激越__プロ野球県聞録_C_

◇プロ野球小説をPR! 1

〈文芸デジタル新企画〉「すばる」から生まれた電子書籍レーベル――「すばる Digital Book」。
 その新たなる電子書籍レーベルのために……書いて走って守って打って、ハイ、そこで出ました!
 自称「プロ野球小説」第二弾は純文学×プロ野球×都道府県!?
 平成プロ野球史の一頁、かつてそこにあった危機「球界再編問題2004」の、数々の名場面と、派生的諸問題及び周辺的小事件の裏に潜む真実とは――。


「やあ、拡張プロ野球世界にようこそ……それで君、君はどこの球団親会社ファン?」

 あのオーナーに、企業上層部に、各界の大御所連中に、ただ「声を届ける」ことを心に誓って、彼らは故郷新潟を離れ「隠密」の旅をつづける。そこには球団親会社の企業活動そのものともいえる、宣伝や販売促進のための、あるいは顧客やスポンサーにアピールする、さらにはチケット収入や放映権料で稼ぐ、産業としてのプロ野球があった。

 また全国各地に球団本拠地のドーム球場があり、歴史にその名を刻む伝統球場があった(……北は後発の「SAPPORO雪祭りドーム」と「仙台楽市マーケット球場」から、関東には五球場のほかに伝統と荒廃の「カワノサキ球場」、南は「博多どんたくドーム」まで)。かたや年間二、三試合の地方シリーズ公式戦開催が、かたや春季キャンプでのチーム滞在さえもが、各地方球場の現地の人びとを大いに熱狂させていた。

 一都三県または関東甲信越及び静岡県に、二府四県と愛知県に、太平洋ベルト上の「プロ野球県」に、様々な新名所や発祥地が生まれ、伝説の地や野球遺跡が残されていた。日本プロ野球記録を別にすれば、彼らは最新のものよりも最古のものが好きだ。また地元から球団が去って旧本拠地球場が取り壊された後までも、なお旧チームの面影が人びとのあいだで長く記憶されていたりと、それは観光資源でなければ、あたかも無形文化遺産であった。

 彼らはまた、米どころたる地元の越後平野や魚沼丘陵のみならず、隣県の富山県魚津市内で「一九一八年米騒動発祥の地」を県聞し、また遠く九州の佐賀県唐津市内では「水田耕作発祥の地」なる縄文晩期の遺跡を県聞するだろう。それぞれ最寄りのJR駅を降り、場合によっては駅前からタクシーを飛ばして。

 さて魚津と唐津、ついでに滋賀県庁のある大津市(某レオ球団保有企業の創業家ゆかりの地)だとか、同県内の草津市(むやみと足止めを食いそうな群馬の山奥の温泉地ではなく)にも立ち寄ってみるべきか。そしてきっと三重県の県庁所在地・津市にさえも……。あの焼津港の焼津市も、佐渡の旧両津市なんかもつけ加えたいところだが、一方でまた日本全国津々浦々の「浦」ともなるとさらに数が増すようであり、それこそ全国に無数のそれ――東京芝浦から始まって、浦和も浦安も三浦半島も巡ろうし、土浦から霞ヶ浦を遠望したり、西日本で壇ノ浦の海を渡ったり、挙げ句は日本海に浮かぶ新潟県岩船郡粟島浦村まで――が待ち受けていた(と、必ずしも本編中ですべての土地を巡るわけではないのだが)。

つづく


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激越せよ、激越せよと呼ぶ声あり。

砂利道と鉄のレールと列車の屋根。

それはいつ果てるともない、終わりなき旅の記録なのだ。

激越!! プロ野球県聞録

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