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明日。

「知らないふりをしていたんだ。ごめん。ごめんね。」
「え?」
「ごめんなさい、私、本当にこんな……っ!」

お昼。コンビニで買った新作のパンといつものおにぎりを振り回しながら、人の来ない空き教室に向かって歩いていた私を連れ去ったのは、一言も話したことのない女の子だった。

困った。
彼女のカーディガンはどんどん重たそうな色に変わっていくけど、どうして泣いているのかも何の話をしているのかも、そもそも誰なのかも知らない。私、この学校に友達いないし、そもそもまともに名前を覚えている人間が教師ぐらいしかいない。

はぁ。
「あの、大丈夫?ハンカチよかったら使って。ひとまず、そこの空き教室行こう。」

上履きの色を見る限り、同じく入学したての1年生らしい。私よりも頭一つ分低いその子の手を引きながら、私の城である空き教室へ向かう。ここは誰も来ないし、鍵がかかっている(ことになっている)ので教師にもバレない。誰の記憶も残さずもうじきこの学校からもいなくなる私には、うってつけの場所だ。

「ごめんなさい、まず、あなたと話したことないと思うんだけど……落ち着いたら、ちょっとどういうことなのか教えてもらえないかな?勘違いなんじゃないかと思うんだけど。」

「……あの、ハンカチありがとう。洗って返します。説明、します。」

ごめんなさごめんなさいと間に口癖のように挟みながら私よりも華奢で可愛らしくクラスで一番人気になりそうな雰囲気のその子が説明するのを聞く限り、こういうことらしい。


私はつい何週間か前にこの学校に入学したわけだけど、それ以来彼女の夢に毎晩現れては、あの手この手を使って彼女を殺そうとする。当然彼女も、見ず知らずの人間が毎晩夢に出てきて恨まれ追いかけられ殺されそうになるなんて意味がわからず、内容が内容だけに友人に話すわけにもいかず、ほとほと困っていた。だがなぜか恐ろしいという気持ちはあまりわかず、日を追うごとにひたすら申し訳ないと感じるようになった。そしてついに昨日、夢で彼女は捕まってしまい、殺される…と思いきや、夢の中の私は持っていた刃物を手渡して消えてしまった。

そんな説明をされても困る。教室に座る、まだ嗚咽が止まらない彼女と、大層困った顔をしてそんな彼女を見つめる私。誰が見ても奇妙で意味のわからない状況。腰掛けたテーブルに置いていたコンビニの袋の存在を思い出し、ひとまずパンを食べることにした。

「それで…うん、なんか、ごめんなさい?私こそ毎晩あなたを困らせていたみたいで?」

そもそも、それは本当に私なのだろうか。初対面なはずなのに。パンが美味しい。彼女のお腹がなっていたので、おにぎりを手渡して食べてもらうことにした。毎晩追いかけ回したお詫びである。

おにぎりを食べながら彼女がこちらをじっと見ているので、落ち着かない気持ちで自己紹介をすると、知っていますと言われてしまい余計に困ってしまった。私もあなたのこと、知らないんだけど。

「知っています。あなたも、私のことを知っています。毎晩会ってるんだから。」
「え…いや知らないけど…」

「あなたは、この後私と仲良くなって、毎日一緒にお昼を食べるようになって、卒業する頃には私と一緒にいるのが当たり前になって、でもなぜか卒業と同時に連絡が取れなくなって、大人になって再会しても私のことわからないって、私に言います。私はその時ショックで何も言えなかったし、追いかけられなかった。だから私は高校であなたと出会うのと楽しみに生きていたし、卒業と同時にいなくなるのが不思議で、それをずっと、再会したらいつかどこかで聞こうと思っていたの。」

この子、とんでもない不思議ちゃんだな…?真面目に話してくれているのに、ほんっとうに意味がわからない…

「やっとわかった。あなた、あなただけ、逆行してないんだね。ごめん。夢で、聞いて、それで私」

「……はは。」

君は、過去に、未来の私と一緒に過ごした人か…
まさかそれをこんな簡単に理解して、受け入れる人が出てくるなんて。

ああ、もうやってらんない

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診断メーカーの、#書き出しと終わり に便乗して小説書いてみようシリーズです。
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Pexels の Moose Photos による写真

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