時の何かを知らない

一昨年から昨年にかけて書いた小説。原稿用紙142枚。縦書きPDF。

一 集合

 捜索は三月のある土曜の昼過ぎに始められた。
 その日はよく晴れていた。南風がやや強く、日向にいると暖かく、薄手のコートでも着ているとじんわりと暑さを覚える程であったが、日陰に入るとやはり時節並に肌寒く感じられた。
 その日、昼過ぎ、四人は校門を待ち合わせ場所としていた。
 まず現れたのは修二であった。学校は丘の上に

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杳子は女になれるのか?——古井由吉「杳子」論

学部の卒業論文です(2015年)。ひどいものだ。脚注などを再現するのが非常に面倒なので、目次と序論のみ載せておきます。本文に興味をもたれましたらPDFでお読みください。

目次

・序論
・一章 〈健康〉と〈病気〉
 ・反復としての〈健康〉とその対義語
 ・〈健康〉/〈病気〉の脱構築
 ・「おぞましさ」――異化
 ・「境い目」
・二章 〈女〉と〈少女〉
 ・〈女〉らしさと〈少女〉らしさ
 ・杳子を

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声、ひかり。

2013年あたりに書いた小説。我ながら、若い……。新人賞の二次で落ちたものの改稿、改題。原稿用紙189枚。縦書きpdfファイル。

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声、ひかり。

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 結局何も変わらなかった。お兄ちゃんの職の選択肢が一つ減っただけ——お父さんは毎日仕事に行くし、お母さんは家で洗濯をするの。

 僕が笑うと、彼女も少しだけ微笑んで、パーカーの紐の先を弄った。意味がないのよ。そう言う彼女の口元には

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あの夜と、あの夜よりも前の夜と、あの夜の続き

2015年、「軽いうつ」だった頃に書いた小説です。もう時効だろうということで公開します。原稿用紙96枚。縦書きpdfファイル。

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あの夜と、あの夜よりも前の夜と、あの夜の続き

 九月二十二日。徹夜明け、昼前に新宿の文房具屋に行き、万年筆と原稿用紙百枚を買った。医師の診断によれば「軽いうつ」で、もうまったく気力を失い、何十時間も眠り続ける日々の中で、万年筆を持って原稿用紙に向かってみるこ

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