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ガナッシュ・パイ

ホームパーティーの途中で、
私の恋人はどこかへ消えた。
残されたグラスは空っぽ。
皿には吸い尽くされたチキンの骨。
招待客は夜が更けても、
野暮ったい会話をやめようとしない。
みんな親しげに挨拶しながら、
彼女のガナッシュ・パイに手をつける。

彼女の職場は華やかで、
清潔に保たれていた。
同僚たちは金勘定に追われ、
ベッドで夢も見ない。
満員電車で中吊り広告が、
新しい嘘をつく。
ベテラン俳優が、新人アイドルが、
彼女のガナッシュ・パイに手をつける。

私の本棚が推理する、
彼女の居場所を。
エドガー・アラン・ポーのボストンか、
ヘミングウェイのキーウェストか?
私の探求は『荒地』に投げ出され、
『ライ麦畑で』つかまった。
本の世界に浸りながらも読者は、
彼女のガナッシュ・パイに手をつける。

彼女は若かった頃、
キャサリン・ヘップバーンに憧れて、
ウェイトレスで生計を立てながら、
ゲイの演出家の舞台に出た。
太陽が沈むと、
月が高いところまで昇る。
そうやって街は今日までずっと、
彼女のガナッシュ・パイに手をつけてきた。

嫉妬深い天気が、
オデュッセイアを家に帰さない。
好奇心が古代の墓を暴く、
インディー・ジョーンズのように。
ジャングルは奥の奥まで湿り、
砂漠は果ての果てまで乾いている。
腹を空かせたチャップリンは靴の次に、
彼女のガナッシュ・パイに手をつける。

パイの味はいかがかな?
少々甘すぎたかな?
君たちがもっと刺激を求めるなら、
通りの女を買えばよかったのに。
私の恋人はグラマーではないけれど、
素敵な笑顔をしている。
見もしない、知りもしない輩どもが、
彼女のガナッシュ・パイに手をつけるのだ。

私はレンブラントの画集を見つけ、
その翌日から絵を描き始めた。
そしてパーティーの装飾にと、
聖母や聖人の絵を飾ったのだ。
だが若い招待客はトイレでファックし、
キッチンのゴミにはハエが群がっていた。
誰も私の絵を観ることなく、
彼女のガナッシュ・パイに手をつける。

誰が彼女のパイに
シナモンを混ぜ入れたのか?
私はアレルギーで死にかけ、
墓石の下で眠りかけた。
パーティーに彼女が戻らぬまま、
バンドはララバイを弾き始める。
救命士は私に同情しながらも、
彼女のガナッシュ・パイに手をつける。

クライ・ベイビー・クライ!
泣いてママにため息をつかせろ!
命は時々人を幸せにするが、
たいていは人を怒らせる。
夢で蝶が私になったのか、
それとも私が蝶になったのかーー
幼児だけが無心で、
彼女のガナッシュ・パイに手をつける。

彼女は私の誇りであり、
彼女は私の喜びであった。
私の軍隊ははるか昔、
トロイの海で全滅していたのかも。
「でもうまくいくかもしれないよ、
君が挑戦を続けるのならね」と、
ホメロスが語りかけている間、私は
彼女のガナッシュ・パイに手をつける。

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