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小説感想『愚者の毒』宇佐美まこと(読了:2023/8/14)


作品紹介

宇佐美まことの『愚者の毒』は2016年に祥伝社より出版された作品。第70回日本推理作家協会賞の長編及び連作短編集部門受賞作。

下調べ無しで手に取った作品だったけど中々面白かった。過去の因縁とか、過去パートと現在パートの混ざった構成とかが好物なもので……。あらすじで惹かれたのもあるけど、第一章の『武蔵野陰影』、第二章の『筑豊挽歌』、第三章の『伊豆溟海』という各章のタイトルが好き。

以下はあらすじの引用。

1985年、上野の職安で出会った葉子と希美。互いに後ろ暗い過去を秘めながら、友情を深めてゆく。しかし、希美の紹介で葉子が家政婦として働き出した旧家の主の不審死をきっかけに、過去の因縁が二人に襲いかかる。全ての始まりは1965年、筑豊の廃坑集落で仕組まれた、陰惨な殺しだった……。絶望が招いた罪と転落。そして、裁きの形とは? 衝撃の傑作!

引用:祥伝社HP

作品のポイント(ネタバレなし)

各章の時代設定は、第一章は1985年(一部2015年)、第二章は1965年、第三章は2015年が舞台となっている。2015年と1985年から見て、1965年に何が起きたのか?という点が作品全体を通してのポイントになる。

ネタバレにならない程度で内容に触れると、第一章では、人生どん詰まりの葉子(主人公)がふとした事がきっかけで希美という女性と出会い、親交を深めていく。

構成的には「起」「承」で、ミステリらしく伏線を張りながら、葉子が徐々に人生を立て直していくパートになる。

第二章は物語は過去に遡り、あらすじの『過去の因縁が~』の深掘り構成でいうと「転」と「結(50%)」というところで、物語のキモになる。物語の核心に迫るパートなので内容が重いのは当然として、情景の描き方も重々しい。

第一章は一部ヒューマンドラマ的な書き方なので「うーん……」という感想の人もいるとは思うが、是非第二章までは読み進めて見てほしい。

感想(ネタバレあり)

ミステリとして読んでも意外と展開は読めず面白かった。「展開が読めた」系のレビューもあるけど、順当に読めばそこまで極端に退屈することはないんじゃないかなという印象。

葉子と希美の生年月日が同じことの意味とかは、逆算すれば読めると思う。先生殺害の犯人なんかも消去法で分かるかもしれないが、トリック次第でどうとでも書けるよな~という気もする。自分は希美による乗っ取り展開は読めず、罪を被せる系かなと想像していたが外れた。葉子に保険証を貸した伏線も忘れてた。

全体を通して推理要素よりも、第二章の重苦しい雰囲気や生まれた環境による束縛の強さが印象に残る作品だった。第一章からの落差で重苦しい描写が光る。客観的に見て殺されても自業自得のような父親を殺して、それでも苦しむユキオと、ひたすらサイコパスな加藤の対比も良い。

ユキオの祖母理論だと、達也も人生のどこかでバチーンと算盤が合うことになるのかな、と思うと中々やるせない。

ミステリ読むぞ!と気構えていると退屈に感じるかもしれないが、情景の書き方が上手く、葉子の人生が好転するに連れて描写に色がついてくるような表現が綺麗で好み。


おわりに

情報無しでなんとなく手にした作品だったけど楽しめた。ミステリ要素よりも情景描写の上手さが印象に残った作品。

初めて読む作家だったが、幻想小説やホラー小説が多い?ようで、なるほどという印象。久しぶりにホラー小説読んでみようかな。

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