ショーンK氏の経歴詐称―これって犯罪?過去にはYahoo!でCEO解任も

今回は少しライトな話題について。今話題の時事ネタといえば、ショーンK氏による経歴詐称問題。「これって犯罪にならないの?」と疑問を持たれた方も多いかもしれません。法的な観点から分析してみました。

これって犯罪になるの?

(1) 軽犯罪法違反

学位を詐称した者は、軽犯罪法違反となり、「拘留または科料に処する」と定められています(軽犯罪法1条15号)。

報道によれば、ショーンK氏は、所属する事務所のホームページで、「テンプル大学卒業」「ハーバード大学ビジネススクールでMBAを取得」と記載していましたが、これらの記載は事実と違っていたと認めたそうです。かかる学歴詐称は、軽犯罪法違反にあたります。もっとも、一般的に、学歴詐称のみを理由に起訴される可能性は低く、ショーンK氏が軽犯罪法違反で責任を問われる可能性は低いでしょう。

(2) 詐欺罪

詐欺罪が成立するには、①人を欺(あざむ)く(要するにだます)行為、②これにより相手を錯誤に陥れ(要するに相手を勘違いさせて)、③金銭等を交付させたこと、及び④因果関係が必要とされています。

HPに虚偽の学歴・経歴を記載したのみでは、詐欺罪にはなりません。虚偽のHPの記載により、HPを見た人を勘違いさせてお金を払わせたわけではないからです。

では、虚偽の学歴・経歴を告げてTV番組の出演契約やコンサル契約を結び、報酬を受け取っていた場合はどうでしょうか。

①「人を欺く行為」は、③の金銭等の交付に向けられた行為であることが必要とされています。

つまり、HPの記載をただ放置していただけではなく、契約をして報酬をもらうために、虚偽の学歴・経歴をあえて相手方に告げてだまそうとしたことが必要になります。

さらに、①だます行為→②相手が勘違い→③金銭等を交付、という一連の流れに、④「因果関係」があることが必要と考えられています。「因果関係」があるとは、①だます行為がなければ、②勘違いして③金銭等を交付することもなかったし、①だます行為によって②勘違いして③金銭等を交付したことが社会通念上相当といえることが必要とされています。

今回のケースでは、学歴・経歴詐称により、ショーン氏が本当に「テンプル大卒・ハーバードMBA保有者である」、「コンサル業の多数の実績がある」等と勘違いして契約を結び、報酬を払った(この学歴・経歴がなければ、契約しなかった)ことが必要になります。

この点は、契約を結ぶ際に、学歴・経歴がどの程度重要な要素であったかということ次第かと思います。学歴・経歴が決め手となって契約をした(例えば、学歴・コンサル業の実績があったからコンサル契約をした)場合には、因果関係が認められる場合もあるかと思います。他方、学歴・経歴は重要な要素ではなかった(例えば、他のTV番組でのコメント内容、容姿等を理由に出演契約を結んだのであり、学歴・経歴は考慮されていなかった)場合には、因果関係がなく、詐欺罪は成立しないことになります。

TV局は何がいえるの?

ショーンK氏とTV出演契約をしていたTV局は何がいえるでしょうか。

出演契約は、TV局がショーンK氏に対し、「TV番組への出演・コメント」という業務(仕事)を依頼し、これに対してTV局による報酬が支払われるという形になっていると考えられます。ショーンK氏は、「TV番組への出演・コメント」という仕事自体はちゃんと行っており、報酬をもらう権利はあることになります。

もっとも、契約において、「お互いに、相手方の信用・評判を損なうような行為をしない」という条項が定められており、相手がこれに違反した場合には、損害賠償請求や契約の解除ができるとされている可能性があります。また、契約の締結に際して虚偽の事実を告げたことが明らかになった場合に、契約解除や損害賠償請求ができるとされている可能性もあります。

よって、TV局がこれらの条項を理由に契約解除を主張する可能性は十分にあると考えられます。損害賠償については、ショーンK氏の経歴詐称問題でTV局が被った損害額が具体的にいくらなのか、TV局において立証することが必要になります。その立証は必ずしも容易ではないと考えられます。もっとも、契約書において、契約違反の場合に一定金額の違約金が予め定められている場合もあり、その場合には、TV局側はかかる違約金の支払を求めることが考えられます。

TV局の責任はないの?

TV局は視聴者に対し、出演者の学歴・経歴を調査する責任まで負うものではなく、今般の問題で何らかの法的責任を負うものではないと考えられます。もっとも、視聴者の信用を失ったことは明らかであり、結果的には視聴者を失うという形でのダメージは大きいといえるでしょう。

IT業界でも問題になった学歴詐称

学歴・経歴詐称、問題になったのは芸能界だけではありません。

2012年5月、米Yahoo!は、スコット・トンプソン元CEOを解任する人事を発表しました。報道によれば、トンプソンCEOの解任は、Yahoo!の大株主(5.8%)であったThird Point(サード・ポイント)からの書簡に端を発するとされています。この書簡でサード・ポイントは、Yahoo!の有価証券報告書などに記載されている「トンプソン CEOのコンピュータ科学の学士号」が事実と異なると指摘。トンプソン氏はCEOに不適任だとして解任するよう求め、Yahoo!がこれに応じる形となったものです。

サード・ポイントはNY拠点のヘッジファンドですが、いわゆる「アクティビストファンド(モノ言う株主)」として知られています。2013年5月には、投資していたソニーに対して映画・娯楽部門の分離などの経営改革を求め、注目を集めていました。

報道によれば、当時Yahoo!では、2011年9月にCarol Bartz元CEOが突如解任され、2012年1月には共同創業者のJerry Yang氏が退任するなど、経営の混乱が続いていました。2012年1月にCEOに就任したトンプソン新体制の下で経営改革が進められていましたが、サード・ポイントは低迷する Yahoo! の再建策を巡ってトンプソン氏と取締役会の方針に反対し、プロキシーコンテストを仕掛けていました。トンプソンCEOの学歴詐称が、サード・ポイントにより利用され、わずか4ヶ月での解任に追い込まれた形となってしまったのです。

学歴・経歴詐称が一度明るみに出た場合には、刑事・民事上の法的責任を負う可能性があるだけではなく、米Yahoo!の事例のように、企業の役員の場合には解任されるリスク・従業員の場合には解雇されるリスクもあるといえます。これに加えて、社会的信用を失うという大きな代償を被るということが、改めて実感される騒動となったと言えるかもしれません。

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Anri

メルカリでLegal/IRを担当。日本/NY州法弁護士。大手法律事務所→Stanford Law Schoolへ留学。スタートアップ業界について、法律家の目線から解説します。

regal

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