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11月11日おりがみの日

「そうだ。おりがみでも折ろうか」

 私は棚から正方形のケースを取り、その中から1枚のおりがみを取り出した。藤色の美しいその紙の四方を対角で折り合わせる。少しもずれることのないよう、丁寧に丁寧に。
 おりがみを折れば大丈夫。


 次女が生まれたばかりの頃、産院から自宅に戻ったその1週間後に、総合病院へ入院することになった。私ではなく生まれたばかりの次女が、である。彼女に接した家族は皆元気だったのだが、どこからか風邪をもらったらしく、高熱を出した。赤ちゃんなのに泣きもせず、ずっと眠っていた。近くの小児科に連絡すると、即入院のつもりで診せに来なさいと言われ、それだけで情けないけれど私は涙した。

 手伝いに来てもらっていた母に長女のことや一切を任せた。病院へ行くと、そのまま家に戻ることなく、紹介された総合病院に1週間入院することとなったのだ。

 私のせいだとしか思えなかった。担当の女医さんに慰められても泣けて仕方なかった。次女に辛い思いをさせていること、それに加えてせっかく産婦人科から家に戻れたのに長女を抱きしめてあげられないこと。まだ4歳の長女にもたくさんの我慢をさせていた。そのどれも、情けなくて悔しくて、申し訳なさに泣いた。

 最初の3日程はハラハラと落ちる涙をそのままに、次女を見てやることしかできなかった。けれど、その次女も少しずつ上手に落ち着いて眠ってくれるようになったので、私は長女に思いを馳せる。

 何かしてあげたい。

 私は売店に行き、おりがみを買った。

 やっと字が読めるようになってきた長女に、手紙を書きたい、でも見て喜んでくれるものを渡したい。悩んだ末、おりがみに手紙を書いてハートの形に折ることにした。退院までの4日、1日に1つ。

 同じように、次女にもハートを折った。淡い色のハートを顔の前でゆらゆらさせると殊の外喜んでくれたのだった。私もそれに喜び、ハートだけでなく動物や仕掛けのあるものなど、毎日たくさんのおりがみを折った。折った回数が増えるにつれて、私の気持ちも落ち着いていくのが感じられた。

 四角い紙の四つ角を、丁寧に整えて折ることで、まるで大丈夫だと言われているように私の呼吸は整った。


 そのハートの折り方を、今はもう6歳と2歳になった娘に教えている。

「ママ、上手」

 長女がそう言いながら、自分も上手にと丁寧に折っている。次女は上手く折れないけれど、くしゃくしゃと嬉しそうに、おりがみを握りしめる。ハートは、大きなものを8個、小さなものを12個。長い時間黙々と折り続けていると、私と長女、次女にも静かな時間が訪れ、それはとても幸福な時間である。時々、僕も仲間に入れてとお腹の中をポコポコと蹴るので、それを長女に伝えた。

「あなたの分もちゃんとあるからね」

 そうして、折ったハートを私のお腹に見せるように並べると、長女が気づく。

「ママ!4つ合わせるとよつ葉のクローバーになった」

 丁度、ただいまと主人が帰宅した。微笑む私達を見て彼もまた幸せだねと笑った。

 おりがみの角は幸福で、それを折り重ねるほど、幸せは増すのだと改めて知る。

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【今日の記念日】

11月11日 おりがみの日

おりがみの楽しさ、教育的な効果などを多くの人に知ってもらうことを目的に株式会社日本折紙協会が制定。日付は数字の1が4つ並ぶこの日のそれぞれの1を正方形のおりがみの1辺と見立てると、全部で4辺を表すことになるため。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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