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セラムン二次創作小説『花火エレジー(ゾイ亜美)』


「チェック!」
「ああ、ちょっと待って!」
「待っては無しです♪」
「……手厳しい」

とある日の休日、私は亜美の家に来ていた。
勉強ばかりで相手にしてもらえない事に文句を言うとチェスをする事になった。
チェスやオセロ的な頭脳ゲームは私も得意分野。
いい勝負が出来そうと意気込んでやり始めたは良いものの、痛い目を見る羽目になった。
何回やっても負ける。
いい所を見せて惚れさせる作戦が、物の見事に鼻をへし折られる。
天才少女、侮り難し……!

「強いわね……」
「彩都さんも強いですよ♪」

ええ、私は強いわよ!
でもね?それを軽く上回る強さなのよね、亜美は……。
楽しそうに“チェック”と勝ちを宣言する亜美は可愛いけど、可愛げが無い。
彼氏に花を持たせるとか、負けて可愛さアピールとか無いのかしら?
まぁわざと負けたりしたら許さないけど。

見かけによらず負けず嫌いなのは戦士としての性なのかしら?
勉強でも模試にしてもテストにしても飽きないの?ってくらい1位ばかり。
2位以下取って悔しがる顔を見てみたい。
なんて意地悪な事を思ってしまう。

水泳にしたってそう。
あの海王みちるをも負かす。
得意分野に関しては絶対的に1位。
亜美が負けそうな物って何だろう?
そもそもそんな物あるの?

「得意分野で負けた事ある?」
「うーん……無いかもしれない」

……でしょうね。
得意分野じゃ負け知らずって感じか?
これは手強い。チェスも勝てない訳だわ。

「泣きのもう一回!」

手加減も負けも無いって分かってるけど、それでも“負けない!”って気持ちが大事。
大切なのは諦めないで挑む精神よね!

「いいですよ♪でも、負けませをんから!」
「言うわね!私も負けないわよ!」

そうしてまたチェスを始めようとしたその時だった。

ヒューーーーーーーーーーー

ドンッドンッ

パチパチパチパチパチ

「あら?花火?」
「そう言えば今日は花火大会だったわね」

チェスに夢中になっていたらすっかり夜も更けてしまったみたい。
夏の風物詩、花火大会が華麗に始まったようだ。

「綺麗♪」

チェスそっちのけで、花火が上がっている方に行き夜空を見上げる。
興味無いかと思ったけど、案外好きなのか夢中になっている。

「花火に興味あったのね?」
「父に何度か連れて行って貰ったから」

亜美の両親は離婚している。
離婚前に連れていってもらったみたい。
話してる顔が少し曇ってるから。

「そう、いい思い出なのね?」
「はい、でも離婚して以来父とも母とも行ってなくて……」
「うさぎたちとは?」
「戦いやお勉強で忙しくてタイミングが合わなくて行けないままです」

フルフルと頭を振り、寂しそうに話す亜美。
本当はこういうベタな青春を送りたかったのかも知れない。
だけど、両親は幼い頃に離婚してしまって、我がままが言えなくなったんだろう。
引き取られた母親は医者で忙しく、不規則な生活。
父親は流浪の絵描きで中々会うことは愚か連絡も付かないという不安定さ。

母親の背中を見て育ち、頭がいい事もあってか憧れて医者を目指してずっと勉強を頑張った結果、大事な青春を犠牲にしてしまった。
そこにまさか前世から戦士で戦う使命を持って生まれたんだから並大抵の事じゃないわね。
彼女自身が望んだ生活だとしてもシンドい事だ。
女の子としての楽しい時期を犠牲にした代償はあまりにも大きすぎる。
私が想像するよりはるかに亜美は精神的に大人だと改めて思い知らされた。

「花火大会行きたい?」
「ここで見えるから充分」

私にまで遠慮しちゃうのね。水臭いじゃない!
彼女の我がままを聞くのが彼氏の特権なんだから。

「ここで見るのと行って見るとはまた全然違うわよ!」
「人も多いし、ここでゆっくり見る方が」
「それ以上遠慮する言葉言ったら襲うわよ?」

我がまま言い続ける唇を強引に奪う。
ムードも何も無く口を閉ざされた亜美は驚きながらも受け入れてくれた。
誰もいないのをいい事に舌を入れて長めのキスを味わう。

「はぁっ」

突然の激しいキスに酸欠になった亜美は唇を離すと酸素を慌てて吸っていた。

「俺が何のためにいると思ってんの?ちゃんと行きたいなら行きたいって言ってくれ」

オスのスイッチに切り替わった俺はそのまま男言葉で亜美に詰め寄る。

「……行きたい、です」
「よく出来ました!」

男になった私の気迫に負けたのか、素直に行ってきた。

「彩都さんと花火大会行きたいです」
「了解!これからは行きたい所、したい事、何でも言ってくれて良いから。俺たち、恋人、だろ?」
「……そう、ですね♪」
「何よ、その間は?」

楽しそうに笑う彼女を見て決意を固める。
亜美が送れなかった普通の青春を、したかった事、行きたい場所に答えてあげようと。
そして両親の代わりに亜美といっぱい想い出を共有していこうと。


おわり


※二年前の亜美ちゃんの誕生日に旧サイトに投稿した話です

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