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理解できなくても、好きでいいですか?『ゲルハルト・リヒター展』in豊田市美術館

愛知県の豊田市美術館で2022年10月15日から2023年1月29日まで開催された『ゲルハルト・リヒター展』。

”ゲルハルト・リヒターは現代美術の巨匠”
というのを、アート鑑賞初心者の私は現代アートを特集した雑誌で知ったのだが、すぐにそのあと、東京で開催された『ゲルハルト・リヒター展』を紹介したテレビ番組で創作風景を見た。
そんなことが重なり興味をそそられたのも束の間、展覧会が地元・愛知県へやってくるという。なんという幸運!

楽しみにしていたわりに出遅れてしまったが、1月半ばにようやく観に行ってきた。

現代美術の巨匠『ゲルハルト・リヒター展』

『ゲルハルト・リヒター展』が開催されていた豊田市美術館は、建物そのものがアートという感じの、おしゃれでそのうえ居心地の良い、大好きな美術館である。
展示室から展示室へと進む間がガラス張りになってるところがあって、外の景色が見えるのも、開放感があってとても気持ちがいい。


さて、入場するとさっそく、フォトペインティングの作品『モーターボート』が展示されていた。

お、これなら私も知っている。
離れて見ると、これって写真?というようにも見えるが、近寄ると筆の跡がわかる。おおーと思う。
その他にもフォトペインティング、一面グレイで描かれたグレイペインティングなどが並ぶ。


展示室を進んでいくと、風景や人を描いた、抽象的じゃない作品もあるのだが、特に惹かれたのは息子さんを描いた作品だ。やっぱり分かりやすいのが、私は好きなのかもしれない。

圧巻の『4900の色彩』

その先に、カラーチャート『4900の色彩』はあった。

このカラフルな作品を観るのを楽しみにしていた。
実際に見ると、こんなに大きいとは!という感じ。すごい迫力だけど、その空間がもうポップで、かわいい。好きだ!

そして、ゲルハルト・リヒターさんの近年の最重要作品だとされる、『ビルケナウ』の展示へと進む。

そして『ビルケナウ』

ビルケナウとは、ドイツ・アウシュヴィッツ強制収容所の名前で、作品の下層には、収容所で囚人が隠し撮りした写真を描き写したイメージが隠れている。

見るまでは、怖い感じの空間なのかなぁと思っていたけれどそうではなく、でも、背筋を正さずにはいられなかった。

ドイツ人であるゲルハルト・リヒターさんが、ホロコーストをテーマで何度も取り組もうとしては断念して、2014年にこの『ビルケナウ』をようやく完成させたというこの作品。隠し撮りされた写真を描いたものを下層に、アブストラクト・ペインティングで覆われている。

見ただけでは分からないけれど、そういう事実を知ると、作者の思いを想像することはできる。でも、私はちゃんと理解できてないんだろうなぁと、残念にも思う。

作者の思いや、作品の意図を感じ取るって、難しい。
でも、描かれた背景や作者のことをもっと知って、少しでも近づきたいと思うのだ。”難解”だからと諦めたくない。作品を観れば観るほど、その思いは強くなる。

アブストラクト・ペインティング

大きな刷毛のようなもので、ザザーっと絵の具を伸ばしたり、ナイフで引っかいたりする手法「アブストラクト・ペインティング」(アブストラクトとは抽象的なという意味だそう)。
その制作風景をテレビ番組で見たから、より興味深く観ることができた。近くで観ると、色々な跡が見える。すごく自由だ。
その色彩とか、たぶん偶然にできた形とかが何かに見えてくる。

この他にも、オイルオンフォトという手法の作品もあったり、一つの展覧会で様々な表現方法を観ることができた。一人の作家の人生で、制作がこんなにも大胆に変化をしていくなんて、面白い。

良いと思うのに理由はない。ごく最近の作品

最後の方に、ごく最近に描かれた作品が並んでいた。
ドローイングというのだそうだけど、ごくごく抽象的。
でも、なんかすごく好きだと思った。軽くなった気分で楽しく書いたのかな。そんな感じ。


難しいけれど、好き

テレビ番組で、制作中のゲルハルト・リヒターさんを観たのだが、その佇まい、そのオーラに、この人、なんかスゴイと思った。
この人が描く絵を観てみたいし、知りたい。その一心で足を踏み入れた『ゲルハルト・リヒター展』である。

「よく分からない」で終わったらどうしようという不安がなかったわけではない。だって、現代美術、しかも抽象画って、理解しようとか、どう解釈すればいいんだろうとか考えれば、とても難しく感じる。


でも、実際に観て思う。
刺さるか刺さらないか。響くか響かないか。好きかそうでないか。
そうやって、自分の尺度で楽しめばいいのかなと。

そして一方で、好きだなと感じたら、どういう思いで描いたのかとか、時代背景とか、そういうことを知って理解したいという気持ちになる。恋をしたみたいに。そして知れば、感じ方が変わることもあるかもしれない。そこが、とても面白いなと思うのである。


『ゲルハルト・リヒター展』理解しようとすれば難しい。でも好き。それでもいいですか?







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