軽視されがちな抑え込みとその理由 抑え込みシリーズ①
今日も今日とて柔術は楽しい。そして育児は大変で楽しい。子育ての食事、お風呂、寝かしつけのペースがつかめてきたのでうまくやれば週一くらいは練習できそうです。今年の前半は全くできないことも覚悟していたので週一でも柔術ができることがうれしいです。
オープニングトークが長くなりました。今日は抑え込みの話。めちゃくちゃ長くなったので何回かに分けて書くことにします。
第一回:抑え込みが軽視されがちな理由
第二回:抑え込みは格闘技の本質であるという話
第三回:抑え込みの有効性
第四回:抑え込みのテクニック
第五回:抑え込みとハーフガード
1.柔術と現代MMAで抑え込みは評価されづらい(明確なポイントにならない)
現代MMAや柔術では何かと軽視されがちな抑え込み
柔道には抑え込み一本があり、レスリングにはフォールがあります。抑え込みとは「相手を制圧する(コントロールする)」という視点で見ると格闘技の一つのゴール、完成系と言えるでしょう。
しかし柔術やMMAのルールで抑え込みはゴールとはみなされません。柔術は一本を狙ったりポジションを進行しなければ反則(ルーチ)を取られます。MMAでは近年、抑え込みだけでなくパウンドかサブミッションしないと評価されづらくなっています。
2.MMAで抑え込みが評価されづらい理由 興行的な理由
一昔前の修斗などではテイクダウンと抑え込みの評価がめちゃくちゃ高かったです。何ならコントロールしていれば下でも評価されたりしていました。現代MMAでは、ただ抑え込みをするよりも打撃でダメージを与えるか、サブミッションを取りにいくことを重視しています。
その理由は興行的な側面があると私は考察しています。抑え込みは雑に言えば「見ていて面白くない」。膠着を避け、アグレッシブな展開が生まれるように、抑え込みを評価しないルールにしているのだと思います。
RIZINやDEEPの競技運営協力をしている一般社団法人日本MMA審判機構(JMOC)では、2017年からMMAの判定基準が変更しました。要は積極的に動けというルールです。
以下引用。長いので興味のある方だけどうぞ。
3.柔術で抑え込みが評価されづらい理由 競技的な理由
MMA興行的な側面がありましたが、柔術は競技的な側面があると思います。
昔のバーリトゥードや護身術の色が強い柔術では、ルールの制限が少なく抑え込みを何分やってもよかったでしょう。競技化と普及が進むにつれて抑え込みでの膠着が起こらないようにルールが変わりました。
柔術が「抑え込むだけではなく、ゴール(極め)を目指しポジションの進行をする競技」として発展するように、抑え込みで動かないと反則(ルーチ)を取るルールとなっているのだと思います。
あともう一つの理由としては、抑え込みまでいけることが少ない=練習する機会が少ない。というのがあると思います。スパーで抑え込みを練習しようと思っても白帯ではサイドまでなかなか行けません。パスガードは難しいです。
練習する機会が少ない、使う機会が少ない技術はどうしても軽視されがちです
少し脱線 レスリングや柔道の場合
少し脱線しますが、柔道には抑え込み一本、レスリングにはフォールがあり、それ以上のポジションの進行はする必要はありません。抑え込みががゴールです。その背景としては「抑え込まれた時点で負け」的なものがあるのだと思います。ぶっちゃけ柔術でも「パスされたらほとんど負け」だと思います。背中を付けて抑え込まれるという状況は格闘技において負けとみなされるほど制圧されているのです。
でも、柔術はそこからマウント、バック、極めまで進行することを求められる競技です。そして、その部分の攻防に柔術のアイデンティティがあり、柔術独自の技術体系や面白さがあります。
4.ルールの意図。「ルールが競技を作る、ルールが技術体系を作る」
現代は、柔術でもMMAでも抑え込むのではなく、アグレッシブに動くことを是とするルールです。
ルールや法には意図があります。現代の柔術やMMAのルールの意図は「アグレッシブに動け」「相手をやっつけろ、ファイトしろ」というものだと思います。
現行の抑え込みだけでは勝ちづらいルールによって、柔術では「サブミッション」や「ポジションの移行(サイド→バックorマウント)」の技術が発展し、MMAでは「スタンドの打撃」、「抑え込みだけではないパウンドや極めのある寝技」「テイクダウンディフェンス」の技術が発展しました。
逆に抑え込みを高く評価するルールが普及していたら、MMAも柔術も現代の形とは別物になっていたでしょう。頑張ってサブミッションを覚えるよりもひたすら固めていたら勝てるルールなら生まれていなかった技術がたくさんあると思います。
5.実は柔術でもMMAでも高い評価をされている抑え込み
最初に「抑え込みは現代MMA柔術で評価されづらい」と書きましたが、実はそんなことはないということを書いていきます。。
5-1 パスガードの3点は抑え込みの3点
柔術では抑え込みだけではポイントにはなりませんが、パスガードは3点入ります。(スイープは2点です。この点数のバランスが絶妙で、自分は柔術のこの2,3,4点の柔術ルールが大好きです。)
個人的な解釈として、パスガードの3点は「抑え込み」の3点だと思っています。ガードをパスして上で抑え込むと3点入ります。ガードを越えて上を取らずにバックをとっても、6点入ることはないです。抑え込んでいないのでパスの3点は入りません。上を取るパスマウントは7点入ります。
「だったらパスガードでなくテッポウ返しやテイクダウンでサイドについた場合でも3点くれるはずだろ」と言われると痛いところをつかれますが。。。
自分の解釈としては柔術の得点は「ポジションの進行」に対して与えられるものだと考えているので「トップ(ガード内)」→「抑え込み」というポジションの進行をパスガードとして3点としているのだと思います。
5-2 MMAでの抑え込みの評価
先述したように現代の判定の評価基準では
と抑え込みは一番低い位置にあります。しかし評価されづらくとも抑え込むことはプラスの評価です。最後の最後に抑え込みのおかげで勝ちを拾うこともあります。
また、抑え込みはフィニッシュや、判定で最も高い評価となる「①ダメージ(打撃やサブミッション)」につながる重要なテクニックです。
抑え込みは、少ないですが判定の加点にはなりますし、「①ダメージ」やフィニッシュにもつながります。MMAにおいて非常に重要な技術です。
まとめ
抑え込みは軽視されがちだけど、めちゃくちゃ有効で大事な技術ですよ、ということをダラダラと書きました。
次回は格闘技の本質と抑え込みの話を書こうと思います。
2024/3/7 アンディ
追伸。「アクション!」は下がするべきだろ
これはたしか中井先生も言っていたと思います。
MMAや柔術で抑え込んで動かない「塩漬け」をする選手は「動け」と言われます。しかしこれは本来やられている下の選手がエスケープしないとダメだろう。と思うのです。
勝っている(抑え込んでいる)方は相手をコントロールしているので「そのまま固める」のも「アタックを狙う」のも自由です。でも下になっている負けている方が「そのまま固まっている」のはダメだと思うのです。下は「脱出する」一択です。
でもまあ、実際は本気で抑え込まれたら動けないことも多いし、無理に逃げたらサブミッションやバックを取られるので下はなかなか動けないのが現実です。なので、抑え込んでいる上が動くように促すのは仕方ないのかなあ、興行的にも、競技的にも。とも思います。
しかし、道場で白帯や軽量級や格下相手ににサイドでずっと固めているやつ。テメーはダメだ。お互いのためにちゃんと練習しなさいよ。
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