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がんこばあさん、クリスマスに孤独とやさしさを知る|『くつしたあみのおばあさん』を読んで

寂しさが強調されるのがクリスマスやお正月


 クリスマスなんて嫌いだ!そういう人もたくさんいると思います。街はキラキラしていて、クリスマスソングばかり流れて、SNSでは楽しいクリスマスシーンの写真ばかりながれてきます。幸せな人はより幸せに、寂しい人はより寂しさをクッキリ強調されてしまうのがクリスマスです。お正月や成人式も同じかもしれません。僕も若い頃は彼女もいなくて実家にも帰らず、一人でクリスマスを過ごして本当に自分の部屋から一歩も外る気になれませんでした。
 でもクリスマスって本来は自分のキラキラ感を自慢してマウンティングするだけのものじゃないんですよね。本当は貧しい人や孤独な人にも幸せが訪れるというのがクリスマスなんです。それは、クリスマスに靴下を飾る理由からもわかります。
 クリスマスに靴下を飾る理由って知ってました?私はぜんぜん知りませんでした。子どもの頃は、靴下なんかあまり綺麗なものじゃないし、そもそもプレゼントが入らないよ!と思っていました。 
 そこで調べてみると、「サンタクロースのモデルの聖ニコラウスの伝説が元になっているそうです。ある貧しい家族が娘を身売りしようとしていたので、聖ニコラウスはそれを救おうと煙突へ金貨を投げ込みました。その時、煙突から落ちてきた金貨が暖炉のそばに干していた靴下に偶然入りました。このお金で家族が娘を身売りせずにすんだ」この伝説が元になり、クリスマスに靴下を飾るという習慣ができたそうです。靴下というのは誰にでも幸せが訪れるクリスマスの本来の意味の象徴のようなものだったんですね。
 このお話はその靴下をあむのがとてもじょうずなおばあさんのお話です。
 そして、このお話に出てくるおばあさんは靴下を編むのが上手でそれをクリスマスに売っています。でもこのおばあさんはがんこ者で、靴下を編む以外は村のみんなと交流がありませんでした。どうしてみんなと関わりをもたずに孤独に暮らしているんでしょうか?
クリスマスのがんこ老人モノというのがジャンルとしてありますよね。有名なのは「クリスマスキャロル」。子供の頃は、おじいさんおばあさんが意地悪になったり、がんこ者になったりして、やだな〜こわいな〜。という印象でした。そんなのになんで関わるんだろう、ほっとけばいいのにと思っていました。
 でも、40代になり親も病気になったり認知症になったりすると、いじわるになったりがんこになったりすることもある。長い人生を生きてきたら、そうなってしまう辛いことや悲しいことがあるんだなというのもわかってきました。なので、そういうおじいさんやおばあさんをほっとかず、手を差し伸べて、最後は改心したり優しくなったりする物語はやっぱり大切なんだと思うようになりました。

孤独な時こそやさしさに出会う

 さらにこの物語は、孤独と社会との向き合い方について描いたお話でもあったのです。孤独な老人をはじめ不登校や引きこもり、社会との繋がりが断たれてしまった人は大勢います。そういう人たちが辛いのは、クリスマスやお正月、成人式など世間のみんなは家族と暖かく過ごしているのに、自分だけは一人という場合です。孤独がより強調されて、世間をうらんだり、意固地になったり、精神的にアンバランスになってしまう場合もあります。原因はさまざまですが、世間との繋がりがなくなるということは、どんな人間でも苦しくなるのです。
 そんな時に、どんな形でも好きな事があればで外と繋がりができるはずです。それは、学校や会社じゃなくてもぜんぜんいい。不登校や引きこもりでもそうですが、どうしても何らかのストレスによって自分を守るために壁をつくって一人にならければならない時がある。そんな時に、どんなささいな事でも好きなことがあれば人との繋がりを運んでくれるので救われます。アニメでも、アイドルでも、動物でも魚でも電車でもいいのです。好きな事を追っかけている時は心が癒されますし、それは必ず外の世界へとの繋がりを作ってくれます。おばあさんの場合は、それが靴下編みでした。靴下を編んで売ることで社会と繋がり、猫や男の子とつながる事ができた。孤独になる原因を追求する必要はないし、元に戻ろうとがんばる必要もない。元の道に戻るというよりは、新しい道を見つけるようなイメージです。   
 おばあさんは孤独でがんこになってしまいましたが、靴下あみがきっかけで男の子と猫と出会えました。おばあさんは最初は拒絶していますが、少しづつ心を許して社会との交流が再生しはじめました。男の子や猫との新しい生活を見つけることで、心も癒されがんこさもゆるんでいくのです。そして私はむしろ、孤独を知っているからこそ本当のやさしさに気づけたとも思います。わいわいみんなと仲良く楽しくやっている人ほど案外に無意識に人を傷つけたりしているものです。人とうまくいかなかったり、疎外感を感じた、その孤独感こそが優しさを感じ取る力になると思うのです。
 また、靴下あみというモチーフも絶妙です。クリスマスにプレゼントに入れるのはもちろんですが、片方だけでは意味がない。2つで1つです。そして、足を温めて歩いていくもの。孤独な人にもう一人の誰かかが寄り添って人生を歩いていくというメタファーにも読み取れます。おばあさんのように孤独に生きている人にも、人生を分かち合い寄り添ってくれる存在ができて温かい気持ちになれました。
 一人でクリスマスを過ごしたなんてものは今思えばちっぽけなものでした。だって、今はコロナで隔離中だったり、入院中で一人の人もいるわけですから。子供達にはクリスマスはカップルで楽しく過ごす日ではなく、孤独だったりさみしい人に寄り添う優しい気持ちをこの絵本を読んで気づけるようになってほしいと思いました。
 そして個人的な事なんですが、この絵本が好きなのはスズキコージさんの絵が大好きだからです。実は若い時にスズキコージさんの展示のお手伝いをしたことがあります。段ボール怪獣という作品を三鷹の美術館で展示した時でした。間近でその制作過程を拝見しましたが、本当に指先から魔法のようにどんどん絵が出来上がっていくのです。本当に貴重な体験をさせていただきました。

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