20230802 僕が生まれた日の空は

僕が生まれた日の空は 高く遠く晴れ渡っていた

米津玄師「地球儀

先日、宮崎駿の『君たちはどう生きるか』を見たのだが、米津玄師のエンディングテーマが泣けたのだった。この、冒頭の一節が、とにかくバチッと決まっているのである。

生まれた日のことを、覚えているだろうか。どのような日であったか、知っているだろうか。たまに「覚えている」と口にする人がいるが、私はあまりそういう超常的なことは信じない質で、しかし、私の生まれた日がどういう日であったかは、何となく知っている。夏の、ある晴れた早朝だった——どうして知っているのかといえば、それは、母がそう話していたからである。

生まれた日のことを、確言として語ること。その裏に、繰り返し何度もその日のことを口にする母の姿が想像される。その日の空は、そうして伝聞を超えて、確かな事実として彼の心に刻み込まれている。そうして、その母の愛、誕生の祝福は、永遠に彼の生に付き添っている。

などと、エンディングでその一節を聞いたときに言語化したわけではないが、しかし、聞いてすぐに、その一節が母の愛に関わるものであることがわかって、映画の全体が語られてしまったような気持ちになったのであった。

映画全体、といえば、宮崎駿『君たちはどう生きるか』はなかなか難解で(だと私は思うのだが)、つまりこういう映画だったよね、と言い表すことが難しい映画なのだが、しかし、一息にまとめようとすれば、この「地球儀」の歌詞一篇なのだろうと思う。


20230808 追記

この歌を聴いて涙したという宮崎駿は、自身の作詞した「君をのせて」を思い出しただろうか。

あの地平線 輝くのは どこかに君を かくしているから
・・・
地球はまわる 君をかくして

宮崎駿「君をのせて」

宮崎駿の仕事とは、「地球」に「君」を探すようなものだったのかもしれない。ここで言う「君」とは、永遠に手にすることのない〈母〉であり、「地球」とは、ラピュタの浮かぶ地球でありアオサギが人語を口にする地球であって、私たちの生きる現実の地球ではないという意味で、「地球儀」に象徴される。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?