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タイピング日記039 / りんごと熱湯 / 村上龍「文庫版コインロッカー・ベイビーズ」 103頁より

 乱暴な香具師と一緒に住んでいる女の回想として書かれている。盗癖のある女だ。生家が貧しかったのでこんにゃく屋に養女として出される。苛められる、食事は朝昼晩こんにゃくだけだ、空腹に耐えられず生家に逃げる、実の父親は辛抱が足りないと言ってひどい乱暴をする、理由なく顔を合わせるたびに殴る、実子はまだ三歳だったので屈辱感も少なく、自分は女中だと辛抱して学校に行かせて貰う、ある日三歳の幼児を風呂に入れている時熱湯をかけられる、実子は下腹に紫色のあざがあってそれを笑われたと思ったのだ、叔母の家を出た、行くあてがない、線路を歩く、疲れて休んでいると不具の酔っ払いが林檎をくれて事情を聞き、養女にしてくれるという、不具者は優しかった。戦争に応召されないのを強く恥じていた、盗み始める、女は不具者との平穏な生活の中で盗みを繰り返す、どうして盗みをするのか自分にもわからない、感化院へ送られる、半年後の出所の日、不具者が出迎えて、養女ではなく妻になって欲しいと言う、笑いながら拒否する、五十を過ぎた粗暴な香具師と一緒に住む、商売物の帯止めを盗む、発覚して小指を切られた、このあたりから文章が現在形に変わる、香具師と別れ盗みを繰り返し刑務所へ、中で、遠くの造船所に爆撃が加えられる音を聞き、日本が燃えつきるのを願う、熱湯の痛みは終生の友、林檎の酸は唾棄すべき平穏。


〈村上龍 文庫版コインロッカー・ベイビーズ 103頁〉

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