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自分を好きでいるために私はメイクをする

化粧っ気のない人生を歩んできた。

ファンデーションを初めて塗ったのは、19歳のときだ。
当時アルバイトしてた飲食店で一緒に働いていた年上の女性が、「友達が化粧品の販売をしていて、メイクをさせてほしいんだって」と言ってその友達を連れてきた。
高価な化粧品を売りつけられるんじゃないかと警戒しつつ、でも断ることもできず、されるがままにメイクをしてもらった。
終わると、予想外にものすごく感謝された。化粧品を買わせようという空気は全くなく、それどころか「肌が赤くなってるからちゃんと日焼け止めを塗ろうね」と、その後の人生にとっても大切なことを教えてくれたのである。
化粧をすることに全く興味がなかった10代の私だ。その人がアルバイト先に来なかったら、ファンデーションどころか日焼け止めを塗ることも知らず過ごしていたかもしれない。ちょっと、ゾッとする。

その後、20歳を過ぎたころ、周りに影響されてアイメイクに挑戦した。でもある日、朝起きたらまぶたがお岩さんのように腫れていたのだ。
たぶん、アイシャドウか何かにかぶれたのだろう。ネックレスで首がかぶれたこともあるし、ピアスの穴も開けたけどずっと化膿し続けてすぐに塞いでしまった。きっと、私は何かそういう外部からの刺激?のようなものに弱いのだ。そう結論付けて、アイメイクをすることはなくなってしまった。

もともと目は二重で大きいから、自惚れていたのかもしれない。そこまでして目をパッチリせなくてもいいかと。それでずっとそのまま、しっかりとメイクをすることもなく、ナチュラルな方がいいと言い聞かせながら過ごしてきたのだ。


そして時は流れ、40歳を過ぎたある日。
メイクなしでも気にしていなかった自分の顔を、写真で見て驚愕する。

な、な、なんだ、このおばさんは・・・!!

重力は、誰にも平等に作用するのは知っている。それにしてもなんなんだ、二重の痕跡を消すほどに覆いかぶさる、このまぶたは。
生まれつき薄い眉毛だけは高校生の頃から描いてきたが、それも主張することなくぼんやりとしている。とりあえず塗っていたチークも効果はなく、なんか顔色が悪い。実感していた以上にハリは衰え、輪郭はぼやけ、ナチュラル通り越してスッピンのようなメリハリのなさ。寝起きか!40代の寝起きは、写真に写ってはいけない。

スマホで何気なく撮ってもらって送られてきたその写真で、正真正銘の己の姿を突きつけられた気がした。心の底から、ショックだった。

別に自分の外見に自信があったわけではない。それに、歳をとったら見た目じゃなくて中身で勝負だとか、そんな強気な姿勢でいた。でも、想像以上に私は自分の見た目にショックを受けたし、そもそも勝負できるような中身もないではないか。なけなしの自信はさらにどん底に落ちた。
だからって、どうせ痒くなったりまぶたが腫れたりするんだから、私にはメイクは無理だ。そう思い込んでいたし、言い訳し続けていた。

でも、思ったのだ。
道は二手に分かれている。言い訳しながら生きる道、そしてもう一方は、変わろうとする道だ。
私は、ドラックストアへ走った。実際は自転車を漕いで行ったのだが、走らなかったら、ここで変わろうとしなかったら、あの写真に写った顔が焼き付いたまま、一生自信のないままだ。そう思ったのだ。メイク用品だって昔より品質が良くなっているかもしれない。またかぶれてしまったら、皮膚科へ行けばいい。というわけで、年々重くなっていくまぶたを押し上げるアイプチセットをゲットした。

その後、メイク上手な人への聞き取りとか、ネットなどで情報を収集。
若いころにかぶれて以来、怖くて使えなかったアイシャドウも、なるべくナチュラルそうなメーカーの物を選んで恐る恐る使ってみたが、とりあえず痒くはならなかった。上級者アイテムだと思っていたアイラインも、たるむ目の周りを引っ張り上げて何度も描いてなんとかコツを習得。
効果を疑っていたまつ毛美容液も毎日塗った成果が表れてきた。ビューラーで上げても上げても落ちてきたまつ毛が、一日中キープできる日もある。

新しいことを試すたびに、娘に見てもらう。はじめは「あんまり変わってないよ」と言っていたご意見番に「目力が強くなった」と言わせるくらい、思い切って描けるようになった。はじめは自分がメイクしている顔を見慣れなくてビビっていたから、大進歩だ。

そして思う。メイクは楽しい。
それにメイクだけじゃなくて、顔を引き上げるために頭皮をマッサージしてみたり、張りが出るように夜な夜なパックもするようになった。これまであまりにもしてこなかったからか、自分に手をかけるということが楽しくて仕方がないのだ。

でも、分かっている。急にケアし始めたりメイクをしっかりしたからかといって、美しく変身できるわけじゃない。たかだか知れている。ただの自己満足、いや、自己さえ、そう簡単に満足させられるもんじゃない。

ただ、これは私にとってリハビリのような時間だと思うのだ。
なにかというとすぐに自分を責めてしまう、自分に優しくできない私だ。自分を認めてあげようとか、労わろうとか言われてもどうしていいか分からなかった。でも、メイクすることもケアすることも、自分を大切にしていることだという気がしている。私なりに自分を肯定するための、これはリハビリだ。


40歳を過ぎてからの、しっかりメイクデビューである。さもベテランのような顔でいたいから、こなれた感を演出するために必死だ。でも、化粧っ気のないこれまでの自分より、今の自分の方が私は好きだ。

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