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一人になりたいけど、一人でいたいわけじゃない。

一人になりたいけど、一人ではいたいわけではない。
カフェに行くと、一人ではないけど、一人にはなれない。人の気配だけではなく、おしゃべりに興じる音が否応なしに聞こえてくる。
人の気配はあってほしいけど、人の存在を認識したくはない。私は人の出す音を拾いやすい。話し声、食べる音、ものを動かす音、つり革を握る音、手や足を動かす音。特に繰り返す音や、逃れようのない音、いつ終わるかわからない音は苦手である。電車やバスの中、落ち着かない気持ちになることもある。人との関係は、同じ空間に存在して、音を認識するだけで生まれるのではないかと思う。

さて、それでも、一人になりたいけど、一人でいたいわけではない、というワガママな欲求をどうにかしたい。

私語厳禁のカフェに行くことにした。

テレビでも紹介されたことのあるお店、中の見えない重たい扉をおそるおそる開ける。店員さんはコーヒーを淹れている。いらっしゃいませとも言われない、勝手に座っていいのか不安になりながら、空いている席に座る。
メニューには、ゆっくりお選びください、呼ばれたら行きます、と書いてある。ここでやっと、少し安心する。ほどなくして、水を運んでくれる店員さん。同時に注文を済ませ、趣向が凝らされたスペースを見渡す。引き出しを開けると現れるジオラマ、植木にはキリンやシマウマがいる、そして、顔をあげるとゴリラと目が合う。
飲み物は、ガーワとブラウニー。ガーワとは、カルダモンなどのスパイスで香り付けをしたコーヒーだそう。カルダモンが好きな私は、即決した。行動を起こすには慎重になりすぎるにも関わらず、食べ物に関してはわりと臆せず冒険する。

さて、一人でありながら、一人ではない。それぞれの席で、思い思いに過ごす誰か。気配は感じるけど、音は聞こえてこない。店内には水槽もある。水の音が心地いい。

一人になりたい、とよく言うけれど、これは誰かの気配は感じていたい、だけど、人との関係を少し遠ざけたい、お休みしたい、そんな気持ちではないだろうか。坐禅をしたときに似ていた。気配は感じるけど、だからどうというわけではない。オンライン自習室なんてものもあるように、すごく繋がりたいというよりは、気配を感じていたい、そんな距離感。

人はいつでもないものねだり。

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