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雨の朝にコーヒーを淹れて

コーヒーメーカーを買い換えた。
スタイリッシュな黒のボディ、コンパクトなのに、豆も挽いてくれる。
しかも予約機能まである。
これをネットで見つけたときは、「ほしい!」と思わず叫んでしまった。

朝起きたら、コーヒーがすでにできているなんて、夢のようだ。
そんなことができるなんて、60を過ぎても考えたこともなかった。
早朝の作業は失敗が多いから、なるべくじーっとしているに限る。
目が覚めるのを待ちながら、(コーヒー飲みたいなぁ…)とうだうだ思っているだけだったのに。
予約って、すごい。

翌日、実物を確認しようと、近くの家電量販店へ行く。
目当てのコーヒーメーカーの前にいると、店員さんが近づいてきた。
「このコーヒーメーカーは……。豆でも粉でも……予約機能……。メンテナンスも……」

すでに十分調べてきているので、知っている。
うんうんと頷きながらも、気になるのは値段。
それに、まだ十分使えて、壊れてもいないのに新しいものを買うという、その罪悪感で胸がチクリと痛んでいた。
パンフレットをいただき、早々に退散した。

結局、ネットで注文した。翌日には届き、すぐに開封し、ひとまず調理台のど真ん中へ。
これで朝起きたらすぐコーヒーが飲める。思わずにやけた。
寝室も近いから、香りも届くかもしれない。
予約機能をセットし、浮かれ気分で眠りについた。

翌朝、ぽつん・・・。水の音がする。
昨夜のことを思い出す。うっすら香りもするような。
コーヒーが落ちる音なのか?
ぽつん・・・漆黒の液体が一滴一滴落ちていく様子が、ぼんやりと浮かぶ。

いいね、こんな朝を待っていた。

ぽつん…ぽつっ…サーッ…。あれ?もっそりと起き上がる。
カーテンを開け、窓の外をみる。
春の雨が、静かにサラサラと降っていた。

こんな日はキッチンの整理をしよう。
新入りの場所を決めないと。
古株はとりあえずしまって、それから…。

その前に、まずはコーヒー、コーヒー。

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