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前髪は涙を隠すために

   今日でこのちっちゃい机に突っ伏すのも最後になる。前腕に顔を埋めて寝るのって痛いし、痺れるしでやりたくないしねー。みんなより一年、早いけど今日が全日制の学校で憧れの、夢に描いた高校生活みたいなのはこれにて終了。四月には通信高校でもう一度2年生を始める。自分以外の人にとっては今日は嬉しい日だったんじゃないかな。それとも、もう受験生になってしまう事を実感して、辛かった?
私は昨日、寝床についてから頭の中でずっとグルグルつがいの感情を攪拌させ続けていたけれど、いつまで経ってもきれいなメレンゲにはならなくて、躍起になっていたらいつの間にか朝を迎えていてた。そのせいなのか一日中、情緒不安定でずっと顔を伏せて   [すぐそばにいる人たちともっとたくさん話をして、仲良くすればよかった。私の事を知って欲しかった。何よりあなたの事を知ろうとするべきだった。]   って後悔をひたすら繰り返した。

  昼休みにはいつもと変わらず食堂に行った。2年間ひとりで通い続けた食堂だ。ちなみに自分以外にわざわざ食堂に来て一人で食事をするやつなんて滅多に居ない。大抵の人は毎日お弁当を持ってきて教室で食べるし、たまたま朝起きるのが遅くてお弁当作る時間がなかったり、母に「今日は自分でお昼なんか買って食べてねー」と言われても、誰か友達と食堂へ行くか、コンビニとかでパン買って食うってのが定番だからだ。基本、単独で食堂に乗り込むなんて皆、忌避するものだ。騒々しい会話があちらこちらから飛び交い、同級生の視線も異級生の視線も隔たりなく浴びるこの場に、来る日も来る日もひとり身を置き飯を貪る姿なんて普通の人にはなんて惨めで寂しい存在なのかと蔑視を超えて、誰もが慈悲の目を向けたくなるでしょう。しかし、この点に関しては、例え哀れみの視線を背負いながらでも自分にとっては好都合だった。知人に食事をしている所を見られると、くちゃくちゃ音立てちゃっているんじゃないかなって変に緊張してしまうから。後、友達に「近藤は一口が小さいから不味そうに食べてるように見える」って言われた事があって、今では改善したつもりではいるんだけれども、品が無いなって思われたくないから、できるだけ人目につかない場所で食べたい。本日は肉うどんとコロッケを食べました。うちの高校のコロッケはほんとに美味しい。多分、衣が他のコロッケと違うんだと思う。なんて形容したらいいのか分からないんだけど、サクッ!って感じじゃなくてモグーってしっとりした感じ(なにもつたわらない)。肉うどんに関してはリアルに100回は食べた。ただの冷凍うどんなんだろうけど、学校で暖かいものなんて持参じゃ中々食べられないから、家で食べるよりも幾分美味しく感じる。市場価値って大事〜。

  午後の授業は英語と数学だった。数学は自習だってよ。なんか最後は逆にちゃんと授業受けたかったもな。
英語の時間リスニングの教科書みたいなん持ってきてなかったら、コロナが始まってから空いた机と机の合間を埋めて、隣の女子に一緒に教科書を見せてもらった。やっぱり、心の距離は身体の距離だなあって思う。大した話をしたこともないのに(一年間同じ空間に居るだけである程度お互いを信用、知ることはできるって言うのはあるが)なんだか安心しきってしまって、変に素直になっちゃう。そんな精神状態のときに全く無垢な優しい言葉をかけられてしまって、思わず涙が止まらなくなってしまった(その言葉を掛けられた、事の経緯は複雑だから省かせてもらう🙏)。私はメンタルは強い方だと思っていたけれど、いつもは自分の自堕落のツケを隠すみたいに飄々と生きていたけれど、この一時間はただただ自分の甲斐性無しさ、強い劣等感に、自分がみんなとは違う世界に置いてかれてしまってるんだという事実を真正面から向き合ってしまって、ほんとうに苦しかった。そんな時に投機心も微塵にも感じさせない真っ直ぐな純粋な言葉に充てられて、心の底にある澱が全部流れ出して来た。すぐに左目を手の甲で拭うフリをして、覆い続けた。右目は鼻下まで伸びた長い長い前髪が隠し続けた。自分は茶髪の、男のわりに長い髪で大体片目が隠れてしまっているから、ゲゲゲの鬼太郎みたいなツラしてるんです。外から見たら私の目は全く見えないけれど、こっちからは意外と見えるんです。

   あはは、一人だけ卒業式みたいな気分なっちゃって馬鹿みたい。多分、もうここにいる人と会うことなんてないんだろうな。自分のことをたわいも無いタイミングで思い出す人が何人いるだろう。思い出してもすぐ自分でも知らない内にまた忘れるんだろうな。全部自分の怠惰のせいだけれども、ずっとみんなと一緒に居たかったって思う。忘れられたくないし、忘れたくもない。どんな悪人でもひょんなことから善人になるし、どんな聖人でもふとした機会に極悪人になるって信じてる。そこまで極端でなくとも、人は変わる生き物だから、もし、同窓会で会ったとしても私が会いたいと心から望んでいた人はそこには居ないんだろうな。

   何時までも、無償の愛を分かち合える人間で居たい。お金、利益が無いと人の為に動けない、親切にできない人間にはなりたくない。大人になりたくない。


6時間目の自習はみんなの勉強する姿を目に焼き付けて、鈴が鳴り止むのを待った。

2024/02/18

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