタフライからエントリーしやすく強力なガードであるシングルレッグエックスのテクニック。

 1~6だけでもかなり勉強になるが、7以降の内容も身に付けるとバタフライガードを体系的にシステムとして理解できる。バタフライから入りやすいシングルレッグエックスは初心者から上級者まで使える強いガードなので見て損はない。

バタフライガードのコンセプト/メリット(なぜバタフライガードなのか)

「体格や柔軟性に依らず、誰にでも使いやすいガードで、尚且つ他のガードへの移行や併用するにも使いやすいと思います。比較的動作が多くないので、全年代・全階級の選手が使えると思います。」

「シンプルかつ誰でも知っている技ゆえに、「分からないからかかってしまう」という技ではないと思います。「分かっていてもかかる」技にするには、細かいポイントを抑えていないといけませんが、以外と多くの人がそこが抜けてしまっているのだと思います。」
 
let's bjjさんのインタビュー記事から抜粋

http://letsbjj.site/?eid=697#gsc.tab=0

 シンプルだからこそ目に見えにくいディティール(重心や返す方向)を大事にしないとスイープできません。

コンセプト

 自分の感じるバタフライガード(フックスイープ)のコンセプトは
「相手の重心を、固定した支持基底面の外に出す」です。加古先生はそれをpivoting pointという概念で説明されてます。

https://www.kouno-teate.info/2022/03/12/%E6%94%AF%E6%8C%81%E5%9F%BA%E5%BA%95%E9%9D%A2%E3%81%A8%E9%87%8D%E5%BF%83/


https://www.study-channel.com/2018/11/center-of-gravity.html

フックスイープを考えるとき、この支持基底面を意識すると理解しやすいです。

①立膝の相手ならば、膝が支持基底面の端になるので「膝に向かって返す」。

②かばい手をついたらそこが支持基底面の端になる(支持基底面が広がる)のでかばい手を払うか、つかせない。

③かばい手をつかせたらそのかばい手を固定して(支持基底面を固定して)、「かばい手に向かって返す」

足の裏をマットにつけられると、もうフックスイープで重心を支持基底面の外に飛ばすのは難しい

ちなみにこちらの記事で支持基底面と重心の話はまとめてます。気が向いたらどうぞ。

メリット

・体格や柔軟性問わず使える

・浮かせるので相手の筋力に関係なく返せる。意外と体重差があってものせてしまえば返せる。

・形がシンプルなのでエントリーが容易。膝をつかせたら入れる。クローズドやハーフからも入りやすい

・シングルレッグXやエックスガードなどの強いガードへのトランジションがしやすい

・トップレベルでも使われる強力なスイープ

・ノーギやMMAでも使える(小手を巻く形のオーバーフックが多い)。特にMMAではトップは立たせないように押さえ込んでくる(のってくる)のできまりやすい、タックルを切られたあとのオプションとしても優秀

・バタフライができると相手が接近戦をいやがる→パスプレッシャーが弱まる、距離をとれる、足のフレームをいれたガードを作れる。

・密着パスのカウンターを狙える

・フックスイープをいやがるリアクションに対してサブミッションをとれる

デメリット

・足での固定力がないので解除されやすい。
→その分上半身で固定する組手(オーバーショルダー、片袖片襟、ショルダークランチ)を作ることでカバーする

・慣れていないとスマッシュパスやクレイジードッググリップからのパス、ボディロック等でパスされる
→作中にリカバリー方法あり

・膝をつかせないと使えない。
→作中に二ースライスから膝をつかせるエントリーやハーフからのエントリーあり。両足立ってくる相手へのガードも合わせて身に付ける必要がある

向いている人

体格・柔軟性問わず使える。

・足のフックが強い人
・クリンチ、引き付ける力が強い人
・ガードリテンションに自信がある人(解除されやすいガードのため)
・相性のいいテクニック(後述)がある人

向いていない人、というのはあまり思い付きませんでした。単純にやってみてしっくりこない人が無理にやる必要はないと思います。しかし自分はフックスイープが本当に苦手で全然できなかったのですが、加古先生のプライベートレッスンとこの教則で結構得意になったのでこの教則をみたら多分みんなできると思います。

有効な相手

・密着系パスの使い手
・ハーフで不用意に脇を差しに来る相手
・膝をつく相手(マスター世代に多め)
・MMA選手など相手を立たせないよう押さえ込んでくる相手
・足と膝を越えずに上半身を抑えに来る相手

相性のいいテクニック・合わせて覚えたい技

まずはガードリテンション。固定力はそこまでないので解除されたときの対応が大事です。あとはフックスイープのリアクションに合わせたサブミッション、フックスイープからエントリーしやすいガードなど。

・ガードリテンション(足回し、エルボープッシュ、グランビーロールなど)
・腕固め(アームバー)、三角絞め、チョイバー
・エックスガード、シングルレッグエックス
・フックスイープをいやがって立ってくる相手への足に絡むガード(デラヒーバ、シントゥシンからのシングルレッグエックスなど)

使ってみた感想

 自分の場合、この教則が出る前にプライベートレッスンで加古先生にフックスイープをお願いしたことがあるのでそれも含めての感想になります。
 まず、苦手だったフックスイープが得意になりました。うまい人が自然とやっている基本のディティール(手足の位置や組手)が間違ってました。見よう見まねではわかりづらい部分(重心や返す方向など)も細かく解説されているので、うまくできていない人もこの教則の基本的なパートをしっかりとやれば穴を埋められると思います。
 同じように返しているように見えても細かいアジャストをしているのがわかりました。自身がフックスイープするとき、うまくいくときといかないときがありましたがこの教則を見て自分が相手のポスチャーや重心に対して間違えたアプローチをしていたことがわかりました。

個人的に好きなテクニック

 6.pivoting point と8. Basic Sweep vs. 1 Knee Up(フックされてない足の足裏をマットにつけて耐えてくる相手へのフックスイープ)は面白かったです。フックスイープに対して足を立てられたらエックスガードに入るくらいしかできないと思っていたのですが、pivoting point の考え方でフックスイープをきめるのが面白かったです。実際のスパーでも決まりました。

 ショルダークランチのテクニックが面白いです。ニーシールドハーフはよく使うのですが、このショルダークランチはまくらをとられそうな気がしてました。しかし実際にやってみると相手の肩を殺しているので枕もとられず、こちらがかなり強い形です。コントロールが強く、サブミッションもスイープも狙えます。

 フットロックは一番最後にのっています。フックスイープとは直接関係はないのですが、フックスイープと相性のいいシングルレッグXからエントリーしやすいのがフットロックです。バタフライガードの教則なのにフットロックの章だけで12分あります(笑)。しかしこれがすごい!「形に入れるけど極まらない関節技ことフットロック」をめちゃくちゃ細かく解説してくれています。先日プライベートレッスンでお願いして受けたところやばかったです。力ではなく形で極めるフットロック。おすすめです!

まとめ

 フックスイープは苦手だったけど自分なりに考えて身に付けた愛着のある技なのでついつい長くなってしまいました。
 フックスイープを得意な人はもちろん、苦手な人こそ見てほしい教則です!

2024/1/8 アンディ

追伸。

 各チャプターが英語表記が多いのは、加古先生が英語の教則を見て英語でテクニックを認識されていてそれをそのまま採用したそうです。英語で技の名前を覚えると技を検索したときにヒットする数が桁違いなので覚えておいて損はないですね。

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