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ヨーロッパ企画「切り裂かないけど攫いはするジャック」の感想

25周年記念だそうで、おめでとうございます

この劇団、もうそんなになるのか、と驚いています。
自分が見始めたのは、ずっと後なので、あまり詳しいことも語れないところが悔しい。映画「サマータイムマシン・ブルース」がめちゃくちゃ面白くて(今でもこの映画は、邦画の傑作の一つだと思います)、その勢いで「Windows5000」を見に行ったのが最初。この作品は面白かった。最後のオチも含めて、演劇の面白さを堪能できました。そこからちょくちょく足を運ぶことが増えていきました。
最近の作品はプロデュース作品もよくて「続・時をかける少女」「夜は短し歩けよ乙女」「たぶんこれ銀河鉄道の夜」と最近の乃木坂46が絡んだ作品も非常に良い。特にあとの二つはかなり良い内容だったと思います。久保史緒里さん、田村真佑さんの二人の演技も非常に印象深い。
そして今年の記念公演ということで、見てきた「ジャック」なわけですが、、、あらすじは簡単に。

ストーリー

1888年のロンドン、この街に現れたのは「人攫いジャック」。この時はまだ「切り裂きジャック」が現れる前のこと。ロンドンで起こったこの「人攫い」を解決すべくオルソップ警部(永野宗典)が奮闘するが、地元の住民は「推理」を勝手にする。
しかし証言は乏しい。そして勝手に犯人を決めつける。そこにさらに推理マニアのクインティ夫人(藤谷理子)、まともな推理をしていない探偵チャールズ・ホティントン(土佐和成)が現れて、解決どころか、どんどん混迷を極めて、ついにはオルソップ警部さえ、、、、この「人攫いジャック」の事件はどういう幕引きになるのか?

推理が闇を照らす

おおむね、こういうストーリーですが、上田誠さんがいろいろと盛り込んだストーリーになっていました。いくつか伏線があって、最初オルソップ警部は「推理ではなく捜査」をするべきという主張をしていますが、この作品のラストでは「推理を!」という姿勢に変わります。実際、自身も人攫いジャックに誘拐されてしまうわけですが、その間に二人の探偵とその助手になるチャールズとクインティが、人攫いの事件と同時に起こっていた宝石強盗を解決していきます。そういう流れの中で、警部の「推理を!」という流れが上田さんのコメントにもあるように「推理で闇を照らす」という結末になっていくわけです。
ほかにも人攫い自体が陰謀論だったり、または人攫いに怯えつつも実のところ、町の人はそこでしっかり商売をして儲けている。しかし切り裂きジャックが出てくると、途端にブームは去ってしまうので、また違う儲けをたくらもうとする。そういう世間のいい加減さみたいなものも出てきたりします。
推理の中に出てくる真実が、必ず正義ばかりではなく、人の浅ましさだったり、さらに言うと本当に陰謀論だったり、推理が照らした闇の中にはいろいろな真実がありました。

個人的な感想

さて、そんなストーリーを見てきた感想としては「面白いが今一つ物足りない」です。
理由は特に後半の陰謀論あたりのオチ。中川晴樹演じるハンフリー氏が実は陰謀論の主役でいろいろなジャックがいるっていうオチ、そこにほかの登場人物が実はこういうキャラ設定で、、、みたいな流れでドタバタな活劇になるのですが、このパターンが何回か使われてきているので、またか、、、という感じにはなります。少し前の公演の「九十九龍城」の時も似たような感じで、出演者がゲーム内のモブたちだったけど、そのモブにも存在感はあるしというところから、結末を迎える話になっていてドタバタしますが、またそんな流れになるのかと思ってしまった。ハンフリーが急に怪人二十面相みたいなキャラで出てきて、陰謀論の主役です、巨大な列車まで出てきて、人をさらうみたいな話にしてくるのが、あまりにも唐突で、みている自分は「だから何だろう?」という気持ちにさせられていました。その前の宝石を盗んだ犯人やメアリーの人攫いの真相などまでは、本格とは言わないまでも、推理劇としてまとめていただけに余計にあのドタバタが違和感です。
あとは老人ジョセフ(角田貴志)が人攫いジャックですが、最初攫うときの演出は面白いのですが、この事件自体はきちんと推理されていないんですよね。いきなり陰謀論にすり替わるから、ちょっと違和感は残っています。
ポストもしたのですが、コメディ要素を盛り込む流れが、一気にドタバタコント風になってしまって、そのまま押し切った感じがどうしても後半に出ている気がします。映像作品ではすごくち密なつくりをされているヨーロッパ企画が、どうにも粗を感じてしまって、ちょっと足らないなあ、、と感じてしまった。「九十九龍城」も同じような感想で、「たぶんこれ銀河鉄道の夜」のほうが最後の余韻含めてすごくよかったので、なおさらそう感じてしまうのかも。
ラストシーンの演出は逆に「闇を照らすな」という暗示だと思いますが、そこがジャックに関する本当の解答なのかなと思って見ました。
役者さんたちは、メアリー役の藤松祥子さんはすごくいい振れ幅だったと思います。実際の人攫いは彼女の場合は狂言ですが、その演技含めて印象に残るキャラの作りだったので。また違う舞台でもみたいなと思います。

最後に

実際に見ている作品は、そこまで大量ではないので、本当はもっといろいろな引出しに自分が気が付けていない気もします。ただやっぱり戯曲として見たときに、まとまりが弱いなあと感じるところがあって。
映画とか素晴らしく面白いですよね、深夜ドラマでやった「サマータイムマシン・ハズ・ゴーン」とかすごく良かったと思うんです。「ドロステ」なんてすごいち密なつくりで、すばらしい。
もちろん表現方法が違うから、同じ物は作れない。しかしそういうものだとしても、舞台というフィールドの中で作るものとして、上田さんの戯曲には期待も多く持っています。今回は自分の中ではもう少し欲の出るものになっていたという感じです。

(追記)
この作品のオチ、最終的にはオルソップ警部の妄想が後半の主軸という話が、全公演終了後の上田さんのポストで出てきています。
そうすると後半のドタバタとラストシーンのつながりが、そういう対比なのか、、、、という意味で、腑に落ちる部分はあります。
同時にやっぱり妄想とはいえ、広げすぎたオルソップの妄想をあそこだけで締めるのは、大変だなと。照明だったり、ハンフリーの衣装が最後戻っているとか、示唆した部分はあるのですが。
自分は逆に今までのヨーロッパ企画の演出の流れ上、そこに違和感はあったけど、オチがそっちという意図までは掴めていなかったので、そうなんだという気持ちが微妙に複雑です(笑)

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