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読書感想 小説『コリーニ事件』

フェルディナント・フォン・シーラッハ著の小説『コリーニ事件』を読みました。ドイツで出版された本書は、ドイツで実際に施行されている刑法をとりあげて、ひとりとその周囲の人間の物語を紡ぎ出した小説です。
当該の刑法は、それによって裁判に大きな影響を与えたものだけど、あまり審議をされないままに法案は通過し、特に注目を浴びずにきたようです。

ネタバレになるから内容への言及は避けますが、この小説は私にとって衝撃的な読書体験でした。もちろんそこに書いてある事実に対する驚きも、小説としてのおもしろさもあるけれど、この内容が「小説」として表現されたということが、一番驚きでした。
このような事実に対するアウトプットが、「研究」「論文」ではなく、小説として行われ、個人の物語を通じて事実が社会に伝わった。この小説がきっかけとなり、ドイツ連邦法務省は調査委員会を立ち上げたようです。

小説にしても、映画にしても、芸術は、事実を社会に伝える力がある、そして一方で、研究や論文も、事柄を個人が恣意的に組み上げて紡ぐ表現活動のひとつなのだ、ということを実感する、そんな機会を与えてくれた本でした。

論文を書きたい、絵を描きたい、写真を撮りたい、小説を書きたい、ついついアウトプットの方法から思考してしまうけれど、表現者になりたい。そう思いました。

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