安野ゆり子

短歌(心の花)/1996年生まれ/群馬県出身/ふっくらさんの着物【ふくのん】

安野ゆり子

短歌(心の花)/1996年生まれ/群馬県出身/ふっくらさんの着物【ふくのん】

最近の記事

短歌77(隠岐島へ渡った歌と旅行記録)

2024年4月13日〜15日 海士町へ 前に海うしろに山があるだけの眺めを眺む甲板に出て 人工物遥かになりて古(いにしえ)の人の目も見た海山(うみやま)がある 海と空、島と波とを群青の濃さにて描(えが)き分けた神様 海の水ときおり頬に当たるとき青春に似たさざめきがある 春なれば水の透きくることを言う今日の海しか知らぬわたしに 歩くとき私は風を生み出して日焼けた頬を優しく冷やす すれ違う人全員に挨拶をしても疲れぬ人口密度 朝食に出た漬物をAmazonでポチッて配

    • 俳句12(石屋の孫娘の句)

      令和5年10月〜11月 花蓼や祖父は墓建て暮らしけり 一叢の白粉花や川終わる 立ち話そのきっかけに烏瓜 立ち去れば鯉解散す秋土用 身に入むや荷造りはまず窓を開け 雪迎えここに残していくコンロ 挨拶のある別れなら柚子贈る 埃ごと本詰めてゆく蜜柑箱 病棟のサイクルに沿う日の短か 靴下を脱いで正座の小春かな 院内売店熊手の話聞こえざる 入園料払い枯野を見ていたる 重心を変えればブンと冬の蜂 意図的に枯葉を踏めば湿る音 大根を買う選択肢ある夫婦

      • 俳句11(用水路に落ちたことない人の句)

        令和5年9月〜10月 龍淵に潜む砂場の落とし穴 十六夜や隣家のチャイム連打され ネクタイのペイズリーには秋袷 店畳む報せのその後敬老日 萱を刈る愛を受け取れない日にも 薩摩芋分ける相手のいればこそ 可愛さをオクラに言っていれば無視 死ぬ時に見られるはずの秋の沼 鶺鴒や朝の川には朝の水 ボンテージ新調しても秋意かな 秋の家母は太極拳に行き マスカット甘さを全肯定されて 果樹園が一生のすべて秋の蝶 革靴やようよう寒き立ち飲み屋 秋澄みて落ちたことない

        • 俳句10(転がって移動する人の句)

          令和5年6月〜8月 ゴーヤチャンプル躁鬱にして三徹目 花茣蓙やリモコンまでを転がって 蚊を打たぬ人の整えられた眉 寂しさを日常としてアジフライ 口論の度に蓮の葉揺れている 太鼓鳴り偉い人だけいる御祓 一人世帯一人に二尾の舌鮃 米掘ればまた鰻出る土用かな 秋澄むや前髪は掻き上げていて 弟へ貸出中の秋扇 梶の葉でぴとんぴとんと頬を打つ 楽しくもないが嫌でもない墓参 花火持つ君への信頼度ならゼロ 悪口は祈りの果てで夕砧 鹿火屋守カレーを惰性でなく作る

        短歌77(隠岐島へ渡った歌と旅行記録)

          俳句9(扇風機の風を顔面に当てて寝る人の句)

          令和5年4月〜5月 待ってれば来る人を待つアイスティー 夏花摘みみたいに替えるティーバッグ 誰が人の古里ここは麦の秋 老いばかり残されている父に真風 晶子の忌鏡は毎日拭くけれど とばっちりっぽい理由にて藤嫌う 君よりも噴水に向く心あり 甘酒の瓶に並んで色仕掛け 扇風機だけはわたしのものだから 紫陽花の話題に占拠された街 ただいまと言って裸足であがる部屋 茄子漬やぽてりと人が落ちている 微笑みを磔にして衣紋竹 白玉が浮く時間差を佇みぬ 捨てないと割

          俳句9(扇風機の風を顔面に当てて寝る人の句)

          俳句8(八つ目鰻じゃない人の句)

          令和5年2月〜3月 いまのとこアイアムノット寒八つ目 甘露(アムリタ)が降るのは他所の国どてら 黒服の指示の通りにバレンタイン 佐保姫や出勤順に新衣装 朝寝むにゃゴミ出ししてくれるから好き 伊予柑をぶつけて振り向いてほしい 浴槽の縁に湯をかけ春寒し えり挿すやモラハラ夫にモラハラす 配信のカーニバルめくチャット欄 若いねと言われる場所へ春日和 春の鴨潜り全然出てこない 脚の踏ん張り一眼レフの先に花 セロトニン過剰分泌花疲れ 春暑し担いで帰る培養土

          俳句8(八つ目鰻じゃない人の句)

          俳句7(YouTuberな句)

          令和4年12月〜令和5年1月 寒柝やYouTuberの敵として マスカラがダマのままにて年を越す 初夢のフルCGで疲れたり 精神科の予定から書くカレンダー ベーシストの弟は七日に呼び出そう 冬苺買うは全き愛である 樹氷にて首吊っていて探し出すよ まず母を愛そうとして霜焼けす 北風に膝さらし立ち漕ぎしてた橋 風花を教えられた日パンケーキ 湯豆腐が好きとか分かり合えないね 風邪声と泣き声乗せた電波かな 息白く他人の家へ帰宅せり セーターで男の子めく男か

          俳句7(YouTuberな句)

          俳句6(菊池じゃない男の句)

          令和4年6月〜9月 プール後の肘ついてするドライヤー 緑への親しみに×(バツ)通信簿 境内で寝てる菊池じゃない男 逆向きの作り帯なり金魚柄 蚊遣香夕飯いらぬと電話あり 工作はチップスターの筒で城 ペンダント外してきちんとした裸 遠雷や帰れなくなるまでいるね みんな鬱だから明るいはたた神 隣りから同じアラーム秋の朝 開幕や風に炎の色つけて

          俳句6(菊池じゃない男の句)

          俳句5(精神病みな句とChim↑Pom展の吟行句)

          令和元年7月〜令和3年3月 ガソリンをひっそり撒いて火気を待つ スプラウト散らしてサラダ出来上がる 黒魔術研で飼ってるなめくじり 宅飲みで子にはラムネを注いでやる 家庭科でその子の幸福度がわかる うつ病の小康状態バナナうまし 牛蒡引くBGMはスガシカオ ピザ囲み見知らぬ人と花見かな 以下8句 令和4年3月4日 六本木森美術館「Chim↑Pom展」吟行 チンポムといえど託児所にミッフィー 空き箱のロボットが待つ雛の客 指で塗ったのだろうか塗り絵のうんこは

          俳句5(精神病みな句とChim↑Pom展の吟行句)

          短歌76(自分の時間を生き始めた人の歌)

          俳句同人誌「里」12月号短歌企画掲載 探したら遅刻しちゃうしちぐはぐのピアスでピアスホールを守る 花瓶の水換えてミントに水を撒きシンクの皿は三日溜めてる 霜柱見つけて潰さないでおく撫でたき人を撫でずに駅へ ユズリハが質に入れたら金となる唯一の可能性として揺れ 手渡しで貰った個展のDMを本に挟んで降りるバス停 前傾で自転車を漕ぐ詰襟が止まるおんなじ詰襟の横 庭砂利で滑りそのままターンして弟に蹴りいれてる男児 その人は濁っているというだろう地球の緑色

          短歌76(自分の時間を生き始めた人の歌)

          短歌75(夫とうまくいかなすぎて死にそうな歌)

          「心の花」2024年4月号掲載 洗濯機毎日ふたり分まわす許さないため復讐はしない 捨てどきに困りてドライフラワーを潰す怒りの演出として 奥さんのためにと貰ったチョコレートなんか減ってる朝のキッチン 独身の夫が買った土鍋ではレシピ通りの量で炊けない 憎む昼 ペペロンチーノに唐辛子入れないのでなく入れ忘れてる 呼ぶならばこれも釡玉レンチンのうどんに生卵を崩して 明日の朝心置きなく病めるよう野菜スープを作ってから寝る 機能性食品ばかりの冷蔵庫閉めてこ

          短歌75(夫とうまくいかなすぎて死にそうな歌)

          短歌74(弟にものを食べさせる歌)

          「心の花」2024年3月号掲載 ミュージシャンの弟稀にうちに来てはゴーヤや豆を食わされている 確率の話であって母親の遺伝子として弟は細い 「ごはんにもパスタの具にも」と書き込まれトマト煮込みは板として凍つ 恋人と喧嘩した日の冷凍庫の筑前煮食べてくれる弟 明日から始まるバイトの誓約書 続柄:姉 の横にシャチハタ 告白をされるかもという告白を聞かされているわたくしは姉 今夜にも食べちゃうと言う冷凍のおにぎり二つ持たせ帰せば コンビニで赤飯にぎり選ぶ

          短歌74(弟にものを食べさせる歌)

          短歌73(弟の生態の歌)

          「心の花」2024年2月号掲載 背負ってるベースを決め手に弟の名を呼ぶここは代々木駅前 肉か魚か問えば魚がいいと言う要するに鮨が食べたいわけだ 先輩の彼女の料理と保育園の給食とパスタから成る弟 一年の間にビールを飲むようになってて白子はまだ好きじゃない 明日はバレンタインと今朝のマックにて知ったと話す人宛てのチョコ 指運び見るになかなか弾けているベースの音は聞こえないけど 音楽として成り立っているならばこのドラマーは優秀ならん ドリンクの引き換

          短歌73(弟の生態の歌)

          短歌72(冬と主婦の歌)

          「心の花」2024年1月号掲載 化粧落としシートを顔に当てるのが少し怖くて霜月に入る 離婚危機なかったことにして祝う結婚記念日ランチ天丼 「結婚は運だよ」と言う居酒屋に来て一杯で酔いたる夫 キッチンにオレンジ色の首輪したペットボトルのまたひとつ 冬 真鱈子の花煮の汁と幾千の粒はシンクに星河と流れ 里芋を剥いた日ならば主婦であることを立派な職と思える 東京に雪降ると聞く白焼きと自分の猪口に注ぐ燗酒 クリスマスマーケットにてグリューワイン飲んで今

          短歌72(冬と主婦の歌)

          短歌71(いろんな男の歌)

          「心の花」2023年12月号掲載 どこまでもホストのトラックその果てに夕陽は落ちて職安通り 東京の奇跡にかけて歌舞伎町のバーに待ってるアイドルがいる 酒の果て失くしてくるに違いなくその実用に開いてるピアス 缶チューハイ缶のまま飲む二千円をキャストドリンクとして渡せば ピッチャーを一人で減らす簡単に永遠性をジャスハイは得て それぞれのイブを過ごして歌舞伎町の朝のステーキ屋には夫と 記憶なき夜に出会いし男なら初日の出ほどの明るさで切る また来るを指名

          短歌71(いろんな男の歌)

          短歌70(ライブハウスで夢を拾った歌)

          「心の花」2023年11月号掲載 いくつかの小瓶のビールの名を知ったギターを棄てた後の四年で カタカナの氾濫に遭う。ハートなら知ってるハートランドください 弟の夢はかつての我が夢でライブハウスに飲むハートランド 学校へ真面目に通っていることを基準に選ぶバンドメンバー 送風の音のみさせるアコーディオン奏者のリハを背中にて聴く ネックは折られボディーは灰になったろうギターの形で虚ろを抱く 本日のお茶の水最安値なるギター月夜の街からさらう コードF押

          短歌70(ライブハウスで夢を拾った歌)