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ピアス

四月

四月がやってくる。
中目黒で川沿いをずうっと歩きながらお花見をした反動で、足が痛い。
それを悲しく思いながら、四月が目前であることを実感してふと一年前に思いを馳せた。
昨年の今頃、私はリモートで入社式に参加していた。なんとも締まらない入社式で、その締まらなさだけが妙に記憶に残っている。
実家の自室でスーツを着てブランケットを膝にかけていた自分を思い出すと滑稽で、これもまた悲しい。
その後は二ヶ月間、これまた自宅の自室で研修を受けていた。春の寒さに冷える自室で手足を擦りながらぼうっと聞いていた内容は、もうほとんど覚えていない。

二ヶ月

二ヶ月というのは、結構に長い時間だ。
一年前のことを思って頭に浮かんだのは、「あの二ヶ月の間にピアス三つくらい増やせばよかったなあ」である。
社会人として誰かに対面することが一切ないのだから、勤め先がそこそこ大きな金融機関でも爪も髪もピアスもやろうと思えばなんだって出来たはずだ。
大学時代からずっとピアスを増やしたいなあと考えていたのに、なぜ思いつかなかったのだろう。
一つ前の春を思い出して、ただただそれだけが不思議でならない。真っ黒なネイルにして、ピアスを五個くらいぶら下げて、金利とは何たるかを聞いておけばよかった。

在宅研修を有効活用してピアス穴を増やす、と思いつきもしない真面目一辺倒だった私だが、最近の悩みはタトゥーを入れる痛みに耐えられるかどうか、である。
別に反抗期的な悩みや深い理由はない。ただ単純に、「見えないところで自分だけが知るオシャレをすると元気に仕事に行けるんじゃないか」と思っているだけ。

二年目

まあ、後悔をしたところで仕方ない。恐らく二ヶ月も在宅になる事は私にはこの先ないだろう。
紆余曲折あればよかったのだが、特に大きな苦労もなくヌルッと社会人生活は進んでゆき、もうすぐ二年目に足を踏み入れてしまう。
環境や仕事に少しづつ変化はあれど、特に何も無くまた一年過ぎ去ってしまうんだろうなあ、と今から少し諦めのような気持ちだけがある。

桜を見て綺麗だなあと呟いても、穏やかな気持ちになるだけで感動も切なさもなかった。蓋が外れるくらいに楽しいこと、どこかに落ちていて欲しい。

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