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テレビ出演で振り返るMr.Children

はじめに

 国民的ロックバンド「Mr.Children」。
 数々のヒット曲を発売、ライブを行えばドームだろうとスタジアムだろうと即完。
 メジャーデビューから30年間、活動期間のほとんどにおいて「国民的バンド」として君臨し続けた稀有なバンドである。
 だが、さすがにデビューして30年となればいつでも同じポジションにいるわけではない。
 もちろん「国民的バンド」という称号に揺らぎはなかったが、その程度の違いは確実にあるはずである。
 というのも以前、ある音楽ライターの方が「Mr.Childrenは「HANABI」以降国民的ヒット曲を出せていない」という趣旨のツイートをしていたのである。
 個人的にはたしかに「HANABI」レベルの大ヒットというのは出ていないかもな~と思った反面(あんなレベルのヒット曲がポンポン出ていたことがすごいのだが)、でも2010年代もタイアップとかでそれなりにヒット曲は出ていたよな~、とも思った。
 というのも2018年8月31日に放送された「ミュージックステーション」で「10代&親世代が選ぶ名曲ランキング」という企画が放送され、そこでMr.Childrenのランキングも発表されたが、それが特徴的だった。

親世代が選ぶMr.Children名曲ランキング

第1位「名もなき詩」(1996年)
第2位「innocent world」(1994年)
第3位「シーソーゲーム ~勇敢な恋の歌~」(1995年)

10代が選ぶMr.Children名曲ランキング

第1位「HANABI」(2008年)
第2位「himawari」(2017年)
第3位「足音 ~Be Strong」(2014年)

※2018年8月31日放送「ミュージックステーション」より

 親世代が選ぶMr.Childrenの代表曲は一般的に想起されるミスチルの代表曲とあまり差はないが、一方で10代が選ぶランキングでは近年のシングルである「足音 ~Be Strong」「himawari」がランクインしていた。
 同番組で他に紹介されていたランキングで、宇多田ヒカルは「初恋」(2018年)が、安室奈美恵は「Just You and I」(2017年)が10代のランキングに入っていたので、10代は大人が思っている以上に大物アーティストの最新曲にもしっかりとリーチしている傾向にあることは読み取れる。
 にもかかわらずMr.Childrenの場合、新曲が10代が思うMr.Childrenの代表曲にまではなりながらも(特に「himawari」が)なぜ国民的ヒット曲にはならなかったのか。
 その理由について考えるときに、気になったのが「テレビ出演」に関することである。
 ミュージシャンが楽曲をリリースする際に最も大きなプロモーションと思われるのが、テレビでの楽曲披露であり、「ミュージックステーション」や「SONGS」など、時代は変われど未だに視聴者に多くの影響を与え、また特にMステはミュージシャンの憧れ、目標の1つとして未だに存在しているとも言える。
 Mr.Childrenもブレイク後、様々なテレビ番組に出演していた。今でもMステやCOUNTDOWN TVなどで、当時の若いメンバーの姿が放送されることもある。
 しかし、最近は彼らも大御所になってきたからか、年々テレビでパフォーマンスを行う機会は少なくなってきている。2020年年末に出演した「ミュージックステーションスーパーライブ」では5年ぶりの出演と紹介されていた。
 自分はテレビの露出減がいつごろから行われるようになったのか、また新曲リリースとの相関はあるのか、などをあらためて調べたいと思った。
 デビューからすべてのテレビ出演を網羅することは難しいので、今回はテレビ番組への出演が多かった2006年から現在までをピックアップする。
 Mr.Childrenはいつからテレビに出なくなったのか、またどのようなスタンスで出演しているのか。その結果が以下である。

2006年~2007年

 2006年~2007年はアルバム『HOME』関連曲とシングル「旅立ちの唄」のリリースによって多くのテレビ番組に出演した。

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 まず特徴的なのは2006年秋以降の「しるし」爆撃である。Mステだけで3回、年内で10回も披露されている。
 たしかにこの時期、「しるし」はドラマ「14才の母」のヒットとともに楽曲自体も大ヒットしていたが、ここまでテレビで披露していたとは。
 しかもこの時期、Mr.Childrenは過去曲をTVでは一切披露していない。
 データとしてはあえて書かないが、これは直近の2004年、2005年も同様である。必ずその年にリリースした楽曲のみを披露していた。
 よって、2006年のMr.Childrenはテレビで繰り返しこの年リリースのシングル曲を歌い続けた。
 2006年の秋、バンドは9月26日~10月11日にthe pillowsと対バンツアーを行って以降はライブ活動を行っていなかったため、10月13日のMステ出演以降、バンドは文字通り「しるし」のみを披露し続けたということである。メジャーデビューから14年が経ち、すでに国民的バンドとしてのポジションを築いていたMr.Childrenがここまでメディア稼働をするのは、現在のバンドの状況から見ると、少々異様にも映る。
 ある意味バンドがメディア露出に対して積極性を見せていたと同時に、忍耐力が一番備わっていた時期なのかもしれない。

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 2007年も引き続き多くのテレビ出演が行われた。
 この年はデビュー15周年の影響もあってか、ついに過去曲が歌われる。
 『HOME』のリリースタイミングでは「Tomorrow never knows」「Mirror」(なぜ「Mirror」?)、年末には「名もなき詩」が披露された。
 この年から、常に最新曲でヒットを飛ばしているMr.Childrenも、1つの番組で複数曲を披露する際には、稀に過去のヒット曲を歌うようになった。

 先ほども書いたが、2006年、2007年の時点ですでにMr.Childrenは「国民的バンド」と呼んでも差支えがないほどの位置にいたと思う。
 現に2006年のMステスーパーライブではB'zやDREAMS COME TRUEといった大物アーティストもいるなかで番組全体の大トリを務めた。
 そしてそんなポジションにいながらも、この時期のバンドは「COUNTDOWN TV」「音楽戦士 MUSIC FIGHTER」といった深夜のレギュラー音楽番組でも新曲を披露していた。
 また、2006年は「HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP」や「うたばん」にも出演し、ダウンタウン、中居正広、石橋貴明らテレビ業界の大物ともトークをしていた。
 Mr.Childrenの場合は、JENさん以外の3人はトークがあまり得意ではないことを公言していたが、この時代はまだ果敢に(音楽にあまり関係ない)バラエティートークにも臨んでいたということか。
 自分の記憶では「HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP」で田原さんがダウンタウンによく弄られていたような・・・。
 この時期のMr.Childrenは、いわゆる音楽界だけでなく「お茶の間のスター」とという責務も引き受けていた最後の時代であったのかもしれない。

2008年

 21世紀でMr.Childrenが最もテレビ出演をした年、それが2008年である。
 そしてこの年ほどMr.Childrenが「お茶の間の国民的バンド」を引き受けた年はないと思われる。

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 こうしてみると壮観である。2週連続のものも合わせると、なんと1年間で23回もテレビでパフォーマンスを行っている。
 そしてなんとアルバム『SUPERMARKET FANTASY』をリリースした12月には10回も出演している。3日に1回のペースで楽曲を披露していることになる。
 すごい、というよりもバンド側の負担と、さすがに視聴者も飽きてこないかが若干心配になるレベルである。
 世が世なら「ゴリ押し」と揶揄されてもおかしくないレベルの露出量だが、それだけMr.Childrenが(タイアップも含めて)お茶の間に求められていた証拠とも言える。
 基本的にはシングルの「HANABI」「GIFT」を中心とした選曲だが、9月にはブレイクのきっかけとなった「innocent world」が久しぶりにテレビで歌われた。なお、「innocent world」がテレビで歌われたのは現時点で2008年が最後である。
 ちなみにこの年のMステスーパーライブは2006年以来の大トリでのパフォーマンスとなり、「HANABI」「GIFT」というこの年以降も名曲として語り継がれる2曲をフル尺でパフォーマンスを行った。

 また、2008年のMr.Childrenのテレビ出演で最大のトピックと言えば「NHK紅白歌合戦」への初出演と言えるだろう。
 「北京オリンピックNHKテーマソング」の「GIFT」を歌ったことにより、バンド側もついに出演を承諾した、ということである。
 当日のステージは「NHK101スタジオ」からの中継であったものの、Mr.Childrenメンバーやピアノの小林武史(コーラスには当時無名のナオト・インティライミも参加)、生のストリングスの演奏とともに、この日集められた世界中の国々の人々によるコーラスによって、圧倒的な迫力のパフォーマンスとなった。
 楽曲のパワーを最大まで引き出すそのステージは、まさにMr.Childrenが「国民的バンド」と呼ばれるにふさわしく、本人たちもそれをその名のとおり「引き受けていた」様子だった。

 紅白に関してはもちろん出演の詳細な経緯などは知る由もないのだが、Mr.Childrenはこの年の大量のテレビ出演と紅白初出場を機に、一度メディア露出を抑えようと事前に決めていたのではないか、と思った。
 それはCDシングルをアルバム発売前に2~3枚リリースし、そのたびにテレビ出演を行うというプロモーションルーティーンを、2008年を機に行わなくなる。そのための最後の集中露出となったのではないだろうか。
 様々なルーティーンを見直す、という作業はこの後のMr.Childrenの活動のキーポイントになっていくのだが、その第一歩としての「メディア戦略」にメスを入れることとなった。

 結果としてMr.Childrenの2008年は、大量のテレビ出演によって最も「お茶の間のスター」として君臨していた年であると同時に、この後の急激なメディア露出減につながる年ともなった。 

2009年~2011年

 2008年大晦日の「NHK紅白歌合戦」初出場を最後に、Mr.Childrenは約3年3か月の間テレビでのパフォーマンスを行わなくなる。
 理由としてはそもそもCDシングルを約3年7ヶ月の間リリースしていなかった(配信限定では数曲リリース)から、2010年発売のアルバム『SENSE』はCDシングル曲一切なしテレビ・ラジオ含め一切のメディア露出なし、どころか発売3日前までタイトル・収録曲など一切の情報が明かされていなかった異質のアルバムであったから、といったものが挙げられる。
 タイアップ曲こそ映画「ONE PIECE FILM STRONG WORLD」の主題歌「fanfare」や「NTT東日本・NTT西日本」のCMソング「365日」こそ発表されていたものの、楽曲リリース時にテレビで披露されることもなかった。
 Mr.Childrenは1997年の活動休止時、2002年の桜井さん入院時はさすがにバンドもお茶の間との繋がりを断っていたが、2009年~2011年は、ライブ・制作活動は引き続き活発に行いながらも、それに付随するメディア露出は一切行わない、というミスチル史上初めての試みが行われた。

 ただ、メンバーがまったくテレビに出演していなかったわけではなく、桜井さんは2009年10月にはフジテレビ「僕らの音楽」で絢香と、2010年7月には教育テレビ「佐野元春のザ・ソングライターズ」では佐野元春と、2011年7月にはテレビ東京「ソロモン流」にて当時サッカー日本代表の長谷部誠とそれぞれ対談を行った。

 「CROSS ROAD」「innocent world」でのブレイク以降、いくら本人たちがテレビは苦手と公言しようが、Mr.Childrenは活動休止期間以外、シングルやアルバムのリリースがあれば、(時にはツアー中であっても)その都度テレビに出演し新曲のパフォーマンスを、時にトークを行っていた。
 なので、ブレイクから約15年の間、常にお茶の間との繋がりを維持する活動形態だったわけだが、このタイミングでMr.Childrenは自らそのラインを断つという選択を行った。
 それでも「365日」が結婚式の定番ソングになるなど、メディアに登場せずともMr.Childrenの楽曲は世間に浸透していった、とも言える。
 現にYouTubeにアップされている「365日」のライブ映像は、2022年3月31日現在約6,742万回再生されており、これはMr.ChildrenのYouTubeチャンネル内で第2位の数字となっている(1位は2015年の「HANABI」ライブ映像)。
 
 CDシングルを1枚もリリースせず、なおかつアルバム発売時にも一切のプロモーションを行わない、というとても強気な活動体制だが、『SENSE』が2000年代のMr.Childrenとはまた違う新たな一面を押し出した作風であることを考えると合点が行く。
 と、同時にこのころはもうMr.Childrenはテレビに出ないのではないか、と囁かれだした時期でもある。

2012年

 そして2012年。メジャーデビュー20周年イヤーに、Mr.Childrenはテレビの世界に帰還する。

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 4月~5月のシングル&ベストアルバムリリース、11月のアルバム『[(an imitation) blood orange]』リリースのタイミングで、Mr.Childrenは再びテレビでパフォーマンスを行うことを選択した。

 注目すべきはやはり「ベストアルバム発売」によって、4月~5月にかけて大量の過去曲が披露されたことだろう。
 「ミュージックステーション」では「Worlds end」と「365日」が、
 「僕らの音楽」ではリリース当時もテレビで披露されなかったフジテレビドラマ主題歌の「ニシエヒガシエ」を始め、同じくフジテレビドラマ主題歌でリリース時以来テレビで歌われることのなかった「youthful days」までもが披露された。
 さらに「Music Lovers」では「fanfare」「擬態」と、アルバムリリース時にはメディア露出ゼロだった『SENSE』の楽曲を2年越しにテレビで披露した(Mステ、僕らの音楽の「365日」も同様)。
 これらの過去曲が用意できたのは、当時敢行されていたツアー「MR.CHILDREN TOUR POPSAURUS 2012」でも披露されていたからだと思っていたが、見直したら「名もなき詩」と「擬態」は当時のライブでは演奏されていなかったため、テレビ出演のためのスペシャルな選曲もあったと言える。

 また、5月4日に出演した「ミュージックステーション」では出演アーティストそれぞれ、視聴者が放送で聴きたい楽曲のランキングが紹介される、という構成で、Mr.Childrenの他にもゲストの嵐、ゆず、aiko、Perfumeのランキングが紹介された。
 そしてMr.Childrenのランキングベスト10も発表されたが、こちらが興味深いものだった(同じ回に出演したPerfumeが昔「Sign」を「シグン」と読んでいたと話したり、嵐の松本潤がミスチルについて熱く語ったりするなど印象に残る回だった)。

1位 Tomorrow never knows (1994年)
2位 名もなき詩 (1996年)
3位 Sign (2004年)
4位 innocent world (1994年)
5位 CROSS ROAD (1993年)
6位 終わりなき旅 (1998年)
7位 しるし (2006年)
8位 365日 (2010年)
9位 シーソーゲーム ~勇敢な恋の歌~ (1995年)
10位 GIFT (2008年)

 1位から10位まで歴代の代表曲がズラリと並んでいるが、注目すべき点はこの曲目よりも「HANABI」がランクインしていない点である。
 リリースから10年以上が経っているにも関わらず、2018年~2020年の「Billboard Japan Hot 100」(年間ランキング)では、それぞれ36位82位92位にランクインし、2021年8月にはストリーミングの累計再生回数が2000年代リリースの楽曲では初となる1億回を突破したこの楽曲が、2012年の段階ではまだ一般的にはそこまでの人気になっていなかったとも言える。
 当然「HANABI」リバイバルの背景には2017年の「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」3rd Seasonの放送が関わってくることは間違いないため、2012年時点で今ほど「HANABI」人気が出ていないのは納得ではある。

 アニバーサリーイヤーということもあり、再びメディアでもMr.Childrenが注目されるきっかけとなる年だった2012年。過去のヒット曲でも新曲でもお茶の間を沸かせる。ある種ポップスターの理想的姿が見られた年かもしれない。

2013年~2015年

 2013年のリリースは配信シングル「REM」のみであり、バンドもアルバム『REFLECTION』の制作や事務所の分社化、小林武史のプロデュース終了など、水面下での活動が多かったため、メディアへの出演はなかった。
 そして2014年11月より、シングル「足音 ~Be Strong」のリリースに伴い、約2年ぶりにテレビ出演を行った。

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 2014年11月にMステへの出演が発表されたときには、Yahoo!のニューストピックに「ミスチル2年ぶりテレビ出演」と載っていたのを覚えている。
 『SENSE』期を経験していた自分にとっては「たった2年テレビに出てなかっただけでニュースになるの!?」とある意味驚きもあったが、Mr.Childrenが動き出す、とはっきり世の中に伝わった瞬間でもあった。
 シングルリリース時のテレビ出演に関しては基本的に表題曲のみを歌うことの多かったMr.Childrenだが、2014年はカップリング(のちにアルバム『REFLECTION』に収録)の「放たれる」「Melody」も披露された。
 また、11月のSONGSではその直前まで行われていたファンクラブツアーでも披露されていた「名もなき詩」「口笛」(テレビでは約14年ぶり)も披露するなど、少ない機会ながらもスペシャルな選曲でファンを楽しませた。

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 2015年はアルバム『REFLECTION』発売後と、年末のMステスーパーライブに出演。
 収録曲全23曲の中で「REM」「足音 ~Be Strong」しかMVが制作されていなかった本作だが、そのなかからは映画「バケモノの子」の主題歌「Starting Over」が3回、スタジアムツアーのタイトルにもなった「未完」が2回、「fantasy」「幻聴」が1回披露された。
 そして、この年唯一披露された過去曲がNHK「SONGS」での「HANABI」である。
 2008年のリリース年以来となるテレビでのパフォーマンスだった。現在まででリリース年以外に披露されたのはこの番組のみである。
 このころもまだ「コードブルー」の新作が放送されていないため、「HANABI」も今ほど突出して人気曲、というわけではない。ある種の時代の先取り感のある選曲である。
 ちなみに「HANABI」は「Mr.Children TOUR 2015 REFLECTION」でも演奏されており(原曲キー歌唱が復活した公演)、このツアーでの「HANABI」の公式映像は2022年3月31日現在約8,171万回を記録している。

2016年~2019年

 2015年12月25日、「MUSIC STATION SUPER LIVE 2015」で「Starting Over」を歌ったこの日より、Mr.Childrenは再びテレビ出演を行わなくなる。
 先に結論を言ってしまうと、次にMr.Childrenがバンドとしてテレビでパフォーマンスを行うのは2020年11月25日に放送された「日テレ系音楽の祭典 ベストアーティスト2020」であり、約5年間の空白が出来上がる。結果的に2010年代にバンドがテレビ出演したのは2012年、14年、15年のわずか3ヶ年のみとなった。
 2012年のテレビ復帰のときは約3年3ヶ月だっただけに、今回の長さがより際立つ。
 では、2016年から2019年のMr.Childrenの活動状況を年ごとに。

 2016年はほぼ1年をかけてホールツアーを敢行しており、新曲のリリースもなかった。
 だが、NHKの朝ドラ「べっぴんさん」にて新曲「ヒカリノアトリエ」のOAは開始しており、年末のNHK紅白歌合戦に出演するのではないか、と言われたこともあったが、結局出演せずに終わった。
 
 2017年。メジャーデビュー25周年イヤーであり、配信限定ベストアルバム、さらに2枚のタイアップシングル(「ヒカリノアトリエ」「himawari」)の発売があるなど、活発なリリース活動が行われた。
 だが年始はさすがにメンバー稼働は難しかったからか、1月リリースの「ヒカリノアトリエ」はテレビで披露されず、さらに7月リリースの「himawari」も夏に行われた「Mr.Children DOME & STADIUM TOUR 2017 Thanksgiving 25」の真っ最中であったため、一切のプロモーションは行われなかった。
 だが、本人稼働のプロモーションはほぼなかった代わりに(年始に音楽雑誌「MUSICA」のインタビューに答えたのみ)、2017年7月9日に興味深い番組が放送された。
 番組は毎週日曜にテレビ朝日で放送されている「関ジャム 完全燃SHOW」。このなかで「勝手にミスチル論~プロたちが見たモンスターバンドの功罪~」という企画が放送された。
 いしわたり淳治スキマスイッチ杉山勝彦という第一線で活躍し続けるプロデューサー、ミュージシャンが、Mr.Childrenやその楽曲が音楽業界に及ぼした影響などについて語り合っていた。
 Mr.Childrenを分析する、という趣向の企画は今まであまり多くなかったように思えるため、地上波の音楽番組で1時間も使って、Mr.Childrenについて様々な視点で語られる様子は、とても見応えがあった。

 2018年。10月3日に待望のニューアルバム『重力と呼吸』をリリース。さすがにここでテレビ出演もあるか、と思ったが、またしてもテレビ出演は行われなかった。
 アルバム発売前に放送された「MUSIC STATION ウルトラFES 2018」を始めとしたいくつかの秋の音楽特番への出演の可能性もあったが、いずれもリハーサル期間と被ったのか、一切出演はなかった。
 以前と違い、近年のMr.Childrenはライブ期間とプロモーション期間を明確に分けている印象が強くなっている。さらに今回はアルバム発売の3日後にはツアーが開始する、という状況でもあったため、本人稼働のプロモーションに時間を割くことができなかったという事情があったと考えられる。
 このため、『重力と呼吸』の楽曲はリリースから約4年が経つが、「himawari」含めアルバム収録曲はテレビでは1回も披露されていない。
 その代わり、10月5日にはテレビ朝日「アメトーーク!」にて「Mr.Children大好き芸人」という企画が放送された。
 サバンナ高橋、陣内智則、和牛川西など多数の人気芸人が出演し、ミスチルの魅力やあるあるなどを熱く面白く語っていた。
 (個人的に一番面白かったあるあるは、JENさんがMCでギャグなどをやってもその後に紹介される中川さん&田原さんはまったく動じないってやつです)

 2019年。新曲のリリースはなく、ドームツアーと次作アルバム『SOUNDTRACKS』の海外レコーディングに終始した。
 本人稼働によるメディア出演も当然ないが、2019年2月1日に放送された「ミュージックステーション3時間スペシャル」にて再び気になるランキングが紹介された。
 それは「奇跡のスペシャルパフォーマンスランキング」という1コーナーであり、Mステの約32年分のアーカイブの中で視聴者の印象に残っているパフォーマンスをランキングで紹介するものだった。
 そこで紹介されたランキングが以下である。

第1位:Mr.Children「HANABI」テレビ初披露(2008年)
第2位:Justin BieberMステ初登場(2015年)
第3位:RADWIMPS地上波音楽番組初登場で「前前前世」披露(2016年)
第4位:Aerosmith「アルマゲドン」主題歌披露(2001年)
第5位:THE BLUE HEARTSMステ初パフォーマンス(1988年)
第6位:BUMP OF CHICKEN地上波音楽番組初パフォーマンス(2014年)
第7位:井上陽水×玉置浩二「夏の終りのハーモニー」弾き語りコラボ(1992年)
第8位:少年隊×J-FRIENDSスペシャルコラボ(1998年)
第9位:JUDY AND MARY解散前ラスト出演(2001年)
第10位:B'z「LOVE PHANTOM」Mステ限定Ver.披露(1995年)

 なぜこのランキングの1位がミスチル?しかも「HANABI」をテレビで初めて歌ったというだけで。その年に他の番組も含め何度も披露されているのに。
 どう考えてもブルーハーツやBUMP、ジャスティン・ビーバーの初登場映像の方が貴重だし、井上陽水と玉置浩二のコラボ、ジュディマリのテレビラストパフォーマンスの方がスペシャル感があるような気もする。
 2017年のドラマ「コードブルー 3rd Season」、2018年には映画版も公開しているが、その影響がこういったランキングにも表出していることが読み取れる。コードブルーの続編放送以前と以後で「HANABI」という楽曲の影響力が大きく変わったということか。

 テレビに出るタイミングがあったといえばあったのだが、近年(もしくは2014年の分社化、セルフプロデュース期突入以降)Mr.Childrenがより力を入れていると言えるライブ活動期間との重なりが、テレビ出演の機会をなくした、とも考えられる。しかしその間に若年層の間では、コードブルーの大ヒットやストリーミングサービスの急速普及により、Mr.Childrenの代表曲が90年代のヒット曲から「HANABI」へと急激にスイッチしていた。
 

2020年

 そして2020年。
 Mr.Childrenは12月の20th Album『SOUNDTRACKS』発売に合わせて、ついにテレビ出演を解禁した。
 自分は元々3月にドラえもん映画の主題歌シングル「Birthday / 君と重ねたモノローグ」をリリースした際にも、テレ朝ということもあり待望のMステ出演を期待していたが、それは12月に持ち越されることとなった。

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 堰を切ったように2020年年末は次から次へと各局の年末音楽特番に出演したMr.Children。最初に発表された「FNS歌謡祭」出演発表をTwitterで観たときはテレビ出演を本気で喜んだが、その次に「NHK紅白歌合戦」出演が発表されたときは、さすがにスマホを三度見した。それは「すげー!」という意味でもあれば、「なんで今?」という意味でもある。
 NHK2番組だけでなく、テレ朝、TBS、フジテレビ、日テレの4局が年末に行っている音楽特番にはもれなく出演し、『SOUNDTRACKS』に収録されている各局のタイアップ曲をそれぞれの番組で披露した(テレ朝「Birthday」、TBS「turn over?」、フジテレビ「Brand new planet」、日テレ「The song of praise」)。
 そして2020年のテレビ出演の特徴は、「一切の過去曲を歌わなかったこと」である。
 2014年のMステスーパーライブでは「365日」を、2015年のSONGSでは「HANABI」を披露するなど、2010年代のMr.Childrenはプロモーションや音楽特番出演時に、数曲は過去曲を披露していた(それは主に披露する曲数の多い「SONGS」のパターンが多かったが)。
 だが、今回は歌う曲が1曲の場合は当然のこと、2~4曲披露する場合でも、すべて『SOUNDTRACKS』収録曲からの披露となった。
 アルバムのプロモーションなので当然と言えるかもしれないが、ラストとなったNHK紅白歌合戦でも、Superflyや福山雅治、ゆずなど多くのアーティストが自身の過去のヒット曲をスペシャルなステージで披露していたが、Mr.Childrenはアルバムのリード曲「Documentary film」を2008年の紅白出演時とは打って変わってとてもシンプルなステージで披露した。

 2021年の正月に、ある音楽ブロガーの方がMr.Childrenの紅白出場と近年の活動について記事を上げていた。
 この記事では、2020年のMr.Childrenの紅白を2018年のサザンオールスターズのパフォーマンス(「希望の轍」「勝手にシンドバッド」を披露し、舞台上で松任谷由実と共演するなどお祭り騒ぎのステージだった)と比較し、Mr.Childrenのパフォーマンスは「お祭り」という要素からは離れている、とも述べている。
 サザンもアルバム『葡萄』発売の直前に出演した2014年の紅白歌合戦では当時の最新曲「ピースとハイライト」(2013年)、「東京VICTORY」(2014年)を横浜アリーナで開催していた自身のカウントダウンライブからの中継で披露していたので、そのときのスタンスは2020年のMr.Childrenに近いと思われる。なので、2020年のMr.Childrenと2018年のサザンオールスターズを単純に比較することは難しい。
 これはテレビ局側から求められた役割、本人たちの出場スタンスが違うとも推測される。
 しかし、この方の指摘の通り、2020年のMr.Childrenのテレビでのパフォーマンスは紅白も含めて、あくまで現在の自分たちの音楽を聴いてもらうことに終始する姿勢に見えた。
 近年放送される年末の音楽特番では近年、新曲・その年のヒット曲だけでなく昔のヒット曲、またカバー曲やコラボ曲など様々な曲がミックスされて披露されることが多い。
 華やかな面が強調されるが、新曲だけでは番組は成り立たない、という穿った見方もできてしまう(ヒット曲を出しているアーティストが必ずしも番組に出演してくれるとは限らないとも言える)。
 そんななか、Mr.Childrenは約1ヶ月・6回のテレビ出演でなんと新アルバムから6曲もの楽曲を届けた。こんなことができるアーティストなんて限られているだろう。
 ちなみに6曲という数字はこれは2008年年末の『SUPER MARKET FANTASY』プロモーション時の新曲披露数(5曲)を超える。ある種破格の待遇とも言える。
 お祭り、という文脈で考えるなら、Mr.Childrenも毎番組過去の大ヒット曲と新曲をそれぞれ1曲ずつ披露、というかたちをとれば、ヒット曲でお茶の間を沸かせるだけでなく、新曲がそれとまったく遜色のないものであることを示すことだってできたのかもしれない。
 だが、Mr.Childrenはそうしなかった。
 2020年に出演した全番組を観ていたが、Mr.Childrenは音楽特番の場合、トリではないがほぼ終盤(FNS歌謡祭のみ21時またぎでの出演)というタイミングで出演することが多かった。
 だが、それ以上では特に必要以上に目立とうとはせず、他の一部アーティストにあった番組オリジナルのセットや演出などもなかった。せいぜい紅白とCOUNTDOWN TVで桜井さんのコメントがあったくらいだった。桜井さんもライブのように力強く歌う、というよりはしっかりと楽曲の持つメッセージなどを届ける、という意識があるように感じられた。
 『SOUNDTRACKS』というアルバムが華やかさではなく、ある種の荘厳さや美しさを纏った作品であったからこそ、そのようなパフォーマンスになったとも思われる。
 だが、同時にMr.Childrenはこのとき、明確に自分たちは音楽番組においては主役ではない、と認識して番組に臨んでいたのではないだろうか。
 桜井さんは『SOUNDTRACKS』リリース時のインタビュー、また2021年に公開されたB'zの稲葉さんとの対談などで、若手のボーカリストの歌の上手さを絶賛し、リスペクトを表明している。
 アルバムでもメンバー全員が50代に到達したからこそのアダルトで深いサウンドや歌を聴くことができたが、そこには若さやアグレッシブさ、音楽シーンのど真ん中に届ける、という意識は一旦脇に置いたうえでの作品だったようにも受け取れる。
 そんな「自分たちは若くない」「時代の主役ではない」という意識は音楽番組に出演する際のスタンスにも表れていたのではないか。
 きっちり一出演者として求められる役割を果たすが、それ以上目立とうとはしない、それは今をときめくアーティストの役目だと。
 元々Mr.Childrenは音楽番組への出演は得意とはしていなかったので、ある種必然かもしれない。
 近年は音楽番組、特に生放送の場合、SNSを駆使したバズり目的の企画(Mステで度々行われるToshI三択などがまさにそうだろう。ところでX JAPANの新アルバムっていつ出るんですか?)が行われる。
 そうした現代のバズ企画や喧騒とは絶妙に距離を置き、あらためて今一番届けたい曲を歌うことに終始した2020年、それはそれで悪くないのかもしれない。

2021年~2022年 

 2021年は表立った活動は少なく(B'zとの対バンライブというビッグイベントはあった)、新曲のリリースもなかったため、テレビ出演はなかった。
 そしてメジャーデビュー30周年を迎える2022年。すでにアニバーサリーツアーの開催や、5月11日のベストアルバムリリース、2曲の大型タイアップ新曲発表(うちNetflix映画「桜のような僕の恋人」主題歌「永遠」は3月24日に配信リリース)など、次々と大きな情報が解禁されている。
 その流れで、4月1日に放送される「ミュージックステーション3時間スペシャル」にMr.Childrenの出演が発表された。
 ベストアルバム発売前ということもあり、SNS上でも披露する楽曲に注目が集まっていたが、なんと披露するのは新曲「永遠」と2007年のヒット曲「フェイク」だった。

 「永遠」はわかるが、なぜベストアルバムにも入らない(今回のリリースは2011年から2022年の楽曲が対象であるため)「フェイク」を歌うのか。
 4月1日がエイプリルフールだからか、はたまたシングル曲でありながらMステで歌われたことがないからか。
 いずれにせよこのMステでMr.Childrenは2015年放送の「SONGS」で「HANABI」を披露して以来、約7年ぶりに新曲以外の楽曲(要は過去曲)を披露する。
 また、4月1日のMステではデビュー30周年のバンドの過去の登場シーンやミリオンヒット曲、カラオケでよく歌われる曲を振り返る企画も用意されているらしい(まるで2021年4月9日放送回のスピッツのようだ)。メンバーのトークだけでなく、他の出演者の方からもMr.Childrenに関する話が聞けるかもしれないと思うと楽しみでしかない。
 この記事はMステの放送前に書いているが、今年はこの「ミュージックステーション」を皮切りにたくさんの音楽番組に出演する、ということだろうか。
 それらの番組では新曲はもちろん、まだテレビで披露されていない『重力と呼吸』収録曲、またリバイバルヒット以降満を持しての「HANABI」、はたまた90年代のミリオンヒット曲も披露されるのか。
 アニバーサリーツアーも楽しみだが、Mr.Childrenが今年、お茶の間に対してどのようなアプローチをしてくるのかも期待したい。




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