見出し画像

映画レビュー|「愛してるって言っておくね」|遺された者の生き方についての回答

アメリカの銃乱射事件によって、娘の命を奪われた両親の話し。
「マンチェスター・バイ・ザ・シー」や「フランク叔父さん」のレビューでも少し触れたのだけど個人的に「どう角度を変えて見ても起きなかった方がいい出来事」の当事者になってしまった時に、どうやって生きる意味を見出すのか?という点に興味があり、この作品も同じテーマを孕んでいるのでそういった点で解釈を巡らせることになった。

物語に登場するのはお父さん、お母さん、娘の3人。それぞれの感情を「影」で表現しているところがこの作品の要になっているように思う。娘が学校に登校するシーンで、両親の影がそれを必死にとめようとする描写がとても悲しい。実態のない影なのだから止められることはできずに学校へ向かう娘。学校の廊下で星条旗だけが色こく色彩を放つ中、銃声が響く、悲鳴が聞こえる。この事件は個人に集約される問題ではなく、アメリカという国が抱える社会的な課題であることがメッセージされていたと思う。

最愛の娘を亡くした二人は悲しみに暮れて、心ここに在らずといった感じで、夫婦仲もすれ違っていく。二人が背中を合わせて反対方向へ歩んでいくところを、力づくで強引に引き寄せたのは娘の影だった。冒頭に書いたように、どうやって生きる意味を見出すのか?という点について、この作品ではやはり娘の影が力を及ぼしたという描き方になっていた。そこでは、それぞれ反対に歩んでいく両親の間に入って、引き寄せる娘の影は明らかに怒っていた。そして、若干の恐ろしさも孕んだほどの力強さで強引に両親を引き寄せた。そういった描き方になっていたと思う。両親がこの先どうやって生きる意味を見出していくのか、その心の構造としては、「天国にいる娘がそれを望んでいるから」ということなのだろう。一つの宗教観の表れである。自分の中でこの問題を反芻するたびに、やはり宗教的な心持ちだけがこの問題を救えるという結論に至る。この作品も同じことを言っているように感じた。

劇中に、レコードプレーヤーから流れるのはKing Princessの「1950」という曲だ。50年代ごっこが好きなのと歌うこの曲は、愛するパートナーに対して「あなたの愛を待ち続けるの」と訴える。娘が将来経験するはずだった恋愛模様にも聞こえるし、両親の心の声にも聞こえてくる。実際に、この事件の被害にあった子が好きな曲だったのだろうか。

エンドロールで流れるのはMARKSの「What Did I Ask For」という曲。この曲は「あなたが残したものを追いかけ続けている」「私は何を求めたか、私は何を見つけたか」と歌う。

最愛の人をある日突然失う事と、そこから再起するための動機付けを描いた今作。ラストのエンディング曲では、それは何かを見つけたから再起できるものではなく、追いかけ続け、何を見つけたかと自身に問い続けていく事なのだと教えられたような気がする。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?