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『劇場版 鬼滅の刃』 "煉獄さんをカッコよく魅せるためのクリエイター陣の工夫"をアニメ演出家が解説

こんにちは。アニメ演出家の"おうし"と申します。

かなり久しぶりの更新になってしまいました。。。ところで『劇場版 鬼滅の刃』はご覧になったでしょうか? 僕は公開2日目に観賞し、たくさんの方の感想や独自の視点での記事を拝見しました。

どの記事もとても興味深かったので、触発されて僕も書いてみようと思います。僕にできるのは、やはりアニメの制作現場で実際にアニメを作っている演出としての視点で書くことかな、、と思いました。

そこでこの記事は、”すでに『劇場版 鬼滅の刃』を観た方”  または、"見てないけどネタバレOK" そんな方がもう一度映画館に足を運んで「こんな見方もあるのかー」と、ちょっと別視点で鬼滅の刃を楽しんでいただくことを目指して書きました。

どんな視点かといいますと。。。

読んでいただいた方が”鬼滅を作ったクリエイター”になったつもりになって観賞できる視点です。

映画を観た方の大半はこう思ったのではないでしょうか?

「煉獄さん...めっちゃカッコイイ...!!!」

いやほんと、、カッコよかったですね..!!

では、なぜ煉獄さんをカッコよく感じたのか。煉獄さんをカッコよく見せるために
クリエイターはどんな工夫をしているのか、、
こんなことを深く考えた方はその中にどれだけいるでしょう。

ストーリーや台詞回し、キャラクターの掛け合いが素晴らしいからカッコイイという理由ももちろんありますが、あえて「画面の設計」という観点で煉獄さんがカッコよく感じてしまう理由を僕なりに紹介して行きたいと思います。

こう話すと「いやいや、そんな視点いらないよ。純粋に観客として何も考えず楽しみたい」または「お話やキャラクター同士の掛け合いに集中して観たいんだよ」という方もいると思います。

...わかります 笑

実際僕も最初に観た時はそうでしたし、初めて見る方には何も考えずに観るのをオススメしたいです。

なので、この視点はあくまで ”何度も観る予定の方” または "普通の見方に飽きてしまった方" そして "この素晴らしい映画を作ったクリエイターの視点を体感し、日本の映画史上に確実に残る名作をより深く味わいたい方"  にオススメします。

▼カッコイイ画面とは?▼

前置きが長くなりました。。!では、本題に参ります。。!

画面やキャラクターをカッコよく見せるための大きな要素として、よくクリエイター同士の会話で出てくるキーワードに”ケレン味”というものがあります。「ケレン味が足りない」「キャラクターの芝居にもっとケレン味が欲しい」といった具合です。


ざっくりいうと、画面を映させるための  ”いい意味でのハッタリ・ウソ” のことです。

▼ケレン味を出すための要素▼

では、画面の ”ケレン味” はどうやったら出せるのか。要素を分解してみます。

①画面のコントラスト
②遠景・中景・近景のバランス
③アニメーションのメリハリ(タメツメ)
④対称性を(自然に)崩した構図 ※例外あり

主にこの4つでしょうか。

この中で③のアニメーションのメリハリについてはnoteでは説明しづらいので省略します。①②④の観点から煉獄さんがカッコよく見えるための細かい工夫を考えていきましょう。

具体的な例を上げて説明します。

まず、本予告のこのカットをご覧ください。

再生したら、お手数ですが49〜50秒のあたりで一時停止してください。(トップ画像のように煉獄さんが”炎の呼吸 壱の型"の構えに入っているところ)※再生した直後にその場面から開始する設定になっています。

やはり、素晴らしいカットですね。。!

どうでしょう。先ほどあげた①②④の要素をかなり意識したレイアウトになっていませんか?

▼実際のカットを見ながら分析▼

一つ一つ見ていきましょう。

①コントラスト

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煉獄さんの周囲が炎のライティングによって明るくなっていますよね。その一方で背景の列車内はアンダー気味になっており、コントラストがハッキリしています。
炎の照明が当たっている煉獄さんに観客の視線を集中させる狙いもあると思います。

②遠景・中景・近景のバランス

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遠景・中景・近景にそれそれ被写体が配置されています。

【遠景】: 鬼
【中景】: 煉獄さん
【近景】: 日輪刀の切っ先と火の粉

この3つがしっかり描きわけられていることで画面にメリハリが出ています。

④対称性を(自然に)崩した構図

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画面を中央で二等分してみましょう。左右で全く違いますよね。

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もっというと、煉獄さんのポーズも左右の足の置き方の奥行きの差がしっかり出るアングルになっていますし、羽織り、両足、刀のベクトルがそれぞれバラけているので、迫力が出ています。

ここまで読んでいただいて「本当にそうなの?」と思う方もいらっしゃると思います。


▼ケレン味をなくすとどうなる?(NG例)▼


そこで、全く同じシチュエーション、同じポーズでケレン味を出すための要素をできるだけ省略してみたものをお見せします。

まず、改めて実際の構図がこちら↓

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そして、ケレン味を無くした構図がこちら↓

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いかがでしょう。根本的に絵があまりうまく無い(泣笑)・・・ということを差し引いても、明らかに元の構図よりショボく感じませんか? 心なしか煉獄さんも弱そうで、鬼とどっこいどっこいぐらいの強さに感じるのではないでしょうか?

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少し補足するとこんな感じです。

①コントラスト:通常の車内照明なので迫力が薄い
②遠景・中景・近景:それぞれの被写体の距離感が弱い
③対称性:中央で区切ると左右ともに似た構図

いかがでしたでしょうか? クリエイターさんたちのこういった細かいこだわりの積み重ねによって、僕たち観客は煉獄さんをより一層カッコよく、強い漢に感じられるようになっているのだと思います。

くれぐれも誤解しないでいただきたいのですが、僕はこの作品とは一切関係ありません。ただこの作品を鑑賞し同じ業界にいる者として、関係したクリエイターの皆様の仕事や志に心から尊敬の念を抱いので、少しでも彼らのすごさを伝えたいと思い記事を書きました。

説明不足な点や、わかりにくい部分があったら申し訳ありません。優しくご指摘くだされば嬉しいです。

もし「おもしろーい」と感じたら、イイねをいただければ、『わずかな違いが画面の迫力の差を産む』という観点の記事を、このカットと煉獄さんのアップショットを使って紹介記事にチャレンジしてみたいと思います。

ちなみに煉獄さんのアップショットはこちら↓ ※再生直後(51秒の絵)です。



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