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隣の女の子の成長


気が付くと、早十数年。。。

私がこの国に移住してから、本当にいろんなことがあった。

まだこの国の言葉もできない時、バスを間違えて迷子になったり、ちょっとした散歩に出かけて帰れなくなったり、気軽に出た買い物がものすごい大冒険になったり。。。

自分でも「こんな状態で、これから本気でやっていけるのか…(涙)」と、いつも不安だった。

その後少しずつ、言葉を覚え、道を覚えたり標識を読めるようになったことで迷わないようになり、顔見知りができ友人ができ、周囲との関係などもできてきたことで、ここまでやってこれた。

すごく成功!…はしてないが、それなりにまあ、毎日それなりに楽しく過ごしてきたと、今なら思う。


で、隣の女の子の話


今から十数年前、隣の女の子は小学生。

私と夫は勝手に、隣に住む彼女を「お嬢」と呼んでいた。

お隣、といっても日本のようにご近所挨拶があるわけでもなく、そんなに顔を合わせることもない。

が、お隣のご両親の声がとにかくでかい

こちらの建物は石造りだったり煉瓦造りだったりで日本よりも壁は厚く聞こえにくいのだが、お隣のお父さんがよく響く太い声の持ち主で、とにかく声がよく通る。

お母さんも元々の地声が大きいのか、怒っている時はかなりはっきり聞こえてしまう。

更にお隣さんは、テラスを居間代わりに使っているので、家族会議や雑談、果ては親戚や嫁姑問題など日常の話をそこでしてしまう。。。

そのため、お隣の諸事情はテラスを介して、時々聞こえる怒号で「なんとなく」知ってしまっている。(我が家はおとなしめの二人暮らしのため、尚更。)

当時のお嬢は、本当に可愛くすごく甘えん坊で、よく両親に「一緒に来て!一人じゃヤダ!」と言っている声が聞こえた。

教育熱心そうなお父さんの、「今日の学校の宿題はやったのか?持ってきなさい!」というがよく聞こえていた。

お母さんは、よく「今日は学校行きたくない」とぐずるお嬢をなだめていたり、何かと「なんで?」「どうして?」と質問攻めするお嬢に「あなたのお父さんに聞きなさい!」と大きな声でよく叫んでいた。

日本語なら特別な事情がない限り、家で「あなたの」などは付けないが、英語同様にこちらの言語ではどんな時でもはっきりと所有(英語で言うなら、”your father”)を明確に言うので、言葉のあまりわからない当初のわたし的には、ものすごく強く聞こえて、当初はドキドキした。(もしかして別のお父さんもいるのかしら?と勝手に邪推。間違いなく実子だが。)

私も当時は語学学校に通っていたので、「ああ、お嬢も宿題があるんだな。私も頑張ろう!」と勝手に同級生のような意識で、自分の宿題や勉強の励みにしていたのだった。(同じく宿題に苦しむ、友達のように勝手に一人で思っていた。笑)

年が経つにつれ、立派な作文をお父さんがテラスでチェックしていたり、お嬢が友達との喧嘩の悩み事をお母さんに相談してるのが聞こえて、「ああ、お嬢は日々成長してるんだな…。」と感慨深く思っていた。


さて、十数年の時が流れて、そんなお嬢も今では立派なTeenagerに。

最近のお父さんの怒鳴り声は「携帯電話を使いすぎる!」だったり、お母さんからお小遣いや帰宅時間の件で怒られていたり。

そうだよな、もう年頃の女の子だよな…とちょっと感傷的になっていた。


ある日の夕方。

隣のご両親は多分外出中。(お出掛けの際にはいつも結構な大騒動のため、なんとなくわかる。)

私がテラスの洗濯物を取り込む際、いつもとは違う匂いが。

マリファナだ。

(私はこちらに移住してから、薬物の匂いを知り、結構敏感になった。)

慌てて夫に「テラスでマリファナの匂いがする!」と伝えると、ちょっと知ってる顔をした。

「多分、お嬢のボーイフレンドだよ。親の居ない時に来てるんだ。でもいい根性だよね。

私が日本にいた不在中、夫は何度かお嬢がボーイフレンドとテラスで話しているのを聞いたらしい。

「…今晩あたりも、隣で、大きな雷が落ちるかもね。」


実はこちらでは、少量のマリファナは「自分用」と言えば大抵が不問だ。

要は「よくある、細かいことで忙しい警察を煩わせないでくれ」ということらしい。(端折りすぎかしら?あくまでも個人の印象です。苦笑。)

もちろん、売買目的や一定量所持の場合はかなり重めの厳罰があるが、本当に日常的に、すごく気軽に麻薬が手に入ってしまう。

そして、マリファナは「クスリの入門」と呼ばれているほどに手軽で、危険性を感じない若い世代が一番手が出やすい。

そして、快楽でついつい止められずに、どんどん発展していってしまうケースがとにかく多い。

仕事を失い、大事な人を失い、希望を失い、人生も投げやりになって壊れていくのに、そうそう時間はかからない…。


さて、その晩。

案の定、隣では両親の大きな𠮟責が復唱で響き、お嬢のヒステリックな叫び声もサラウンドで壁伝いに聞こえてきた。

ご両親は常日頃からテラスで過ごすことが多いので、バレないわけはない。

・・・隣のお父さん、実は結構コワモテの警察官なんだよな。(ほんと、あのボーイフレンド、いい根性している。苦笑)


お隣の騒音を聞きながら、まさかあの小さなお嬢に、マリファナをたしなむちょい悪ボーイフレンドができるなんて、私たちも本当に年を取ったものだ…と思わず夫と二人、しんみりしてしまった。

本当に、よそのうちの子の成長は早い。

何より、日本ではマリファナのにおいで隣の子の成長を感じることなんて無いんだろうな。(強く、無いことを祈る。)

それにしても、時の流れは早い。早過ぎる。(溜息)

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