見出し画像

タイピング日記001「ミステリーの書き方/幻冬舎文庫より抜粋/福井晴敏」

あなたが学生さんなら、ただちにこの本を閉じてください。そして旅行に出かけるなり、多様な職種のアルバイトを経験するなりして、なるたけ多くの人と環境に接することをお勧めします。そこでの発見、喜び、いら立ちが、すべて後の作劇の肥やしになります。それができるのは今だけだと覚えておいてください。その上で、さまざまなメディア、さまざまなジャンルの作品に触れ、自分の感度に合ったもの(目標となり得るもの)を見つけるよう心がけていただければと思います。

あなたが就業なさっている方なら、余暇の貴重さはすでにご存じのことでしょう。やはりただちにこの本を閉じ、ひとつでも多くの作品に触れ、一分でも早く書き始めることをお勧めします。自分が目標とする作品に出会えたら、セリフを暗記できるくらいくり返し鑑賞してみてください。自分がどこで感動したのか、その感動を成立させるためにはどのような要素が積み重ねられているのか、自然と見えてくるようになりますから。また、メールやネットへの書き込みに時間を取られ過ぎるのは禁物です。それがなんであれ、物を表すということは「気」を吐き出すことでもあります。メールやネットで「気」を吐き出し過ぎると、それで文字通り気が済んでしまって、せっかくの才能を浪費する結果にもなりかねません。どんなことでも、思いの丈は作品のために取っておくべきです。

 最後に、「作家になりたいけど、なにをどう書いたらいいかわからない」という方。作家になるために書く、というのは順序が違いますし、書くために作家になる、というのも少し違っています。この仕事に就く人は、考える前に書いてしまっているものです。業病のようなもので、なにをおいても書かずにはいられない哀れな人々なのです。プロになれるかどうかは、純粋に結果論です。技術は後からついてきますから、書きたい衝動はあるなら恐れずに書き、まずは自分の言葉で世界を切り取る修練を積んでください。小手先の技術や方法論を学んで新人賞に引っかかっても、長続きはしない物だと忠告しておきます。

自分同様、多くの読者も人同士の関わりあいにドラマの醍醐味を見出しているということ。もうひとつは、奇抜なトリックも新奇性

あふれるアイデアも、人間が描けていない限り、宝の持ち腐れになってしまうのだろうということです。大衆が求めるのは普遍的な人間ドラマなのです。

 まずは人間に興味を持つこと。持てないなら、持てない自分があがくさまを照れずに描き出すこと。いろいろ書きちらかしましたが、小説を書くコツはこの大原則に尽きると思います。あとは、一本の作品を描ききるのに必要な体力と、病的な執念をどこまで維持できるか、でしょう。


福利晴敏/wikiより抜粋

福井 晴敏(ふくい はるとし、1968年11月15日 - )は、日本小説家
※ 本人的には現在どちらかというと「アニメ作家」であるという認識を持っている[1]。詳しくは後述。

東京都墨田区生まれ。私立高輪高等学校卒業、千葉商科大学商経学部経済学科中退

メディア関連などでは一貫して一人称を「俺」としている。

よろしければサポートおねがいします サポーターにはnoteにて還元をいたします