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読書感想『ミッテランの帽子』(新潮クレスト・ブックス)

『ミッテランの帽子』アントワーヌ ローラン (著)、吉田 洋之 (翻訳)

86年〜88年のフランス、社会党のフランソワ・ミッテラン元大統領が選挙で大敗し、右派政権にとってかわられていた2年の間の出来事。知人とブラッスリーで牡蠣を食べた大統領が席に忘れてしまった「帽子」をめぐる物語。帽子は、うだつのあがらないサラリーマンや、断ち切れない不倫に苦しむ女性や、落ちぶれた調香師など行き先を転々としながら、持ち主に人生の転機をもたらしていく。

レモンを搾った生牡蠣、濃いコーヒー、電車の荷物置きの網棚、噴水のある広場、行ったこともない80年代のパリの景色が目に浮かぶ、軽やかな文体が良かった。当時の保守右派による社会批判を40年後のいま振り返るとなんだか滑稽だけど、それはもちろん、いまの社会を40年後に見ると?という皮肉にもなる。そんな洒落た皮肉が見え隠れするのもいいし、人生どん底ばかりではないという寓話としても、心温まる素敵な話でした。ちょっと元気になった。


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