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セラムン二次創作小説『境界線の彼方(はるみち)』




みちるがオーケストラの演奏ツアーに行って一ヶ月程経った。

高校生活に戻り、普通の学生をしているが、みちるは元々良家のお嬢様。小さい時からヴァイオリンを習い、中学生時代にプロの奏者として活躍していた。

そんな矢先にセーラー戦士もやらねばならなくなり、殆どプロ活動が出来なかったのを傍らで見てきた。


そんなみちるは戦いが落ち着いた今、夏休みや長期休暇を利用して海外のオーケストラに参加している。

今回は夏休みという事で、ゴールデンウィークに参加したオーディションを見事勝ち取り、目下ヨーロッパツアーに参加中。


彼女の活躍は喜ばしい。長期不在も慣れている。ハズだった……


「みちる、元気でやっているかな?」


僕は柄にもなくホームシックならぬ、みちる欠乏症になっていた。

家に帰ればせつなやほたるがいて賑やかだ。しかし、フッとした瞬間に寂しくなる。


みちると同じで普通とは程遠い場所にいる。F1ドライバーとしてプロで活動中。

みちるがいない時は必ず同じ様に仕事を入れるか、もしくは同じ場所で仕事を探して近くにいるという事をする。

しかし、今回に限っては家族サービスの為、仕事もセーブして留まっていた。

それがこんな形でフラストレーションを起こす事になるとは、何とも皮肉な話だ。


「潮風が心地良いなぁ」


みちる不在の間、僕は決まってここに来てはみちるを感じていた。

彼女と初めて来た場所で、みちるそのものだと感じられる場所ーーー海だ。


「ここはいつも変わらないなぁ……」


ここの景色を見ていると、ホッとする。

車を海岸に停車して、運転席から出ずに潮風を感じる。

海はみちるを象徴するものだけれど、泳ぎは苦手だから見るだけ。僕は陸が得意だからね。陸上では独壇場だけど、海はね?

みちるがいないなら尚更入る気にはならないな。潮風で十分、みちるを感じる事が出来る。


「僕も、みちるの演奏聴きたかったな」


波の音を聞いていると、彼女の演奏を思い出し、センチメンタルな気持ちになってしまった。

聴けるのはまだもう少し先の事になると言うのに……


「空が青くて快晴だな」


夏という事もあり、雲ひとつ無い快晴。

海と空が一望出来るのも、やはりここに来たい理由の一つだった。


「交わらないなぁ……」


空と海。確かに自分の目には一緒に映る。

けれども、ハッキリと分かれていて交わらない。一つになっているようで、なっていない。

その様子が丸でみちると僕に似ていて、深く溜息を着く。


「所詮は一つにはなれない関係か……」


僕とみちるは所謂同性カップル。見た目が男に見えるが、性別は列記とした女性である。男性と間違えられる事は多い。

それが嫌では無いし、失礼だとも思っていない。気分を害する事もないし、何なら男性と間違えられることに喜びを感じている。


みちると歩いていて“お似合いのカップル”と揶揄されることもある。

それも嫌な事じゃない。寧ろ周りからお似合いと認められ、祝福されているのだと感じるから。


しかし、僕が男ではなく女である限り、愛し合っていても一つになる事は出来ず、最後までいけない。

その事を、この場所に来るとまざまざと突きつけられ、胸が締め付けられる。


僕はいいが、みちるはどう感じているんだろうか?


「みちるに早く会いたいな」


本物のみちるに会えば、このぽっかり空いた穴も埋まるだろうに……




☆☆☆☆☆




「ここが一番、落ち着くわ」


演奏ツアーの合間、私は必ず現地の海へと足を運んでいた。

海を見ると落ち着くし、空も一緒に見える。


「潮風が気持ちいいわ。まるではるかに抱かれているようで……」


海に来る私の一番の理由ーーーそれは、潮風がはるかに抱かれているような、そんな優しい錯覚に陥るから。

はるかはこの景色は同性カップルである自分達を際立たせるって寂しそうに微笑んで嫌がるけれど。私は嫌いじゃないわ。

確かに交わらないけれど、ずっと変わらないから何だか永遠を約束されているようで、私は好き。


潮風だって、海と風が一つになっているんですもの。私とはるか、ちゃんと一つに繋がるのよ?

はるかにはちゃんと自分で気づいて欲しいから、敢えてその事には内緒を貫いているけれど、いつその事に気づいてくれるかしら?


「一曲、弾こうかしら?」



🎼.•*¨*•.¸¸♬•*¨*•.¸¸ ♬︎*.:*




☆☆☆☆☆



🎼.•*¨*•.¸¸♬•*¨*•.¸¸ ♬︎*.:*




「ん?」


どこからとも無くヴァイオリンの音色が聞こえて来る。

みちるの事を考え過ぎて幻聴がしているなんて、僕も大概ダメだな。


「しっかりするんだ!」


みちるが帰ってくるまでまだもう少しある。

彼女のはずは無い。気をしっかり持て!


そう言い聞かせつつも、もしかしてと1%の可能性にかけて、車から出てヴァイオリンの音色が聞こえて来る方向へと歩き始めた。


海辺を少し歩いたところで、ヴァイオリンを弾いてる女性を発見した。

ウェーブがかった髪を靡かせ、優雅に海を泳ぐように奏でるその姿を僕は幾度となく見ていた。


「みちる!」

「はるか?」


僕がみちるを呼ぶと、呼ばれたその人はヴァイオリンを弾くのを止め、こちらに目線を向け驚く。


「帰ってきていたのか?」

「ええ、はるかこそここに来ていたのね?」

「ああ、みちるの事を考えていてね。定期的に来ていたんだ。みちるこそ、まだ帰るには早いだろ?」

「うふふ」


みちるは万が一を考えて長めに伝えていたのだと笑って嬉しそうに言った。


「サプライズって奴か?みちるも人が悪い」

「あら、たまにはいいでしょ?」

「君ってやつは……一本取られたよ」

「私たち、やっぱり同士ね。考える事は同じみたい」

「そうだな」


みちると同じ事を考えられて僕は嬉しいよ。

久しぶりのみちるを後ろから抱きしめる。


「今夜は帰さないぜ!」

「まぁ、はるかったら。うふふ」





おわり



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