ファッションとケア/ファッションとアート
執筆篇
1)「「ファッション」という病」(ZOZO Fashion Tech News)
このコラムで試みたのは、「身体像」の獲得のプロセスとしての、鏡像段階理論の触覚的転回です。ラカンが提示した想像的次元における自我の誕生モデルとしての「逆さ花束の実験」の光学モデルは以下です。
※コラム内には画像が使用できなかったので、本記事にていろいろご紹介していきます!
統合失調症患者の「服がない」などの症例に対する「心的容器」としての衣服の触覚的効果から想起されるものとして、テンプル・グランディンの「締めつけ機(Squeeze Machine)」や、日本の民間療法である「おとなまき」、フランスで過去に自閉症患者のために用いられた「パッキング」療法などが挙げられる。
テンプル・グランディンとの対話によって美術家ウェンディ・ジェイコブが制作した《締めつけ椅子(Squeeze Chair)》(1995年)も、ファブリックを使用している質感が、「心的容器」としての衣服を思わせる。実際、この「締めつけ」を応用してSQUEASE社は、自閉症やADHD、感覚障害の子どもから大人へ向けた「締めつけベスト(Squease vest)」を開発している。
このコラムを書いた後、トム・サックスの以下の言葉に遭遇した。サックスの言うように、ファッションは(主に女性を苦しめる)比喩的/現実的な病なのだ。芸術家がファッションへの関心を示す例は枚挙にいとまがない(ので、今後アートとファッションの相互接近について詳しく書いていきたい)ため、アートによるファッションというシステム=「ファッションという病」への逆襲が期待できそうだ。
2)「私たちを包むものは何であるか――ファッションにおけるケアの解釈に向けて」(Synflux Journal)
こちらは株式会社ゴールドウインとSynflux株式会社のコラボレーションプロジェクト「SYN-GRID」の発表を記念して昨年開催されたイベントへのテクスト。「FASHION FOR THE PLANET EXTENDED」と題されたカンファレンスの4つ目のセッション「CARE/ MULTI-SPECIES/ REGENERATIVE:サステナブルファッションと生態系の思想」について、イベント評を寄稿した。上記リンクよりセッションの動画やほかのセッションの批評と動画も見ることができる。
「CARE/ MULTI-SPECIES/ REGENERATIVE:サステナブルファッションと生態系の思想」の登壇者はドミニクチェン氏(早稲田大学准教授)、小川さやか氏(立命館大学教授)、松島倫明氏(WIRED日本版編集長)、川崎和也氏(Synflux株式会社 代表取締役CEO)で、「人間」の認識の埒外の人類学について議論が繰り広げられた。
小川氏の『都市を生きぬくための狡知』から、マルチスピーシーズ人類学の必読書であるアナ・チンの『マツタケ』まで、あるいは「発酵」をテーマに、別の視座からファッションを考える土壌が作られた。
この議論への応答として、ケア/セルフケアについてボリス・グロイスの『ケアの哲学(Philosophy of Care)』を手掛かりにこのイベント評を締めくくった。近く邦訳が出版されるようだが、本書についてもう少し詳しく書いてみたいと思うので、早急に機会を作りたい。
※追記
『ケアの哲学』が現在発売中ですが、その前に抄訳をまとめて公開してみました。容易なテキストではないですが反応が多く、ケアと象徴的身体など、現代的な関心に合う内容だったのだと再認識しました。
ロシア文化研究者の河村彩さんによる翻訳本はこちら↓
対話篇
また、先月は対談の司会を務める機会があった。錚々たる方々のお話をうかがえ、大変有意義な時間でした。所感は後日追記する予定ですが、まずは是非ご覧ください。
3)今井俊介と小野智海による対話 装談®028|Tokyo Fashion Dialogos 「今井俊介 スカートと風景」展 開催記念トーク
4)アーカイブ視聴 装談®027|Tokyo Fashion Dialogos「ファッションは創造的な対話 ――『わたしと『花椿』』刊行記念トークイベント」
※アーカイブ視聴 期間中 約3か月(〜2023年8月25日)好きな時間に視聴可能になります。
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