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[No.14]20年、フリーライターやっています~どんな人でも必ず面白いネタを持っている

どんな人でも必ず面白いネタを持っている。
20年フリーライターをしてきてそう確信しています。

もし、大したネタが得られなかったら、それは相手が“つまらない人”なのではなく、自分の聞き方が悪かっただけのこと。

頼まれて「取材の仕方」なる講座をさせていただくことがたまにあるのですが、「取材って緊張する」「どう聞けばいいかわからない」「うまく話が引き出せなかった」という声をよく聞きます。

今でこそ、「今日はどんな面白い話が聞けるかしらん!!」とわくわくしながら取材に出かける私ですが、ライターになりたての頃は同じようなことで悩んでいました。

ライターは1現場に1人いればいいわけだから、他のライターの仕事ぶりを見る機会はまずありません。やり方を習ったこともないし、自分の取材の仕方が正しいのか、他の人はどうやっているのかが、とても気になっていました。

前回話した週刊誌の連載は、別のライターさんと週替わりで交代して担当しましたが、そのライターさん(Kさんとしましょう)と顔を合わせることはありませんでした。

あるときふと編集者のMさんが、「Tさん(私のこと)の取材現場は静かで大人の雰囲気ですね~」と言いました。特に深い意味はなかったのかも知れませんが、当時自分のことを、「引っ込み思案、話下手、自分は取材には向いていないのでは」と悩んでいた私は、「あんたの取材は暗くてつまんない」と言われたような気がして落ち込みました。

Kさんの現場はとても明るくて笑いが絶えないようなのです。きっとそういう現場のほうが、いいコメントも取れるだろうし、いい記事も書けるに違いない。でも、無理してキャラを作るのもしんどい。わからないなりに数をこなして、自分のやり方でいいんだ、と納得できるようになるまでにはずいぶん時間がかかったように思います。

毎週の取材では顔を合わせることのなかったKさんですが、連載が単行本になるというときに初めて打ち合せの場で顔を合わせました。私より3、4歳年下ですが大学在学中からライターとして仕事をしていて、以来ずっとフリーライターをしているベテランでした。鞄も手帳もさりげなくブランド品。ファッションもどことなく個性的。これぞ成功しているライターさんという感じで、40近くになってまだ駆け出しの私にはただただ眩しすぎました。

世間話の流れで「へえ~、メジャーな媒体にもいろいろ書いているんですね~」と言うと、Kさんは「はぁ?」とばかり目を見開いて、「っていうか、メジャーなのにしか書いたことないんだけど」。

それが全然嫌な感じがしないのはKさんの根っから明るいキャラのせいでしょう。早口でポンポン飛びだす話は面白く、人を惹きつけてやまないものがありました。

Kさんの言った、今も忘れられない言葉があります。

「この商売、楽しませてナンボですから」

目からウロコのような気がしました。今まで私は、「自分がどううまくやるか」ということしか考えていませんでした。周囲を楽しませようという余裕などありませんでした。

自分は暗いから、とか、引っ込み思案だから、とかどーでもいい。「楽しませるキャラ」にモードを切り替えて、現場に関わる人みんなが「今日はいい仕事ができたね」と満足できるような現場づくりに貢献すること。それこそがプロではないかと。

「自分が上手に取材ができるか」ではなく、取材相手の方が「今日はいっぱい話ができてよかった」「聞いてくれてすっきりした」と思える取材にすることを考えるべきではないかと。

Kさんはそう教えてくれたのだと思います。

そして、たぶん、あの時から私は変わることができたように思います。

(2015年03月19日「いしぷろ日記」より転載)

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