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9月25日 主婦休みの日

(いつもより少し長めです※2400字程度)

「今日、私、主婦業お休みするね!」

 本日朝一番に家族に宣言した。それはまるで、「今日は私の誕生日よ!」とでも言ったかのようになんだかくすぐったいものだったが、それでも宣言しておきたかったのだ。

 今日は主婦を休みます。

 宣言した時、まだみんな布団の中でうつらうつらとしていたので、誰かのぼんやりした声で「はぁい」と聞こえただけだった。

 それでも、私は宣言したので心軽く、そのまま眠った。


 貴重な休み、活動的にやりたいことをしようだなんて思わない。

 やらないことを選択したって良いはずだ。


「ママ、まだ起きないの?」

 小学4年生の次女が最初に起きたようだ。私の元に来て言う。私は眠っているので、答えない。

「パパ、ご飯食べたい」

「そうだな、恵美、そろそろ朝飯にしよう」

 私は眠っているので答えない。そのすぐ後で、今度は長男が口を開く。

「お母さん、今日は主婦業お休みしますって言ってたよ」

 なるほど、さっき「はぁい」と言ってくれたのは長男か。

「なんだそりゃ、ま、いっか」

 夫は納得も了解もなく、不思議に思っているようだ。そのまま寝室を出てリビングに向かった。

「ママ、ゆっくり寝てね」

 長女が優しい声を掛けてくれたので、私は密かに再びの夢の中に入る。


 そうして目を開けたら、昼の1時だった。

 ええ、誰も起こしにこなかったのか!?

 いいんだけど、いいんだけど、朝ご飯だよとかお昼ご飯だよとか、そう言うの、ないのか。驚いて体を起こしたまま呆然と固まってしまった。耳を澄ませてみても誰の声も聞こえない。私は布団を仕舞い、リビングに向かう。

 誰もいない。

 ええ!皆それぞれ出かけてしまったってこと?

 いや、分かる、分かっている。当たり前だけれど私は大人だし寝かせてくれと願ったのも私自身だ、なにも間違っていない。みんなそれぞれ予定もあるだろうし。

 そう思って台所に入ると、冷蔵庫のホワイトボードにメモがある。

『冷蔵庫のランチプレートを食べてください』

 指示通りに冷蔵庫を開けると、確かにある。朝食、用意してくれていたのかと、ちょっと嬉しくなったのと同時に安心した。

 ラップで包まれたサラダとスクランブルエッグ、ソーセージ。サラダだけどければレンジでチンできる。そっとサラダをどかすとそこにメモがある。

『15時にこのマッサージ屋さんに行ってください』

「ええ!?」

 そこにはチラシが張ってあった。マッサージを予約してくれたってこと!?しかもアロママッサージ!以前に長女とテレビを見たときに行ってみたいねと言っていたものである。覚えてくれていたのだろうか。

 時計を見ると13時半。このランチプレートを食べて向かっても十分時間がある。

 私はうきうきと弾む気持ちを抑えつつランチプレートを食べ始めた。

 人様に作ってもらった食事のなんたる美味しさ。

 これを作ったのは長女だろうか、長男だろうか。夫は料理づくりが苦手だから多分違うだろう。でも、誰でもいい。嬉しいしおいしい。

 食べてから少し時間があったので洗濯でもと思ったが、洗濯物は綺麗になくなっている。洗い物も今使った食器だけだった。全て綺麗に片づけていってくれたのだろう。やるべき仕事がもう終わっていると言うのはなんと快適か。主婦を休むと宣言した割に気になってしまうのだった。


 少し早いけれど出かけることにした。


 こんな風に、やらなくてはならないことも無くふらり外に出かけるのはとても気持ちが良い。家族のグループメッセージで感謝と感激を伝えてみたが、いいねスタンプが押されたのみで返信はない。


「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」

 マッサージ店に着くと、香りの良い店内で綺麗な店員さんが出迎えてくれた。正直、これだけでも胸がいっぱいになる。そのまま案内されるまま個室に向かい、施術を受けた。私の大好きなラベンダーに包み込まれるよう。心地よい90分が始まった。


 ああ、幸せ。


 ・・・・・・こんなに90分て早かったっけ。

「ありがとうございました。またお待ちしておりますね」

 店員さんに見送られ、夢のような90分が終了した。店の外に出ると、夢からさめたせいか、綺麗に輝く陽の光がまぶしい。ああ、私は今、大切にされているのだと気持ちが満たされる。

 ピコン、とスマホが鳴る。長女からだ。

「どこか寄りたい場所はある?」

 そう聞かれ、少し考えるが、不思議となにも浮かばない。

「もう十分癒されたからまっすぐ帰ろうかな」

 そう返すと、再びいいねスタンプが押された。


 自分がやろうと思うことをなったわけではないのに、なんだろう、この満たされた気持ち。

「ただいま!」

 私がドアを開けると、バタバタと長女が駆けてくる。

「おかえり!」

「令ちゃん、ありがとう!アロママッサージめっちゃ気持ちよかったよ!すんごく良い香りでね・・・・・・ん?いい匂い」

 リビングに向かうにつれて美味しそうな匂いが漂う。

「お、恵美おかえり!」

「お母さん、お帰り」

 台所には夫と長男がいてどうやらカレーを作っているようだ。すると、私の後ろにいた長女が私を追い越した。

「せーの」

「「「お母さん、いつもありがとう!!」」」

 長女の音頭に併せて夫と長男も声をそろえた。

 私の胸の中はあふれるほどの充足感。


 そうか、満たされる理由はこれか。

『感謝されること、大切にされること、思われること』


「本当はさ、ただお母さんを癒そうと思ってランチやマッサージを予定したんだけどね、お母さん、スマホのメッセージにちょこちょこ『ありがとう』って送ってくれたでしょう。あれ、すごく嬉しいねって皆で言っててね。そう言えばお母さんへのありがとうが足らないかも知れないと思って、声を揃えてみました」

 照れ隠しのようにいたずらに笑い、長女が言う。夫も長男も照れくさそうに笑っている。


 ランチもマッサージも、今作ってくれているカレーも本当に嬉しい。でもそれより何より、『ありがとう』が嬉しいと思った。その一言だけで日々の疲れもなくなるようだ。


「ありがとうね」


 主婦休みの日は、ありがとうの日。

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【今日の記念日】

9月25日 主婦休みの日

年中無休で家事や育児にがんばる主婦が、ほっと一息ついて自分磨きやリフレッシュするための日が「主婦休みの日」。1月25日、5月25日、9月25日がその記念日。女性のための生活情報紙を発行する株式会社サンケイリビング新聞社が中心となり制定。日付は年末年始、ゴールデンウィーク、夏休みなどの主婦が忙しい時期のあとの年3日を設定したもので、主婦の価値を再認識する日との提唱も行っている。ちなみに「主婦」とは普段から家事を主に担当している人のことをいい「主夫」も含む。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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