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[No.12]20年、フリーライターやっています~本を出したいという夢

若い人が本を読まなくなったとか、本が売れないと言われて久しいですが、「本を出したい」という人は減っていないのではと思います。編集者として出版のお手伝いをすることも私の仕事ですが、打ち合せに訪れて「本を出したい」とおっしゃる著者の言葉に、ただならぬ思い入れを感じることが多々あります(初めて出される方の場合とくに)。

これって何なのでしょう。

本を出して有名になりたいとか、印税で儲けたいとか(印税で儲かっておられる方は稀です…)とか、単なる憧れとか、そんなことでは説明のできない、なにか強い魅力が「本を出す」ということにはあるのかもしれません。

かくいう私も、かつて「本を出すこと」が夢だったことがあります。

実は本を出すのはそれほど難しくはありません。メジャーなところから出すのは相当に難しいですが、企画内容に共感してくれる編集者に出会いさえすれば、チャンスはあるものです。出会いは意外にひょんなところに転がっていたりしますしね。出すだけならなんとか出せる。難しいのは売ることです。無名の著者が出した本が書店に並ぶ機会も少ないし、目に触れなければ売れるチャンスもありません。そして、売れなければ2冊目は1冊目を出すよりずっと難しい……。

単に多くの人に読んでもらいたいなら、webのほうが絶対に効率的なのですが、みんな「webじゃなくて紙がいい」という。

その気持ち、私もわかります。自分の想いを形のあるものとして残したい、これが出版を夢見る人に共通の思いなんでしょうか。

さて、フリーライターとして細々と仕事を始めた頃の話にもどります。雑誌の仕事をしつつも「本を出したい」という夢は持ち続けていました。でも一方で「絶対私には出せないよな」とも思っていました。

それがあるとき、ほんとうにひょんなことから小さな出版社の社長に出会い、あっさりと本を出せることになったのです。しかも自費出版ではなく商業出版(制作費・流通費・営業費は出版社が出してくれ、一般の書店ルートに乗せていただける)で。

それは、ある助産院で出産をした800人の方々が書いた手記の中から、100本を選んでまとめた本でした。私自身が、長女を出産するときに偶然に出会った助産師によって自然出産というものを知り、その助産院で出産をしたのです。それは自分の人生を変えるほど大きな経験(子ども嫌いだった私が、あと2人も産んでしまうという……。しかも自宅で水中出産!)となりました。

しかし世の中に自然出産を知る人はごくわずか。助産院で出産する人は全体の1%あるかどうか。これは世に知らせなければと思ったのです。

今見ると恥ずかしいくらい素人っぽい本なのですが、共感してくれる人は多く、その本で取り上げた助産院は、あれよあれよという間に県内一の出産数を誇るまでになりました(そのせいで誹謗中傷もあり苦労もしたのですが……)。

その翌年、もう一つ、本を出しました。

子どもを持ちながら働く女性たちを取材してまとめたもので、当時、育児との両立に苦しんでいた私は、他の人はどうやってこの苦境を乗り越えているのかを取材を通じて知りたかったのです。

企画書を作って、前回と同じ出版社に提案を出すと、これもあっさりと出版が決まりました。バブルはとっくにはじけていましたが、今ほど出版業界も厳しくはなくいい時代だったからだと思います。今なら同様の企画書を持ち込んでも、そもそも本が売れない時代だし、読者対象も限られているから売れてもたかが知れている。しかも無名の著者とあっては出してくれる出版社はほとんどいないでしょう。

ともあれ、2冊目も今見ると素人くさくて恥ずかしいのですが、世に出ることは出ました。

未熟であろうがとにかく出してみるもんだなと思ったのは、その本をきっかけに、ある雑誌から連載の仕事が舞い込んできたからです。

(2015年02月27日「いしぷろ日記」より転載)

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