映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」~クズ男と強かな女たち
先日アマゾンプライムのお試しボタンをうっかり押してしまい、この際とばかりに映画を観ている。
今日はその中のひとつ「人間失格 太宰治と3人の女たち」の感想を。
「人間失格 太宰治と3人の女たち」
2019年公開
監督・蜷川実花
出演・小栗旬、宮沢りえ、沢尻エリカ、二階堂ふみ ほか
蜷川実花監督作品ならではの鮮やかな色彩と大胆な花使いが印象的。色彩の明暗・濃淡がクドいくらいくっきりしている。特に沢尻エリカの場面でのピンクが強烈。
クズヲトコ・ダザイオサム
太宰クズだな…最低のクズ男だな…と思いながら観る。が、いっそ清々しいほどの徹底したクズっぷり。もはやあれはあれで潔いのではないか。
愛人には格好つけまくりで気障な台詞を吐くのに、正妻の前ではとことん情けない甘えん坊。(多額の借金?の知らせにめそめそ泣くし!)
そのクズ男を小栗旬がいい具合に情けなく、どこか滑稽に、そして色っぽく演じているので憎めない。怒ったり呆れたりを通り越して、笑ってしまう。こりゃもう仕方ないわ。という気持ちになってしまう。
太宰の口説き文句
甘すぎて笑っちゃう。
大体「大丈夫」ってなんだよ!!!
でも女はその言葉を真にうけて、ほだされて、恋に落ちるのねぇ。
恋をするまでは甘い台詞で押しまくるのに、いざ関係が始まって愛人がぐいぐい来ると途端に逃げ腰。はぐらかし、誤魔化し、逃げまくる太宰。情けなや…。
作品のために恋を利用して女を振り回しているつもりが、まんまと振り回されて泥沼。挙げ句死んでしまうって…太宰のイメージが大きく変わった。
そして「斜陽」や「ヴィヨンの妻」をもう一度ちゃんと読もうと思った。
3人の女たち
愛の形も幸せも三者三様の女たち。
何が幸せかなんて、他人が決めることじゃない。儚げに見えても女は強くて強か。男に委ねているように見えて、そうとはわからぬように主導権を握って男(太宰)を動かす。
愛人その1・太田静子(沢尻エリカ)
沢尻エリカは女王様のように超然としている。まさにエリカさま!って感じだ。艶やかで華やかで浮世離れしている。
無邪気な世間知らずに見えて、実は現実的で貪欲。
恋も子供もお金も作家としての人生も、自分で選んで決めて、最終的に望んだものは全て手に入れた。
恋に溺れる頭の中お花畑のイタイ女性かと思ったら、一番強かだった。
愛人その2・山崎富栄(二階堂ふみ)
二階堂ふみはどんどん恋に、狂気に、堕ちていく。
眼鏡にひっつめ髪、融通の利かなそうな生真面目な娘が花開くように色香を増していく。盲目的に大宰を愛し、尽くし、子を孕むことを切望し、太宰を失うことを恐れる。
その生真面目な一途さゆえ、次第に壊れ、死への一途を辿る様が実に生々しく痛々しい。
妻と静子が得た子供は手に入れられなかったが、それ以上に求めていた「太宰と共に死に、永遠に一緒にいる」…最後の女になる…という最大の望みを自分の手で叶えた。(太宰がそれを望んでいたか否かは問題ではない)
一番従順そうに見えて一番手強い女。
「死ぬ気で恋する?」なんて台詞を軽々しく吐いたのは太宰その人。
しかし彼にとって、それはあくまで恋を盛り上げるための演出のひとつだったはず。それを真に受けて本当に死を選ぶ(望む)女がいるなんて、これっぽっちも思っていなかっただろう。
「(心中は)やっぱりやめよう。生きよう。」と言うへなちょこ太宰に「生きなくていいです。」「絶対に解けない結び方を調べてきました。絶対に離れません。」と答える富栄。
行き過ぎた一途さは執着に、生真面目さは狂気に変わる。死にましょう、と微笑む二階堂ふみ。怖い。これは頷くしかない。
きっと太宰はまた未遂に終わると思ってたんだろうなぁ。本当に死ぬつもりはなかったんだろうなぁ。あれ、なんで?俺死ぬの?こんなはずじゃなかったのに。みたいな感じだったんじゃないかな。
ラストシーンで目を見開いて、かはっ。と空気を吐いた小栗太宰に、そんなことを思った。
正妻・津島美知子(宮沢りえ)
台詞少なめ、一貫して「耐える妻」だった美知子。
次々と浮名を流し、心中未遂を繰り返しても、必ず家に帰ってくる太宰とその才能を信じているからすべてを受け容れ、耐えていると思いきや!まさかの帰ってこなくていい宣言。
家庭が傑作を書く足枷ならば、自らの手で夫をそこから解き放つ。
良き夫、家庭人であることより作家として傑作を書くことを望む。
「太宰に傑作を書かせる」という望み(というより使命感か?)を、太宰を斬り捨てることで叶えた美知子。その揺るがぬ信頼と覚悟、気概があったればこそ「人間失格」が生まれたのだ。愛人二人とは格の違う愛の形を見せつけられた。
静けさの中に迸る激情。この場面と、こどもを抱きしめてインクまみれで泣き笑いする場面の宮沢りえ。圧巻。
それにしても3人の女たちは強い。
男ばかりの集まりでは気炎をあげ威勢のいいことを言っていた太宰。結局は生き死にすら女たちの掌の上で転がされていたのか…と思うと、あのニヒルな写真が何やら滑稽に思えて仕方ない。
振り回すのか、振り回されるのか
三者三様の女たちを振り回しているようで、その実振り回されている太宰。
馬鹿だな。狡いな。と思いつつ、どこか憎み切れないのは演じているのが小栗旬だからか。それとも私も女だからなのか。
幾つかの場面での小栗太宰が発する「うん」が秀逸。(そして笑える。)
たった二文字。なのに、目線、表情、声、語尾、些細な仕草に「弱ったな。とりあえずのらりくらり誤魔化して有耶無耶にしよう。」っていう無責任さ、狡さ、太宰の本質みたいなものがダダ漏れている。
鬼気迫る執筆や喀血の場面より、個人的には「うん」の一言に俳優・小栗旬のすごさが詰まっていたと思う。
まとめ
太宰治=ニヒルでクールで神経質。生真面目な苦悩の人ってイメージだったのに全然違った。最強のクズ男だった。
そして追い詰められたのは富栄ではなく太宰だったのねぇ。
そういえば。「人間失格」執筆中に家(太宰を囲い込んでいたもの)がどんどん壊れていく場面。「家を壊して書く」ことで精神的にも解き放たれる様を映像化したのだろうけれど。直前の宮沢りえの演技が素晴らしかっただけに、安直で安っぽく見えて残念。
「人間失格」という傑作を書くため、すべて(命まで)失った太宰。
愛を貫くために命を失った富栄。
傑作のために家庭(夫)を失った美知子。
あれ、静子は何も失ってないな。むしろ手に入れてる。
でもきっと、誰一人自分を不幸とは思っていないし(むしろ最終的に幸せと思っていたかもしれない)後悔もないんだろうな。
周りがあれこれ言うのは簡単だけれど、本当のところなんて誰にも分らない。わからないから想像の余地があって、物語になって、おもしろい。
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