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翻訳者がAIを使って気付いた、必要とされる人材でいるコツ

10年ほど前は、ネットで英文を翻訳しても「なんじゃこりゃ!?」な日本語に翻訳されていたのに、今はAIが翻訳業務を担っていたり、むしろ人間はAIの翻訳を更に自然な言葉に整えるだけだったり、ネット翻訳が「使えるもの」になってきているのを実感します。

だけど、お仕事にAIは使いたくないなぁと思うのが本音。実際に英文をいくつかAIにかけてみたのですが、まだまだ人間の私だからこそできることがたくさんあるなと気付かされたからです。

今回は、そのAI翻訳のメリットとデメリットをまとめてみました。

AI翻訳のメリット

①時間をセーブできる

AIを使う最大のメリットは、やっぱり効率の良さです。

実際、私が1時間2時間、ときには1ヵ月もかけて翻訳しているドキュメントをAIは数秒で完成させてしまうんですから、あっぱれといか言いようがありません。

②違和感がほとんどない

特に大きな違和感もなく、ネットや紙媒体のメディアに載せられるレベルの文章をつくってくれます。語尾も、例えば「です」が続かないように、バリエーション豊富な文章を作ってくれるので、単調さもありません。

きちんと意訳もしてくれているので、下手に人間がやるよりも分かりやすくて読みやすいと思うこともしばしば。私は自分の文章を読み直すたびに、改善点しか見つからないというのに…。

③お金がかからない

人間が翻訳すると人件費がかかりますが、AIツールは精度が高くても無料で使えるものもあります。翻訳できるファイル数や文字数に制限はありますが、有料プランにしても月1万円以下で利用できるので、かなりお手頃。

AI翻訳のデメリット

①使っているワードに統一感がない

表記揺れがあったり、ですます調とである調が混じっていたりすることもしばしば。見つけてなおすのが手間なので、自分で気を付けながら翻訳するほうが楽でした。

また、最初の文は堅苦しいのに、次の文はとてつもなくカジュアル!なんてことも。エッセイのように優しいトーンの文章でも、ときどき専門用語が入ってくるので、つい難しい表現が混じってしまうのでしょう。

柔らかく書くのか硬い文章を書くのか、もしくは分かりやすい文章にするのか知的な人向けに書くのか、など読み手の目線に合わせて言葉をチョイスできるのも、人間の強みかなと思いました。

②たまに手抜き作業をしてくる

そう、AIさんたまに手抜きなんです(笑)。もともとの文章に、複雑で翻訳しにくい箇所があると、その部分を翻訳に反映してくれないことがあります。

どう翻訳しようか迷ったときに、AIはどう考えるのかな~とふと気になり、AI翻訳にかけるのですが、ものの見事に難しい場所をすっ飛ばして翻訳されてしまいました。「サボらず自分で翻訳しなさい」という、私へのお告げかもしれません…。

③書き手の意図を反映できていない

これがAIの持つ最大の欠点かなと思います。AIは正しい文法で正しい単語を選んで、違和感のない使える文章を書いてくれますが、書き手の意図までは読み取れない模様。情緒があまり感じとれないというか、淡々としているというか

人間の私が原文を読んでいると「どうしてわざわざこの説明をいれたんだろう」「ここで強調したいことって何だろう」「このとき、書き手ってどんな気持ちだったんだろう」などなど、たくさんの疑問が浮かんできます。

その疑問をもとに書き手の想いに心を寄せてみることで、英文1文で書かれていた文章を日本語では2文に分けてみたり、文章の中の単語の順番を置き換えてみて、細やかなニュアンスを調整していきます。

例えば、"He caught the ball"を日本語に変えると、AIは「彼はボールを掴んだ」と訳すのが基本ですが、「彼がボールを掴んだ」「彼は掴んだ、ボールを」「ボールを掴んだのは彼だった」などなど、いろんな形に変えていくことができますね。このたった4単語に真剣に向き合うだけでも、文章の雰囲気は劇的に変化します

AIに負けない翻訳者であるために

翻訳者のお仕事は、単に言葉を変換したり、自然な言葉を書くことだけではなくて、書き手と読み手の橋渡しをすることです。だから書き手の想いを掴んで言語化していく必要があります。AIには見つけられない、小さな疑問を持つことが大切なんです。

私が今一番多く時間を割いているのは、日本語を流ちょうに話される作家さんですが、「そうそうこれが言いたかった!」「この言葉のチョイスいいね!」と言ってくださり、気付けば出版のお手伝いまでさせていただけるようになりました。

ですが、将来的にAIが心を持つようになるんじゃないかと議論されているぐらいなので、今の私の実力じゃ、あっという間に負けてしまうでしょう。

だから常に人間だからできることを探していかなくちゃいけない書き手と読み手の気持ちや目線に合わせて言葉を書ける人でいなくちゃいけない

「この人ってどんな人かな」「普段よくどんな言葉を使うだろう」「使わない言葉は?」「この概念、読み手の世代に馴染みのあるものかな?」などなど、たくさん疑問と好奇心を持ちながら、毎日を過ごしていこうと思っています。

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