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The First Adventure 1

ブリテイン文芸大会 [Second]
  ~アンさまがよければすべてよし~ in Hokuto 投稿作品
ブリテイン文芸大会 [Second]
  ~アンさまがよければすべてよし~ in Hokuto 告知

ブリテイン文芸大会 [Second] 展示会のお知らせ

 わたしが主催した文芸大会に寄稿した作品です。
 初めてまともに書いたUO小説。
 何か、とっても初々しい……。
 自分の主催イベントということで、登場人物に自分がいたり、手伝ってくれていたともだちのキャラが突然出て来たりします。
 『ちっちゃな魔法使い』『メリークリスマス』に出て来るエマとフィーアの姉妹の原型の子たちも出て来ます。

 では、本編どうぞー!

 キャッツレアーでマフィンとトマトスープ、チキンのローストを平らげ、次は何を食べようかと店のコックと話していたときだった。
 店へと入ってきた少女にふと視線が吸い寄せられた。
 着古したワンピースにエプロン、ボンネット。
 見た目はごく普通の町娘か農民かと言った雰囲気だが、顔色が悪く、息をする度大きく肩が上下する。
 無意識に立ち上がったその時、少女が力尽きるように膝から崩れ落ちた。

「きゃっ!」

 ウェイトレスが声をあげて立ち尽くす中、少女に駆け寄り抱き起こした。

「す、すみません……。 冒険者の方に……お、お願い、が……」

 荒い息の中、そう呟く少女に、持っていたグレーターヒールポーションを飲ませると、少女の呼吸がだんだん落ち着いて、瞳に光が戻ってくる。

「落ち着いた? わたしは冒険者だよ。 どうしたの?」

 少女に手を貸し、椅子に座らせながら、優しく声をかける。

「あぁ、良かった……。 妹を助けてください!」

 少女を安心させるように、大きく頷いて、話を促した。

*-*-*-*-*

「このいちばん右の本棚。 これは私の本なの。 フィーアさん、あなたに貸し出すわ」

 数ヶ月前、厳しくて苦手だと思っていたイレーヌ先生からそう言われた時のことを、フィーアは今でも思い出さずにはいられない。

 フィーアの生活を大きく変える、それはとてもうれしい魔法のような言葉だった。

 フィーアはブリテインのメイジギルド、ソーサラーズデライトで魔法を学ぶ見習いメイジだ。
 フィーアのように農家出身でメイジを目指す者はごく少ない。
 数年に一人の特待生として、猛勉強の末ギルドに入ったフィーアの目に入ってきたのは、ギルドと、そしてブリテインの街中にある図書館に所蔵されたたくさんの本、本、本!
 読書は家で待つ大好きな、家から出かけられない身体の弱い姉の唯一の、そしてかけがえのない趣味だった。
 魔法の勉強よりも、姉に本を届けることが、フィーアの目標になった。
 写本には、それが子供向けの物語であっても、技術と、そして時間がかかる。
 毎日図書館に通って、勉強時間を削り、姉に読ませるために1冊1冊写本していたフィーアの成績は落ちていくばかりだった。
 それに気づき、イレーヌ先生は見かねて自身の本を貸してくれるようになった。
 夕方帰宅する前にイレーヌ先生の本棚から本を借りるのがフィーアの新しい習慣になった。
 図書館での写本も続けていたが、勉強にかけられる時間は格段に増え、成績も上がった。
 イレーヌ先生以外の教官や、貴族や冒険者の子供で裕福な同級生たちも本を貸してくれるようになった。
 フィーアの前には、明るい未来が広がっていた。

「この段も全部借り終わった、と。 次は……あ、ちょっと高い……なっと……うわああ!」

 手の届きやすい段の本を読み尽くし、少し高いところの本を取ろうとしたときだった。
 ぎっしりと詰め込まれていた本がバサバサバサっと崩れ落ちてきた。

「ああっ……! 貴重な本が……!」

 慌てて、丁寧に1冊1冊埃を払い、ページの折れがないことを確認して本棚へと戻していく。
 この段の本は古い本が多いようだった。

「あれ……? この紙何だろう……?」

 10冊ほどを戻したとき、本からはみ出している古ぼけた紙片を見つけた。
 紙片には『グリゼルダ あなたから預かったアーティファクトは言われた神殿に隠したわ。 あんなところに隠して、あなたホントに忘れない?』と走り書きで書かれていた。

「アーティファクトって……とても強い魔法が込められたアイテムのことよね……?」

 紙片を見ながら、フィーアは胸のドキドキが止まらなかった。
 物語の本で見た、宝の在処を示す地図や暗号みたいで、冒険へと誘われてるように思えて仕方なかった。

「神殿ってどこなのかしら……? グリゼルダって、あの有名な魔女のこと……?」

 そのとき柱時計が大きくなった。
 フィーアは慌てて本を片付けると、紙片とそれが挟まっていた本をバックパックに入れて、その場を後にした。

*-*-*-*-*

「あ! フィーア! おっせーよ! 今日は早く終わるから待ち合わせ早めって言ったのおまっ……あぁっ?!」

 フィーアの姿を見つけるなり、ブツブツ文句を言って来たのはテオ。
 フィーアと姉のエマの幼馴染で、戦士ギルドで見習いをしている。
 フィーアは興奮した様子でテオの腕を掴むと、半ば走るようにして家へ向かう。

「おい! フィーア! 一体何だって言うんだ!」

「テオ、冒険したくない?」

 街道に人通りがないことを確認して、目をキラキラさせながら、フィーアは不満そうなテオに言う。

「冒険?」

 不審そうな色を浮かべながらも、好奇心を抑えきれない様子でテオが訊ねる。

「お姉ちゃんにも聞かせたいのだけど……」

 そう前置きしながらも、抑えきれずに帰り際見つけた紙片について話し始める。
 戦士を目指しているだけあって、アーティファクトという単語には大きく反応する。

「それは確かに、冒険だな!」
「見つけたいね! アーティファクト! まだあるのかな~」
「フィーアの先生がグリゼルダってオチじゃなければあるんじゃね?」
「グリゼルダって昔の人じゃないの? 今も生きてるの?」
「ジェフリーは生きてる! 昔の人だけど、グリゼルダより有名な戦士だ」

 そんな話をしながら、先を争うように姉の待つ家へ駆け込むと、口々に冒険の計画を話した。

 きっと一緒に盛り上がって、喜んで自分たちを冒険に送り出してくれると思ったエマは、しかし、じっと話を聞くばかりで、ついに話すことがなくなった2人に静かに言った。

「魔物は強いわ。 まだ修行中のあなたたちが冒険だなんて知らないところに2人だけで行くのは反対です」

 エマの言葉に2人は現実に引き戻された。
 テオは身体中にできた青あざを思った。
 フィーアは唱えても形を成さずにプスっと空気の抜けたような音と煙になるばかりの呪文を思った。

「この本と紙は先生にお返しなさい」

 エマはそう言うと、夕飯の支度を始めた。
 残された2人は、しかし、2つの考えに、揺れ動いていた。
 エマの言う通りだという思い。
 そして、例え危険だとわかっていても、冒険に惹かれてしまう思い。

 その日の夕食は、いつになく静かなものになった。

*-*-*-*-*

 フィーアは次の日初めて姉の言いつけに背いた。
 本を返さず、枕の下に隠したのだ。

 本に挟まっていた紙片は古かった。
 先生が書いたものだとしても忘れてしまっているに違いないと思った。
 本だって、しばらく借りたままでもきっと気づかない。
 姉の言葉は胸に刻まれ、すぐに冒険に出る気持ちはなくなった。
 だけど、完全に諦めるのも無理だった。

 夜になると本を取り出し、ため息を吐きながら月明かりに照らして眺めるのが日課になった。

 何度そういう夜をすごしただろうか。

 階下から言い争うような声が聞こえ、気になったフィーアは様子をうかがった。

 それは父と母の声だった。

「お金の話してる……」

 詳しい話までは聞こえなかったが、それだけはわかった。
 前から苦しいのだろうことは薄々気づいていた。
 特待生で、魔法を学ぶのにお金はかからないが、フィーアももう働いていておかしくない年齢だった。
 同じ歳の友人たちはもう立派な働き手になって、家にお金を入れている。
 身体が弱い姉も家事をするのがせいぜいで、その薬代も安くはない。
 フィーアはそっとベッドに戻った。
 アーティファクトを見つければ、そしてそれを売り払えば、まとまったお金になるだろう。

「アーティファクト……」

 いつまでもその言葉が脳裏から離れなかった。

*-*-*-*-*

 次の日の朝、ギルドへ向かう前に、こっそりキッチンからマフィンを幾つかいただくと、バックパックに隠して家を出た。

 いつものようにソーサラーズデライト前でテオと別れ、しかし建物の中には入らず、公立図書館へ戻る。

 一人でアーティファクトを探しに行こうと決めていた。
 エマに反対されてるし、危険なこともわかっていたので、テオを誘うことも出来なかった。
 テオが一緒だったら心強かったのに、そう思いながらも、黙って図書館で資料を探す。

 まずはアーティファクトを隠したという神殿について調べなければならない。
 トラメルとマラスに10神殿、フェルッカという世界にも9神殿があるということは、既に調べていた。
 どの神殿に隠したかわからない以上ひとつひとつ当たっていくしかないと思っていた。

 地図を開き、博物誌の本でどの神殿が行きやすいか調べていく。
 いつしか集中してしまい、周りの物音も気配も、何もフィーアに届かなくなっていた。

「フィーア……! お前……様子がおかしいと思ったら……」

 夢中で調べているうちに、テオが側に来ていた。

「テオ!」
「一緒に行くからな! 置いてこうとするなんて水臭いぜ!」

 なぜか涙が出て来た。
 自分でも思っているよりずっと心細かったようだ。
 テオが頭を不器用に撫でてくれてもなかなか止まらなかった。

*-*-*-*-*

「最初はマラスのルナってところに行こうと思うの」

 ブリテインの街の中を歩きながら、テオに説明する。

「ルナに神殿があるのか? 冒険者が集まる街だって聞いたことはあるよ」
「うん、知恵の神殿って言うんだって。 街の中だから、危険はないみたい」

 話している間に、緑色のゲートの前に着く。

「これは特別なゲート。 えっと、ニュジェルム? っていう街への一方通行」

「OK! わかってる! 先に行くぞ!」

 いつからつないでいたのか、手と手が離れて初めて、つないでいたことに気づき、そして再び心細さが襲ってくる。

 テオの姿が消えたのを確認して、意を決して自分もムーンゲートに飛び込む。
 一瞬の後、目を開くとそこは南国風の街並みで、目をキラキラさせたテオが待っていた。

「ここがニュジェルムだな? 次こそルナだ!」
「うん! 行こう!!」

 二人は二度目の今度は躊躇なくゲートに飛び込んだ。

*-*-*-*-*

「うわぁ~! 今度こそルナだね!」

 ゲートを出ると砂岩の防壁に囲まれた大きな建物の前に出た。

「この大きな建物が神殿なのか?」
「うーん……銀行の上の階らしいけど……」

 冒険者らしいきらびやかな鎧に身を包んだ人たちがひっきりなしに行き交う中を、再び手をつなぎ、キョロキョロ辺りを見回しながら進んで行く。

「人がいっぱいだね……」
「あ、ルナ銀行って看板……」

 看板に引き寄せられるように奥に進むと、人ごみの向こうに階段が見えてきた。

「銀行の他にもいっぱいお店があるんだね」
「だな。 冒険者っぽい人もいっぱいいるなぁ」

 階上にあがると、そこにはほとんど人影がなく、テオとフィーアはホッと息をついた。

「なんか、すごいね……」
「あぁ、魔物はいなかったけど、疲れたな……」
「うん、疲れた……」

 階段を上がってすぐのアーチをくぐると、そこは広いホールになっていてベンチが並んでいた。
 ぐったりと手近なベンチに腰掛ける。

「あ!」
「あっ!」

 思わず二人の声が重なる。
 座ったベンチの目の前に、ひっそりとアンクが佇んでいた。

「こんなところに神殿あるんだ……」
「このホール全体が神殿なのかな?」

 さっきまでの疲れはどこへやら。
 ここかな? あそこかな? とアンクの裏やカーテンの陰、紋章旗の裏、と思いつく限りを探しまくる。

「ちょっと探したくらいで見つかるんだったら、もうとっくに見つかってるよな?」
「だよねーこのアンクの裏の壁とかに仕掛けがあるとか?」

 そんなことを言いながら、ペタペタ壁を押したり、叩いたり。

「おい、チビども。 何をしてる?」

 壁じゃなかったら、床かな? と這いつくばった途端、頭の上から声が降り注いだ。
 ビクッと固まり、テオとフィーアは顔を見合わせた。

「ここは神聖な場所だ。 子供の遊び場所じゃない」

 声の主がベンチに座ったのがわかった。
 二人は観念して起き上がり、並んで声の主の前に立つ。

「遊びじゃないんです。 探し物なんです」
「探し物? 何を?」

 声のトーンが少し和らいだ気がして、フィーアとテオは声の主を観察する余裕が出来た。

~つづく~

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